後輩が国際誌載りました

名古屋大学の後輩が,Studies in Second Language Acquisitionという国際雑誌に論文を載せました。

彼の修士論文がベースの研究です。いやー感慨深い。寺井くんは私が博士修了したのと同時に入学してきたいわゆる入れ替わりなので,実際に大学院で一緒の時間は過ごしていません。ただ,私が博士課程の4年生だったとき,急に個人のメールアドレス(公開はしてた)に「ある地方国立大学で中学校英語を専攻している」寺井ですみたいなメールをもらいました。当時は,「ある地方国立ってなんやねん大学名言えよw」って思ったりしました。

ぜひ名古屋大学に進学したいというような話で,じゃあ一度会いましょうかってことになって名古屋の焼き鳥屋でほかの院生仲間と飲んだのを今でも覚えています。その場に印刷した研究計画書ももってきていて,それを見ながら,学部生でこれはすごいなぁ。よく勉強してるなぁと思いました。

ところが,と言っていいのかはわかりませんが,私個人の印象としては大学院に入学してから「伸び悩んだ」印象でした。最初の印象がよかったのでハードルが上がりすぎていただけなのかもしれませんけど。

私と同じで地方国立の教育学部出身で,そこから研究を目指したという意味では彼と私にには似ているところがあります。そして,頭の中で起こっていることに興味がある(認知的なところに興味がある)という意味でも似ているところがありました。彼は語彙に興味があって,私は文法に興味があるわけですけど。ただ,そういうバックグラウンドが似ているところもあって,実践への示唆を目指した部分と,それとは別に純粋に認知科学的な興味の葛藤というのがとてもよく理解できました。当初はどっちつかずなところが多かったような印象です。それを徐々に形付けていくなかで,今回の論文のような形にまとまったのかなと。別に自分が彼の研究に影響を及ぼしたとは一ミリも思ってないですけど。

ただ,彼のことは私もずっと気にかけていて,大阪と名古屋と離れた場所にはいましたが,週に1度,「ゼミ」と称してSkypeで2時間みっちり研究のことについてやりとりする機会を持ってきました(最近は別に読書会ということでLangackerのCognitive Grammarからのusage-based系の論文を読む会をやってるので隔週開催になりました)。1対1ではなく,中央大の福田先生も呼んで3人で今でも続けていて,slackにある記録によると次回が78回目の開催になるようです。そういう中で生まれたのが先日J-SLAで発表したものです。

正直に言うと,寺井くんは”私から見て”未熟だと思う部分がたくさんあって,本気で怒ったことも数え切れないくらいあります。研究に関することもありますし,それに向かう姿勢的な部分もありますし,舐めてんのかって思ったこともありました。あんまりスポ根みたいな話にはしたくないんですが,それでも彼の研究について議論したり,たまに彼のキャリアだったり院生生活的な部分の話もたくさんして,それを彼が真摯に受け止めて,「ソルジャー」ぶりを発揮してくれた一つの結果として今回のことにつながったのもあるかもしれないなと思っています(繰り返しですが,載せたのは彼で修論なので指導したのは山下先生です)。

修士論文に基づいた研究を国際雑誌に載せるという試みはそれこそ名古屋大学(あくまで私の分野に限る話です)でその道を切り拓いたパイオニア的存在である福田先生に続く快挙です。今は海外の大学院に在籍している日本の院生がバンバン国際誌に載せる時代になってきているので,国際誌に載ること自体がもしかすると「普通」という感覚もあるのかもしれません。それでも,名古屋大学のわたしの分野でいえば院生在籍中に国際雑誌に載せた例は稀少です(私自身も博士課程時代にやった研究を在籍中に国際雑誌に載せることはできませでした)。

私は名古屋大学に在籍中,後輩の指導をうまくできませんでした。私の先輩である草薙さんが私にしてくれたことを思うと,私が大学院在学中にどれほど後進の育成に貢献できたのかということは自信がありませんでした。私が大学院に在籍していた当時は,「名大の院生」というのがある種のステータスで(それは主に草薙・福田の功績),分野の学会で勢いのある若手のイメージを植え付けたのではないかと思います。彼らがいなくなったあと,私は苦しみました。自分の力もないし,自分の後輩を輝かせることもうまくいきませんでした(後輩のみなさんごめんなさい)。

そういう思いの中で,直接は一緒に院生時代を過ごしたわけではないんですが,あの,九州の田舎から出てきた子が,紆余曲折を経て,SSLAという雑誌に論文を載せたということは,私が名古屋大学に在籍していた意味を1ミリくらいは残せたかなという気持ちになりました。

もちろん,それは私が一緒に時間を過ごした西村くんや三上くんがやってきたことに対しての評価をしていないということではまったくありません。彼らは彼らの場所で頑張ってると思います。ただ,寺井くんに関しては,入学前に個人的に連絡をくれたことや,研究の相談を含めてこれまでいろんなことを伝えてきたからこそ,個人的な思い入れがやや強いっていうだけです。

今後は寺井くんが主導する後輩との研究だったり,寺井くんの後輩の名大の院生の研究に期待したいなと思います。願わくば,私の所属先である関西大学外国語学部に,私の「後輩筋」にあたるひとが就職してくれたら私としてはこの上ない喜びです。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

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