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明示的・暗示的知識に関する新しい論文が出版されました

はじめに

福田さんと一緒に書いた明示・暗示的知識について批判的な検討をした論文が,Studies in Second Language Acquisition(SSLA)に掲載されました。

Tamura, Y. & Fukuta, J. (2026). A critical examination of the relationship between explicit and implicit knowledge and language teaching. Studies in Second Language Acquisition. Advance Online Publication https://doi.org/10.1017/S0272263126101946

ざっくりと論文の内容を説明すると

この論文で言いたかったことをものすごく雑に言うと,「明示的知識・暗示的知識って,何かを説明した気になっているけど,実際には説明になっていないのでは?」ということです。さらに,その区別を使うことで,教え方や学習者の理解について何がわかるようになるのか。そこも一度立ち止まって考えたかったんですよね。

授業で教えた文法が,実際の会話ではなかなか出てこないっていうの,言語教師なら誰しもが直面しますよね。こういった現象を説明するために(もちろんそのためだけではないのですけれども),第二言語習得研究では学習者の知識を意識して説明できるような「明示的知識」と,意識せずに使える,母語話者の流暢な言語運用を支えるとされる「暗示的知識」に分けて考えることが広く行われてきました。今回の論文で検討したのは,この区別がそもそも成り立っているのか,という点です。先行研究では,測定の方法にいくつもの問題が積み重なっていました。本来は複数の課題を組み合わせて初めて意味を持つはずの指標が単独で使われていたり,どの課題がどちらの知識を測るのかについて研究者の見解が一致していなかったりします。

さらに,教室場面で使いやすい課題ほど,どちらの知識が使われたのかを切り分けられなくなります。なぜなら,私たちが言語を使う時には,どちらの知識も総動員されるからです。意識的な知識が介入しないと理論的に想定されるような課題をやって暗示的知識を測定しようと思えば,かなり心理言語学的な実験課題をやることになります。でもその課題は,教室の指導の一環としてやるには実際の言語使用からかけ離れてしまうという問題です。

そして,多くの場合,明示的知識や暗示的知識が説明に使われる時には「この生徒は明示的知識はあるが暗示的知識はまだない」という形式になります。

これだと,課題成績の違いから知識の種類を推論したうえで,その種類によって当該のテストの成績の違いを説明していることになり,循環論法になってしまいます。この区別を捨てるべきだとまでは考えていませんが,明示的知識・暗示的知識の話を教室に持ち込むときには,これまで以上に慎重であっていいのではないか?ということで,もしも研究者が明示・暗示という区別を研究で使うのであれば,最低限これだけは守ってくださいねという”Conditional Principles”というものを最後に提案しました(この提案がなにかはぜひ論文をお読みください。オープンアクセスでどなたでもお読みいただけます)。

ちょっとした昔話

明示・暗示についての主に測定の観点からの批判的な検討というのは,2010年代前半頃にメソ研(LET関西支部メソドロジー研究部会)で盛んに議論されていたトピックです。そこから,明示・暗示という知識の二分法を指導法と結びつけることについて,2016年に私自身がこのブログに書いた問題意識(https://tam07pb915.com/2016/08/25/implicit-explicit-instruction/ )をベースに,キソケン世代の田村と福田がたどり着いたアンサーソングがこの論文です。読んでください。どうぞ。

「メソ研はメソドロジーでブーム起こしたけど、キソケン世代は何やってるの???」(大意)

っていう,博士終わる頃だったか関大に就職したころだったかに言われた問い(これを私に伝えてくださった方は覚えていらっしゃらないかもしれませんが,私は当時これを言われたことがまあまあ深く刺さりまして。多分,これ言われた直後に福田さんに「こんなこと言われちゃった。俺はだめだ。」みたいな相談をした気もします)。今回の論文は,自分に課せられたこのデカい問いに対する自分なりのアンサーでもあります。

あと,自分は新谷奈津子にはなれないし,水本篤にもなれないし,浦野研にもなれないし,亘理陽一にもなれないし,草薙にもなれないし、鈴木祐一にもなれないし(敬称略,順番は頭に浮かんだ順です)。俺は田村祐だ。スーパーオリジナル!そんな気持ちもあります(※ハイボール6杯飲んだ時に書いた文章です)。

参考:

https://www.uta-net.com/song/15264/

ちょっとした出版までの背景

それと,招待論文ではなく,意見論文を通したっていうのも個人的には嬉しいなって思っています。上に書いたとおり,元々は2016年に書いたブログ記事の問題意識があって,どっかで論文にしておかないとな〜と思いつつ,ずっと放置してしまっていたんですよね。それこそ博論の研究をパブリッシュしないといけないなとか,科研の研究のデータを取らないと,とかもありましたし。それでも,明示・暗示に対する問題意識自体はその後も継続して持ち続けていて,でもなかなか論文にするところまでもっていけていない状態でした。数年前には,もう学部の紀要にとにかく出しておくか,というところまでいきました。それ用のメモも残していましたが,それすらできませんでした。

そこから,締切のあるとある国内学会の紀要に出そうと決意して,とりあえずタイムリミットを設けて自分にプレッシャーをかけて投稿しました。ところがどっこい。こういう意見論文って,学会の紀要だとそもそも枠として受け入れられない感じになっているんですよね。実証研究というのがメインだから。実践報告みたいなのはあるけど,データのない論文っていうのは,査読するのも難しいですしね。ということで,まあダメ元で投稿したからそうなるだろうなというのも覚悟はしていたのですが,査読ができないということでデスクリジェクトというクリスマスプレゼントをもらいました。その後すぐに体裁をSSLA仕様に作り直して再投稿しました。

R&Rを2回して,3回目はエディターのチェックのみでアクセプトという流れでした。R1で査読者2人,R2ではR1からの継続1人+新規査読者1人追加で,R2で新しい論点を指摘されて結構がっつり修正もしました。

関連する論文が所収されている書籍もぜひ

10年越しでのパブリッシュ。でも,分野の内側への批判的な論文も出るような流れがある今だからこそ,この問題意識が査読者にも理解されたのかなという気持ちもあります。

ちなみに,「俺はこっちの論文よりブックチャプターの論文のほうが完成度高いと思ってたんだけどな」と福田さんに言われた論文が所収されているのがこちらの書籍。

こちらは,「Psychological approaches to the ‘Dual-System Model’ in SLA」というタイトルで,教育への応用ということだけではなくて,もっと理論的な部分にフォーカスして明示的知識・暗示的知識について批判的に検討しています。以下,こっちのアブストラクトです。

This chapter critically examines the application of dual-system models in Second Language Acquisition (SLA) by drawing parallels with the dual-process framework from cognitive psychology. While the implicit/explicit knowledge distinction has played a key role in SLA theory and practice, recent critiques of dual-system models in psychology — such as logical inconsistencies, oversimplification, and the switch problem — emphasize the need for a deeper reevaluation of SLA’s theoretical underpinnings. By distinguishing between instrumental and substantial views, this study argues that if the goal is to investigate the cognitive mechanisms underlying conscious and unconscious knowledge, the focus should shift from a functional categorization of knowledge (implicit/explicit) to the underlying mechanisms themselves. This approach highlights the limitations of existing models, such as Skill-Acquisition Theory (SAT) in SLA, and advocates for integrating personal and subpersonal levels of explanation to address long-standing questions in SLA. The chapter concludes that a more flexible and context-sensitive integration of dual perspectives is essential for advancing theoretical development and practical applications in SLA research.

認知心理学においても,いわゆる「デュアル・メカニズム」に対する見直し的な動きが起こっていることを援用して,そこでの批判って,SLAの明示・暗示にも当てはまるところ結構あるよね?っていう。

このブックチャプターを書いていたからこそ,今回の論文も書けた,というところはあると思います。実際,SSLA論文でもブックチャプターの論文を引用していますしね。ちなみに,こっちのブックチャプターの原稿に基づいて行ったのが,昨年度のLET全国大会での発表です。この発表に関心を持たれた方は,ぜひ,今回のSSLAの論文も読んでいただきたいなと思います。

おわりに

私の後輩である寺井くんが修論をSSLAに通したとき,まだ博士修了&関大就職直後でトンガリ絶好調だった私は彼に対して,「俺はあんな権威主義の権化みたいなジャーナルには一生出さねーよ」とか言ってたんですよね。嫉妬半分本音半分。あんなデカいこと言っておいて,結局SSLAに出してしまったことを謝ります。ごめん。

ここまで読んだ古参ツイッタラーの皆さんは,田村がTwitterに現れてからの15年のあれやこれやのエピソードと,最強盆栽と英語教育0.2の成長に思いを馳せながらお酒を飲んでくださいな。古参ツイッタラーではないのにここまで読んでくださった方,ありがとうございます。論文読んでいただいて,この問題についてぜひいろんなところで議論してください。

私は久しぶりに,福田さんとZoom飲み会をしたいと思います(いやそんな暇はないかもしれない)。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

【宣伝】TBLTの連載が始まりました(第1回公開)

はじめに

このたび,アルクの『Web版 英語の先生応援マガジン』で,Task-based Language Teaching(TBLT)についての連載を始めることになりました。全3回で,タイトルは「英語を『身につける』とはどういう経験かータスクから考える英語授業」です。その第1回がこのたび公開されました。登録は必要ですが,無料でお読みいただけますので,少しでも多くの方にお読みいただければと思います。

記事はこちら:TBLTとはなにか―PPP型授業との違いを整理する(https://alc-nds.com/k-alc-magazine/2026/07/task-01/)※ログイン・会員登録が必要です

「効果的だから」とは書きません

宣伝の記事なので,本当なら「TBLTは効果的な指導法です,ぜひ授業に取り入れましょう」と書くのが筋なのだと思います。でも,この連載ではそういうスタンスを取らないと決めてから構想を練り始めました。第1回の冒頭でもはっきり宣言しているのですが,「TBLTは英語力を伸ばすのに効果的なのだ」という立場から書くつもりはありません。

これは以前このブログにも書いたこと(例:『英語教育』2023年5月号記事の補足)なのですが,私にとってのTBLTは,研究によって効果が「科学的に」証明された方法論だから選んでいる,というものではありません。正直なところ,単に自分の言語教育観にマッチしているからそういうアプローチにシンパシーを感じている,というのが正しいです。

そういう「効果的」というのとは別の観点から,「タスクを授業に取り入れること」ってどういうことなんだろうということを考えたいと思っています。

じゃあ何を書くのか

その代わりに連載を通して考えたいのは,TBLTと,多くの教室でおなじみのPPP(Presentation-Practice-Production)との違いは,一見すると「授業の手順の違い」に見えて,実はもっと根っこのところにある,ということです。

形式を先に教えてから使わせるのか,それとも,使いながら必要な形式に出会っていくのか。これは単なる技術的な選択ではなくて,「英語を”身につける”とはそもそもどういう経験なのか」という学習観そのものに関わってくるわけです。そこを読者のみなさんと一緒に考えていきたい,というのが,私がこの連載を引き受けた理由です。

第1回で書いたこと

第1回では,その入り口として,こんなことを書きました。

  • そもそも「タスク」とは何か(意味中心であること・ギャップがあること・学習者が自分のリソースを使うこと・言語外の明確な成果があること,という4つの条件)
  • タスクを使った授業って具体的にどんな流れになるのか(プレタスク → メインタスク → ポストタスク)
  • TBLTへのよくある誤解(「文法を教えない」「タスクをやらせて放任するだけ」って本当?)

なるべく抽象的な話が中心にならないよう,教室での具体的なイメージが持てるように書いたつもりです。「3つのうち1つは嘘」を質問攻めで見破る,といった具体的なタスク例も入れています。

これからの予告

第2回では,TBLTのメリットとデメリットを正面から扱います。ここが連載の山だと思っていて,そのメリットを「英語力が伸びるかどうか」だけで測ろうとすると,かえって本質を見誤るのではないか,という話をするつもりです。第3回では,日々の授業で先生方が扱う教科書を中心とした既存の教材とTBLTがどう折り合うのか,というもう少し地に足のついたところを考えます。

おわりに

依頼としては,「高校の英語の先生に向けて」と言われたのでそのイメージで書いていますが,どの校種の先生方にも,あるいはどの言語の教育に携わる先生にも興味をもっていただけるのではないかと思います。ぜひ,ご登録いただき,連載をお読みいただければと思います。また,Xで感想をポストいただいたり,あるいは,匿名の質問サービス(https://querie.me/user/tam07pb915)で感想をお寄せいただけたら嬉しいです。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

名詞の数の処理に関する実験の論文が出ました

はじめに

日本語を第一言語とする英語学習者の数の処理について,International Journal of Bilingualismから論文が出ました。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/13670069261422017

Tamura, Y. (2026). Singular–plural asymmetry in L2 English number processing: A sentence-picture matching study of Japanese learners of English. International Journal of Bilingualism. https://doi.org/10.1177/13670069261422017

オープンアクセスですので,どなたでも全文ご覧いただけます。論文の要約は私の個人ウェブサイトに記事を書いたので,そちらを引用しておきます。

日本語を第一言語とする英語学習者が,英語の単数・複数形を文処理中に自動的に概念的意味へとマッピングできているかどうかを調べた研究です。

先行研究(Jiang et al., 2017)では,文中に単数形名詞が出てきたとき,それが複数の物が写っている写真とペアになると,母語話者の反応時間が遅くなることが示されていました。これは,文処理中に単数形の意味(=1つ)が自動的に活性化され,写真の内容との概念的な不一致が干渉を生んでいることを意味します。ただし,Jiang et al. の研究では「単数名詞×複数の写真」という一方向のミスマッチしか検討されていませんでした。では逆方向,つまり「複数形名詞×1つの物の写真」ではどうなのか,については誰も調べていなかったのです。

本研究では,文と写真のマッチング課題を用いて,この両方向のミスマッチを同時に検討しました。実験の仕掛けはこうです。まず参加者に写真(物が1つか3つ写っているもの)を見せ,続いて写真の内容(物の位置や色)を説明した英文を提示します。参加者は「文が写真を正しく説明しているか」をできるだけ速く判断します。肝心なのは,ターゲット試行では単数・複数のミスマッチが仕込まれていること,そして参加者には「数のズレは気にしないでいい」と明示的に教示している点です。それでも反応時間に遅れが生じるならば,数の処理は意識的な注意とは独立して自動的に行われている,ということになります。L1英語話者32名と日本語がL1の英語学習者96名を対象に実施し,反応時間データを逆ガウス分布の一般化線形混合モデルで分析しました。

結果として,L1英語話者は両方向のミスマッチで反応時間の遅れを示しました。単数名詞が複数の写真とペアになっても,複数形名詞が1つの物の写真とペアになっても,どちらも干渉が起きていたわけです。一方,L1日本語英語学習者は,単数名詞が複数写真とペアになった条件では反応時間の遅れが見られたものの,複数形名詞が1つの写真とペアになった条件では有意な遅れが見られませんでした。

この非対称性の説明として,本研究では意味的有標性(semantic markedness)の概念を援用しています。単数形の意味(=正確に1つ)は精確で特定性が高いのに対し,複数形の意味(=1より多い)は本来ぼんやりしていて,特定の数を指すわけではありません(Sauerland et al., 2005; Patson et al., 2014)。学習者にとっては,この「単数のクリアさ」があるからこそ自動的な概念マッピングが成立するが,「複数の意味のぼんやりさ」に加えて,日本語には義務的な複数形形態素が存在しないという母語の影響(Morphological Congruency Hypothesis; Jiang et al., 2011)も重なり,複数形と複数概念のリンクが自動化されるに至っていない,という解釈です。

この結果がとくに重要なのは,これまでの研究の解釈に修正を迫る点です。Tamura (2025)でも論じたように,先行研究で見られてきた学習者の複数形態素への「非敏感性」は,複数形を処理できていないとか意味が載っていないということを必ずしも意味しません。本研究の文脈では,単数形から複数形への方向ではきちんと干渉が生じていることから,問題は形式と意味のマッピングの有無ではなく,その自動化の度合いや方向性によって異なる,という可能性を示唆しています。両方向のミスマッチを一つの実験で検討したのは本研究が初めてであり,この非対称性を明らかにした点に独自の意義があると考えています。

https://tamurayu.wordpress.com/2026/02/27/tamura-2026/

出版に至るまでの裏話

最初は,元の研究になっているJiang et al. (2017)の追試研究として書きました。もともと博論を構成する研究のうちの一つだったのですが,そのときは実験2つを組み合わせた解釈をしてたから割といけたんですが,この実験だけ取り出して新規性とか議論を膨らませるのが結構難しくて,全然書き進められていなかったのが原因でした(5000語くらいでずっと塩漬けになっていました)。

そこで開き直って追試として論文書いたら,元研究との比較を軸にディスカッションできるなと思ったのです。ところがまあそれはリジェクトされてしまいまして。そのアプローチはうまくいかんかー。ということで,元々書いていた追試ではないオリジナルリサーチの方向でなんとか最後まで書き切って別のジャーナルに投稿しました。しかしそれもまた落ちまして。

どうするかーと悩んでいたところで,Jiang et al (2017)が掲載されているIJBに出そうかなと考えました。IJBは語数制限が厳しいので,イントロもコンパクトに,ディスカッションもコンパクトにという感じで,逆にそれがこの研究には良かったのかもしれません。

投稿したらエディターに,「うちはもうSLAの論文載せてないのよ〜バイリンガリズムとSLA研究は違う分野になっちゃったからさ」(大意)みたいなことを言われて,「まあでもconvince meしてくれたら査読回すよ」(大意)と言われたので「いやバイリンガリズムの観点からも意義ありまんがな」と必死にアピールして査読に回してもらい,査読自体は時間はかかりましたが,さほど査読プロセスは厳しくなくminor revision -> acceptとなりました。

この実験の着想

英語には,名詞の単数・複数を形で区別する仕組みがあります。この複数形形態素の習得というのは,簡単そうに見えて実は数の一致の誤りにはなかなか気づけないこともあるなど,第二言語習得研究の関心事でした。私の博士論文は,「数の一致」の誤りに気づけるかどうか,という,いわゆる誤文反応検知(anomaly detection)
先行研究(Jiang et al., 2017)では,「単数形の名詞と複数の絵を見せると,母語話者は処理が遅くなる」という結果が示されていました。つまり,頭の中で「あれ,合ってないぞ」という衝突が起きるわけです。

ところが,Jiang et al. (2017)では,「単数形名詞 vs. 複数の絵」という実験はありましたが,「複数形名詞 vs 1つの絵」(実験3)では常にseveralやtwo,manyのような語彙的な複数を表すマーカーが含まれていて,これがあると不一致条件で遅れが出る(例:several paper bagsと読んでbagが一つだけなら遅れる)という結果が出ていました。しかしながら,こうした語彙的サポートがない複数形名詞の処理で反応時間が遅れるのかということは実験されていませんでした。私は,それをやって初めて,複数形の形態素をどう処理しているのかがわかるのではないか?と考えて,今回のような実験をするに至りました。だって,「単数形名詞 vs. 複数の絵」の条件では,実際には言語として複数形名詞を処理していないわけですから。

リジェクトされた原因

2回のリジェクトの割と大きい理由のひとつは,元の研究と実験の手順を微妙に変えたことなんです。この課題の肝は,上の要約にも書きましたが,絵と英文の位置関係を判断する課題の中で,物体の数が異なったりしているという条件があることです。例えば,

(a)The red onion is right above the yellow cup.

という英文を読んで,でも実際に見えている画像には黄色いカップが3つあるという単数名詞不一致条件と,

(b)The birds are on the right side of the orange cups.

という英文を読んで,実際に見えている画像にはオレンジ色のカップは1つしかないという複数名詞不一致条件がありました。

このような数が一致しない条件でも,「カップの上に玉ねぎ」とか,「カップの右に鳥」というような位置関係は一致していました。

英文が表している空間的な位置関係は正しいが,名詞の単数・複数に違いがあり,その時に,この「数の違い」に反応して,「あれ?数が違うぞ?」となって反応時間が遅れるかどうかというところがポイントです。オリジナル研究のJiang et al. (2017)では,「位置関係だけに着目して「絵と英文がマッチしているかどうか」を判断するように求められていました。

ところが,私がこの実験をやる前に行ったパイロット調査で,「数が違うときに,合っていると判断したらいいのか,どうしたらいいのか迷った」というコメントが英語母語話者からも日本語話者からも複数聞かれました。指示の曖昧性がある状態で実験をするよりも,思い切って,明示的に,「数が一致しなくても無視して,絵と英文の一致を判断する」としたほうが良いだろうと判断して,私は実験前に,名詞の単複の違いは無視するように参加者に伝えました。

結果として,Jiang et al. (2017)では学習者群で反応時間の遅れが見られなかった(a)の条件で反応時間の遅れが見られたんですよね。ところが,(b)の条件では遅れが見られなかったのです。この結果をどう解釈するのかというのが結構難しくて,最終的に意味的有標性という概念を使いました。これは博論でも使っています。

ところが,査読者(おそらくNan Jiang先生かあるいはあの研究の著者のどなたか)からは,指示を変えたのが結果が変わった大きな要因だ。元の研究と同じ条件でもう一度実験をやり直すべきみたいな感じで言われました。「練習試行で慣れさせれば,明示的な指示を与える必要はない(私たちはそうだった)」みたいな。私としては,でも,母語話者は指示があってもどっちの不一致条件でも遅れているわけで,その指示が母語話者には影響しなくて学習者にだけ影響したのか,どうやって説明するんですかという気持ちでした。さらに,その指示の影響でどちらの条件でも有意差が出たり出なかったりするのならまだしも,片方は有意差があり,片方の条件では出なかったという非対称性についてもなぜそうだったのかの説明が必要になります。

やめないこと

博論を構成する研究は,未出版のものであることというのがまあ約束としてあったのですが,それは,就職して間もないころは忙しいので,すでに出来上がった研究を投稿論文にすることでとりあえずは「食いつなげるように」ということだったわけですが,私はそれすらもできずに,結局この研究を8年間も引っ張ることになってしまいました。情けないなと思う気持ちもある一方で,辞めなかったことだけはポジティブにとらえています。そんだけ時間が経っていたら内容のことも記憶から薄れてしまっていますし,時間とともにモチベーション自体もやっぱり下がってきます。この論文の投稿プロセスについて相談していたGeminiには次のような厳しいことも言われましたしね…苦笑

昔,私の先輩である草薙さんが,

研究者は自分を「書けないタイプ」だとみなしたら終わり。せいぜい「たくさんは書けないタイプなだけ」とか「今はまだ書けないだけ」と思うこと

というアドバイスをしてくれました。たぶん,このブログでも何回か書いたことのある話ですね。

私は就職してからずっと,自分はたくさん論文を書けるタイプではないと思っていました。就職後2年間は本当にそうでしたし,コロナ禍後に心がボロボロになったときも,「今はまだ」と思っていました。でも,とにかく辞めない,書いて投稿することをどんなにペースが遅くてもやり続けようと思ってここまでやってきました。私の場合,研究をデザインして出版までいくのに平均して3-4年はかかっているので,時間はかかりすぎているとは思います。でも,何もやらないよりは100倍ましだと思ってやっています。私は一流の研究者でもないし,たくさん引用されるような論文を書いているわけでもない,人より優れた才能があるわけでもない,平々凡々なただの人ですが,とにかくやめないこと,これだけはこれから何十年も続けたいと思います。

最近,「博士課程で連続的に成長する」というnote記事を読みました。

私はもう「まずは一本だ出す」とかそういう段階は通り過ぎた研究者ですが,「前に進んでいない感覚」は今でも持っています。関連するようなことをnoteの方にも書いています。

同じ4年間と違う4年間と次の4年間

「次の4年間」

前に進んでいる感覚はないけれど,とにかくやり続けて,最後に最終講義(というようなものが未来に存在するかわからないですが)とかで,自分のこれまでの研究人生を振り返ったときに,「まあ,なんかやったっちゃやったわな」と思えたらそれで御の字だなと思います。

おわりに

最後はなんかちょっと論文の紹介からズレてしまいましたが,これからもほそぼそとやっていきます。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

心理言語学実験デモ集のコードをGitHubに公開しました

はじめに

先日,下記の記事を書きました。

この記事の中で,実験コードは別途GitHubで公開すると書いていましたが,準備ができたので公開しました。今回はその告知です。

GitHubで公開しているもの

以下のURLが,GitHubのレポジトリです。

https://github.com/tam07pb915/tamura-jspsych-demos

詳細はREADMEに書いたのでそちらを読んでもらえればと思いますが,一応この記事でも簡単に説明します。

上のGitHubのページは,「デモを動かしてみたい」という方は特に参照する必要はありません。そういう方は,以下のデモページを直接ご覧ください。

https://tamura-jspsych-demo.netlify.app/

GitHubページは,この実験デモがどういうコードで動いているのかを知りたい人向けです。「自分でjsPsychで実験を作ってみたい」「デモ実験をカスタマイズしてみたい」「研究に利用したい」というような方々が,コードを確認しやすいようにしています。もちろん,でもページ開いてそのページをInspectしたらコードわかるといえばわかるわけですが。

デモ自体はウェブ上で体験できますが,もしもローカルで実行したいという方は,レポジトリのファイルを全てDLしていただければ,ローカルでも実行できると思います。

今後の予定

とりあえず,今は自己ペース読み課題以外は説明等がすべて日本語で作ってあるので,英語版も作ろうかなとは思っています。今のGitHubの構成を変えるのか,新しいレポジトリにするのか,実験ページは同じNetlifyのプロジェクト上に置くのかとか全然そのあたりはまだ考えていませんが,またそのあたりはおいおい考えていく予定です。

おわりに

前回の記事でも書きましたが,今のコードは「とりあえず動く」というレベルで,改善の余地がある部分はたくさんあると思います。コードを見た方で,修正が必要な箇所に気づかれた方や,より発展的な課題の提案がある方などは,ぜひGitHubのIssueに投稿していただければと思います。よろしくお願いいたします。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

jsPsychを用いた心理言語学実験デモ集を作りました

はじめに

私は,所属先の関西大学外国語学部で,3・4年次生向けに「心理言語学研究」という講義科目を担当しています。本講義では,心理言語学で参照される代表的な実験について,授業中に学生自身がコンピューター上で体験できるようなデモを用意しています。その実験デモはjsPsychを用いてブラウザ上で動作する実験になっていますが,いくつかの実験素材をまとめた「デモ集」のページをまとめたので,URLを公開します。

https://tamura-jspsych-demo.netlify.app/

注意点

授業内で完結できるようにするために,実際に研究で使われるような実験ほどの厳密性は有していません。例えば,実際の研究で用いられた手続きに近いものもあれば,「効果」自体を体験してもらうために実際の実験とは違う作りにしているものなどもあります。そういう注意点はありつつ,実験やその結果を言葉で説明されるよりは体験することでより理解しやすくなるかなと思っています。あくまで,教育目的での利用が前提であるということをご理解ください。

なお,参加者のデータがサーバー上に保存されるというようなことは一切ありません。よって,個人情報が収集されたりはしません。また,結果画面を誤って閉じるまたはリロードしてしまうなどをすると,そのデータの復元はできませんのでご注意ください。

動作環境ですが,基本的にはキーボードのついたデバイスがマストです。キーボード付きのタブレット端末ではうまく動作しないケースもあるようです(手元にあるiPad+Smart Folioでは動作しましたが,授業中にタブレット端末でうまく動いていない学生が割といました)。したがって,推奨環境ははラップトップまたはデスクトップのデバイスです。

基本的な構成

基本的には,説明があって,実験をやって,最後のページで結果が表示される,という流れになっています。私自身も自転車操業で学期中の授業準備を回しながら実験デモを作っていたので,練習施行があるものとないものがあったり,一番最後に生データが表示される実験があったりなかったりと,実験によって構成にばらつきがあるという点,ご留意ください。

コードの公開について

現在は,デモ体験用のページのみを公開していますが,各デモ実験に用いている実験コード(jsPsych)は今後私のGitHubで公開予定です。公開した際には,改めてこのブログでも紹介します。

要望について

もうちょっとこの実験はこういう風にできないのかですとか,この実験コードのここは誤りではないかといったフィードバックについては,GitHubにコードを公開した際にGitHub上で受け付けていこうかなと思っています。

また,「こういう実験のデモもあったらいいな」みたいなのがあれば,そのアイデアとその実験を扱っている原著論文を教えていただけたら,作れたら作ってみたいなと思います。必ず作りますということをお約束はできませんので,そこだけはご理解ください。

おわりに

個人の授業だけで利用するものなので,公開するかどうかは迷ったのですが,より多くの方に体験していただく公益性のある教材かなと思いましたので公開することにしました。授業等での自由な利用を歓迎します。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

関西大学の院生向けキャリア関係イベントでトークしました

はじめに

関西大学キャリアセンターのイベント(主催は学内のプロジェクト)に声をかけていただき,関大の院生の方々に向けてトークをしました。

「多様な博士のキャリア」と銘打ったイベントで大学教員が呼ばれている理由はよくわかっていませんでしたが,事前の打ち合わせで,第1弾では企業に勤められている方がゲストだったということを聞いて納得しました。主に博士課程の院生さん向けのイベントで,自分の所属先の研究科の院生さんも何名か参加されていました。私の話は博士課程のうちにこういうことをやっておいたらどうですかという内容です。一緒に登壇されたおふたりの先生のお話もとても面白くて,他分野の方々の考え方やキャリアのことを聞けてとても新鮮でした。

将来を見据えて注力しておくべきこと

私のトークの話をすると,この部分が半分くらいの内容を占めています。正直,生存バイアスなので,話半分くらいで聞いてもらうのがいいかなと思って話しました。自分はこうしたほうがいいと思っているし,それが今の自分に繋がっているとは思っていますが。

得意なことの掛け算を意識

これは結構意見が分かれるかもしれません。得意なことでとがりまくれという意見もあるかもしれません。私は凡人なので,そういう生き方は無理でした。何か一本でここにいるというよりは,英語授業の実践(タスク),第二言語習得,心理言語学,統計,R,みたいな色々なことの掛け合わせで自分の強みになっているかなと思います。それぞれどれをとっても自分より知識・技術に優れた人はいるでしょうけれど,それを複数持っている人っていうと,あまりいないのかなという。アカデミアに就職するとなったら,狭い専門性しかなければ担当できる授業も限られてしまいますし,出せる公募の数も少ないでしょう。

博論にまっすぐ進むな

この話は実は先日,関学のT先生と話したことでもあります。博論に直接関係ないことは「必要ないこと」として切り捨ててしまう人がいるけど,それってどうなの,みたいな話だったと記憶しています。例として出てきたのはたしか,データ分析のために統計が必要だけど,統計を学ぶことそれ自体は直接関係ないから自分の手持ちのデータを分析するツールの使い方とその解釈だけ分かればいい,というようなことでした(たぶん)。

フルタイムの職を持ちながら博士課程をやるとなると,なりふり構わずやるしかないみたいな感じなのかもしれませんが,私としては博士課程の時って直接的に関係ないことでも全力でやるからこそその後につながるということばかりな気がしています。勉強でも研究でも,やれるものはとにかくなんでもやる,というスタンスでいる人のほうが,博論だけに集中している人よりも道が開けているように,名大時代の後輩を見ていても思います。むしろ,博士課程にいて博論の研究しかできなかったら,アカデミアで就職してから研究を続けていくことなんて到底できないのではとすら思います。どのような就職先でも,1つの研究だけをやれる環境であることなんてないわけですから。

とはいっても,あれこれ手を出した結果として博士論文がずっと書けないということになっては本末転倒であることは確かです。よって,博士論文をおろそかにしてもいいということでは決してありません。でも1年中,3年間ないしは4年間の博士後期課程の間,ずっと博士論文のことだけを考え続ける,それしか時間がない,なんてことあるのだろうかと思います。

もう一つ,博論関係のアドバイスでいうと,完璧な博士論文を目指さないということです。そもそも完璧な研究などないし,完璧な学位論文などありません。完璧を求めていたら一生終わらないし,完璧でないと博士号がもらえないわけでもありません。これは私自身が博士論文執筆中に副査の先生だった方にも言われたことです。博論はpassかfailなんだから,passしたらいいだけだと言われました。博士号を取ったあともずっと長く研究人生は続いていくわけで,そのプロセスの中で少しでも良いと思える研究ができるように頑張るということでいいと思います。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは登壇者3人にいくつか質問が投げられて順に答えるという感じでした。私が印象に残っているのは,「これからの博士に求められること」という質問でした。印象に残っている理由は,私以外の2人の先生は,社会にインパクトを与える研究ができるかどうかや社会実装ができるかどうか,という点を挙げられていたことです。私は人文科学の代表として,別に社会に自分の研究成果を直接的に還元しようと思わなくてもいいと思っていると言いました。念頭にあったのは,それを意識しすぎてなのか,そこまで言えないでしょう,もっと抑制的にならないと,というような発言してしまうことがこの分野だと散見されるという私の個人的な認識でした。ただ,じゃあ自分のやりたいことをやりたいようにやっていればいいかというとそういうわけではなくて,自分の研究が社会に直接役に立つわけではなかったら何に貢献しているのかを考えることがとても重要だと思います。以前参加した学内の科研費獲得セミナーでも,人文科学系では申請書の評価の際に社会実装・社会へのインパクトの重要度が他分野と比較して高くないという話を聞いたので,そういうのも頭にあったからこその発言ではあるなと今振り返って思います。

懇談会

社会科学,人文科学,自然科学の3つの領域から1人ずつ登壇したので,最後にそれぞれのグループに分かれてコーヒーを飲みながら懇談会がありました。私は一応人文系代表ということで、外国語教育学研究科,文学研究科,心理学研究科,東アジア文化研究科の院生さんたちと話をしました。話をするといっても,一人ひとりに今の不安とか悩みとかを聞いたり,質問をもらったりという感じでした。先の見えない不安だったり,自分が何をやりたいかわからなくなっていたり,というのが話題でした。

おわりに

もっと院生さんたちと話したり,終わった後に登壇者の先生方と話をしたかったのですが,アウェイ大阪ダービー参戦という大事な用事があったので,時間を少しすぎたところでお暇しました。すごく良いイベントだと個人的には思ったので,院生さんたちにも参加して良かったと思ってもらえていたら良いなと思います。

ちなみに大阪ダービーは0-1で敗戦したので,この記事を書くことで心を沈めています。今から反省会です。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

[宣伝] 言語テスト学会(JLTA)第26回全国研究大会でワークショップをやります

はじめに

言語テスト学会の第26回(2023年度)全国研究大会(9/9-10 @ 東北大学)で下記のタイトルでワークショップをやります(私のWSは10日午前です)。

Rを用いた一般化線形混合モデル(GLMM)の分析手法を身につける:言語研究分野の事例をもとに

過去の資料について

資料を準備している中で,私自身が最初にLME関係でウェブに上げた資料がslideshareにあり,それが有料版でないとダウンロードできないことに気づきました。そこで,その資料をそのままspeakerdeckにもアップロードしました。

2014年の資料なのでもう9年前になり,かなり古いですが,全く知らない人にとってはわかりやすいのかなと思います。

その後,2016年には下記のテクニカルレポートを書きました。

田村祐(2016)「外国語教育研究における二値データの分析-ロジスティック回帰を例に-」『外国語教育メディア学会中部支部外国語教育基礎研究部会2015年度報告論集』29–82. [リンク]

Rでロジスティック回帰をやる方法についてコードとともに解説したものです。このレポートをベースにしたワークショップも2019年に行いました。

田村祐(2019) 「統計ワークショップ」JACET英語語彙・英語辞書・リーディング研究会合同研究会. 早稲田大学. (2019年3月9日)[資料]

そして,2021年にはこれまでに書いたり話したりしたものよりももう少し違う視点からの講演も行いました。

今回の内容

今回のワークショップは,2019年にやったロジスティック回帰がメインですが,もう少し「泥臭く」,実際に出版された次の論文のデータを使って,下処理のところからモデリングのところまでをやる予定です。

Terai, M., Fukuta, J., & Tamura, Y. (2023). Learnability of L2 collocations and L1 influence on L2 collocational representations of Japanese learners of English. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching. https://doi.org/10.1515/iral-2022-0234 

この論文のデータはOSFで公開されているものですので,どなたでもアクセスできます。

Terai, M., Fukuta, J., & Tamura, Y. (2023, June 7). Learnability of L2 Collocations and L1 Influence on L2 Collocational Representations of Japanese Learners of English. https://doi.org/10.17605/OSF.IO/ZQE56

この研究の分析ではカテゴリカル変数は使っていないのですが,カテゴリカル変数も扱いたいなと思ったので,データは Terai et al. (2023)ですが,論文中に行っている分析とは異なる分析をする予定です。

当日使用する資料は下記のページにまとめています(当日ギリギリまで投影資料は微修正すると思います)。

https://github.com/tam07pb915/JLTA_2023_WS

投影資料を直接ウェブでご覧になりたい方は,下記のURLで投影資料をご覧いただけます。

https://tam07pb915.github.io/JLTA_2023_WS/

一応前半は理論編,後半は実践編となっていて,Rのコードをアウトプットに文章の解説を入れています。ごちゃごちゃして見にくいかもしれませんがご容赦ください。

今回のWSは3時間ですが,たぶんそれだけでは消化不良になると思うので,私が過去に公開している他の資料と合わせて読んでいただくと良いのではと思います。

おわりに

統計関係の話は専門家ではないのですが定期的にお声がけいただき,そのたびに勉強し(なおし)ているような気がします。

仙台までお越しになれないという方も,学会ウェブサイトにて動画が後日公開されるようですので,そちらをご覧いただければと思います。また動画が公開されましたらこのブログ記事にも追記します。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

追記(2023年9月13日)

動画が公開されたようです。前後半に分かれています。

[宣伝] タスク・ベースの英語教科書:Getting Things Done Book1

【2022年度新刊】タスクで教室から世界へ[ブック1]

はじめに

このたび,私が編著者として関わる英語の教科書が三修社さんから出ることになりました。その宣伝記事です。以前,三修社さんから『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル:教室と世界をつなぐ英語授業のために』というタスク教材集が出ました。この本では,いわゆるメインタスクの部分が中心として紹介されています。そのメリットとしては,「料理」の仕方でどのようにも使えるということがあります。目の前の学習者に合わせて様々な調整を加えて使ってほしいというのが著者陣の願いです。とはいっても,やっぱり準備にも時間がかかるし,どうやって1コマ分の授業を構成するのかというのは悩むところでもあると思います。そこで,その素材を「料理」して「一食分の食事」という形でパッケージングした教科書を作りました。それが,Getting Things Done (GTD)です。この本で言われているタスク(Tasks)というのは,タスク・ベースの言語指導(Task-based Language Teaching)の文脈でのタスクですので,コミュニケーション活動のようなものとほぼ同義で使われるゆるい「タスク」とは違うというのは強調しておきたいです。

ちょっとした背景

もともと,「教師用ブック」と「学生用ブック」という形で先生向けのものと学生向けのものを2つ作るという構想のもとで制作がスタートしました。教師用ブック(『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』)は先生が購入し,必要に応じて素材をコピーするなどして教室で使うことが想定されていました。それに対応させる形で学生用ブックを作ったわけですが,この教科書だけで完結するものがよいのかどうかというのはかなり議論を重ねました。構想段階では,教師用と学生用が合わさってはじめて使えるようなものが考えられていました。つまり,教師用ブックの購入が前提だったわけですね。なぜなら,もしも学生用ブック単体で利用できるのであれば,教師用ブックが売れなくなってしまうのではないかということを懸念したからです。かといって,教師用ブックを別途購入しなければ使えない教科書であったとすれば,すでに教師用ブックを購入されている人にはいいけれども,教師用ブックは買っていない人が学生用ブックを教科書として授業で使おうとするのはハードルが高くなりますよね。

こういった議論を重ねたあとで,あくまで学生用ブック単体で「教科書」という体裁をとりながらも,教師用ブックに掲載されているオリジナリティのある「アイデア」の部分は教師用ブックを参照してもらうという方向性にしました。イメージとしては,教師用ブックのほうは「唐揚げ」みたいな感じで載っていて,付け合せのヒントみたいなのも載っている感じ。学生用ブック(GTD)の方は,唐揚げ定食というユニットになってるというか。唐揚げって書いてあるだけだと,他に何品か作ってあって,「あと一品なにかないかなー」というときに,「あ,冷凍の唐揚げチンして出しちゃおうか」みたいな使い方もできますし,「今日のメインはこの冷凍の唐揚げで酢鶏にしちゃおう」というのもできますよね。素材っていうと唐揚げというよりは「鶏もも肉」と例えるほうが適当だとは思うのですが,それはまあ置いておきましょう。

一方でGTDは前述のとおり,唐揚げ定食です。「今日のご飯は何にしようかな,あ,唐揚げ定食でいいか」,という。献立はもうあるので,何を作るかは考えなくていいわけですね。それが嫌いな人もいるだろうし,楽な方が良いという人もいるでしょう。それはやっぱり万人受けするものを作るのは難しいですからね。アレンジが大好きな人は教科書はなし,教師用ブックに載っている素材で15回分の献立を考えてもらって構いません。ただ,15回分の献立を考えるのは難しいという方はGTDを教科書として採用してもらったらいいですよということです。

中身の話

GTDの中身ですが,なんと三修社さんのGTD紹介ページから期間限定(2022年3月31日まで)で全ページサンプルがダウンロードできます。

https://www.sanshusha.co.jp/text/isbn/9784384335101/

教科書のサンプルってだいたい1つのユニットだけ限定とかが多いと思いますが,三修社さんは全ページのPDFが見れます。この方式は,GTDのような教科書の採用を検討される際にはぴったりだと思います。ぜひこの機会にサンプルPDFを見ていただければと思います(もちろん見本の請求もできます)。なぜ全ページ見れるといいのかというと,ユニットのメインタスクによって,プレタスクやポストタスクでどのようなことをやるのかもまったく異なるからです。

多くの場合,教科書の構成というのはユニット間で統一感があり,ユニットの一番最初にやるのは単語の確認とか,最後はミニプレゼンとか,やることが決まっていることが多いと思います。しかしながら,GTDはセクションタイトルは全ユニット共通(下記参照)ですが,そこで学習者は多種多様な活動に取り組むことになります。

  1. Getting warmed-up: トピックの導入
  2. Getting ready: メインタスクへの準備
  3. Getting into it: メインタスク
  4. Getting better at it: 言語形式に焦点をあてた振り返り
  5. Getting further: タスクの繰り返しや発展
  6. Getting it done: まとめ(多くの場合ライティング)

実はこうした構成になっていることがGTDの特徴である一方で,制作段階では逆にハードルになりました。つまり,活動のアイデアは一度出せば全ユニット共通で使えるものでないわけですから,すべてのユニットでそのユニットのメインタスクを最も引き立てるプレ・ポストタスクを考えなければいけなかったということです。毎回最初はきんぴらごぼうで最後はゆずシャーベット,みたいなわけにはいかないということですね。もちろん全部が全部異なっているわけではないのですが,それでも殆どのユニットで学習者は飽きることなく様々な活動に取り組むことになると思います。こうした教科書を作ることができたのも,合計6人の著者陣がいたからだと思います。1人や2人だと,アイデアもなかなか多く生まれにくいところでしたが,6人いることでそれぞれが自分の特徴を最大限に発揮し,個性豊かなユニットを作り上げることができたと考えています。私は編著者として,そこにゆるやかな統一感をもたらし,教科書としての質を高めることに注力しました。

もう一つのGTDの特徴は,教授用資料(Teacher’s Manual)の充実具合だと思います。当初は,答えが必要になるもの(間違え探しの答えなど)だけを提示した簡素な冊子体を教授用資料とするという方向で進めていました。そうすることで,詳しいことは教師用ブックを買って読んでくださいねという販促が可能だからです。ただ,私はこのGTDはタスク・ベースの考え方に馴染みがない(またはそうした授業展開を経験したことがない)先生方にとっては非常にハードルの高い教科書になってしまわないかということを懸念していました。

前述のとおり,この教科書はユニットごとに各セクションで行われる活動が異なります。つまり,大枠での意図(メインタスクへの準備等)は同じでも,その中で実際に学習者が取り組むことが語彙にフォーカスを当てているのか,あるいは自分の意見を考えるアイデア・ジェネレーションなのか,というのが異なってくるわけです。それはサブタイトルという形で教科書本体に記載されています。しかし,それだけでは不十分ではないかと思ったのです。そこで,そのセクションがどういった意図をもってデザインされているのか,そしてそこで気をつけるべきことはどういったことなのかということを説明することで授業準備の負担を軽減したいと思いました。また,教室内でどのようなことが起こるか,あるいは教員はどう振る舞うべきなのかなどを事前にシミュレーションすることもTMを読むことで可能になると思います。

かといって,TMもついているから教師用ブックは買わなくてもいいね,ということにはならないようにしました。活動のバリエーションや活動条件,タスクを成功させるためのtipsやタスク・ベースの言語指導に関する基本的な知識などについてはやはり教師用ブックを読んでいただかなくてはいけません。ちなみに,GTDを50部以上採用いただいた先生には三修社さんから教師用ブックを献本いただけるということです。詳しくは三修社さんにお問い合わせください。

TM内では,各ユニットの冒頭で授業前に必要な準備というセクションをつけました。これも,各ユニットで毎回同じ準備をすればよいわけではない教科書だからこそ必要になるものです。そこに「とくになし」とあれば,実際に何も準備をせずに「えいやっ」と教科書を持って教室に行くこともできます。そして,印刷物があれば印刷が必要だというのが一瞬でわかります。そうやって,まずはTMの一番最初の部分を見るというクセができたとしたら,おそらくそこに書いてある他のことも見てもらえるでしょうし,見てもらえれば必ず授業がよくなる情報を提供しているという自負があります。もしかすると,TMはあまり読まれないかもしれませんが,著者陣全員が,そして編集担当の方も,教科書本体に向けた情熱と同じかそれ以上の情熱をTMにも注いでいると思います。TMに書いてあることは見る人によっては「そんなこと言われなくてもわかる」というようなことかもしれません。ただ,タスク・ベースの言語指導に馴染みのない先生方にも安心してGTDを使っていただくことを念頭に置いてTMを作ったということはご理解いただければと思います。TMに書かれていることは,必ずしもGTDを使っていただく一人ひとりの先生方の自由な発想を制限するものではありませんので。

最後に

このブログ記事には書いていないGTDのコンセプトについては,見本PDF(https://www.sanshusha.co.jp/text/isbn/9784384335101/に期間限定でリンクがあります)のpp. 1-5に書いてありますので,そちらをお読みいただければと思います。すでにお気づきの方もいらっしゃるかとは思いますが,Book1というのがタイトルについていまして,Book2も鋭意製作中です。来年度の冬には同じように宣伝ができると思います。もうすでに来年度のシラバスや教科書の採用が決まってしまっているかもしれませんが,ぜひGTDの採用をご検討いただき,また実際に使ってみての感想等もお寄せいただければ幸いです。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

11/6に連続公開講座「データサイエンス時代の言語教育」(2)で講演します

2021年11月6日土曜日に,名古屋大学大学院人文学研究科英語教育分野主催の連続公開講座『データサイエンス時代の英語教育』(2)で『一般化線形混合モデルの実践 — 気をつけたい三つのポイント』というタイトルの講演をします。

名古屋大学大学院人文学研究科は私が所属していた研究科ではありませんが,大学院の再編があり私がお世話になった先生方が所属している研究科であり,私の後輩にあたる院生も人文学研究科に所属しています。そういう縁もあってお話をいただきました。私が統計の話をするというのはかなりハードルが高い(統計の専門家ではないですし知識と技術に自信があるわけでも正直ない)と思ったのですが,こういう機会をいただくことでまた自分の知識を更新し,さらにレベルアップする機会にもなると思ったので,お引き受けすることにしました。

フライヤーに要旨も載っていますが,私が名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程に進学した2014年にNagoya.Rというイベントで『一般化線形混合モデル入門の入門』というタイトルで発表をしました。

ちょうど2012年に下記のレビュー論文が出ていて,それをもとにRでどうやってやるかというのをただただ紹介したみたいな感じでした。

Cunnings, I. (2012). An overview of mixed-effects statistical models for second language researchers. Second Language Research, 28(3), 369–382. https://doi.org/10.1177/0267658312443651

一般化線形混合モデルという発表タイトルでしたが,実際は一般化ではなく線形混合モデルのやり方で,私はその後の院生生活で,反応時間を扱う研究ではガンマ分布や逆正規分布,容認性判断のような二値データを扱うデータでは二項分布を使った一般化線形混合モデルを扱うようになっていきました。

7年前はそこまでウェブ上でも特に日本語では資料が多くなかったこともあり,分野を問わず上記のスライドシェアの資料は結構閲覧されていて,D2で学振の申請書を書いたときには「Googleで一般化線形混合モデルというキーワードで検索すると上に来るのは私の資料です」みたいなことを書いたこともありました(笑)

2016年にはおもにロジスティック回帰に焦点をあてたテクニカルレポートを書きました。

田村祐(2016)「外国語教育研究における二値データの分析-ロジスティック回帰を例に-」『外国語教育メディア学会中部支部外国語教育基礎研究部会2015年度報告論集』29–82. [リンク]

そして,このテクニカルレポートで書いた内容をもとにして2019年には統計のワークショップ講師をしたこともありました。

https://github.com/tam07pb915/JACET-SIG_GLMM-Workshop

そういった流れのなかで,一般化線形混合モデルのレビュー論文のようなものもいくつか新しく出版されているので,そうしたものをまとめた内容にしようと思っています。今回はワークショップではなく「講演」なので,ハンズオンで実際に分析ができるようになるということを目指すわけではなく,(1) 分析の方法,(2) 分析結果の報告,(3) 再現性の確保,という3つの観点から一般化線形混合モデルという分析の手法について話すつもりです。(3)の再現性については,昨今の再現可能性という問題を意識してのものであり,特にこの分析手法だけに当てはまるものではありません。ただ,自分が特に強い関心を持っているのであえて今回の話に盛り込むことにしました。特に,国内の学会紀要などはこういったデータ・マテリアルの公開・共有に関してガイドラインの設定がされていません。このことは今後の研究の発展を大きく阻害すると思いますので,そういったメッセージも入っています(資料はまだアウトライン程度しかできていませんが)。

資料ができたらこの記事の最後に資料へのリンクを追記する予定です。

参加申込は下記のURLから可能で,申込みの締め切りというのは特に設けられていないということです。

https://forms.gle/Ez4GmQC2JpS4j2R49

興味のある方はぜひご参加ください。よろしくお願いします。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。


2021.11.07 追記

当日の資料です。

10/30に関西大学外国語教育学会秋季研究会で講演します

http://kufler-s.jp/?action=common_download_main&upload_id=168

下記の要領で,所属に関係する研究会でオンラインの講演をすることになりました。

関西大学外国語教育学会秋季研究会 2021

■日       時           2021 年 10 月 30 日(土) 13:00~15:50

■会       場           オンライン(Zoom)

■参加費              会員・非会員(無料)

■内       容

12:30~ 受付開始

13:00 開会式

13:10~14:00       タスク・ベースの言語指導とはなにか、どうやって実践するか(理論編)

14:00~14:10       休憩

14:10~15:30       タスク・ベースの言語指導とはなにか、どうやって実践するか(実践編)

15:30~15:40       質疑応答

15:40~ 閉会の挨拶

タスク関係では過去にも何回かセミナーだったりワークショップだったりというのをやったことがありますが,講演という形で単独でやるのは初めてなので今から割と緊張しています。依頼があったときに理論と実践両方ということだったので,その両方をやることになり,結構長めのイベントになっています。実践編の方はワークショップ形式でやるつもりです(自分はあまりワークショップ形式が得意な方ではないですがワークショップ的なことをやってほしいという依頼で受けたのでやります)。要旨は以下のとおりです。

本講演は,タスク・ベースの言語指導(Task-based LanguageTeaching, TBLT)について,それがどういった考え方に基づいているかを理解する理論編と,その理解に基づいて実際の授業を構想する実践編から構成されます。後半の実践編では,まずタスクを活用するという観点から,(a)教科書に掲載されている活動をアレンジしてタスクにする,(b)教室で実際にタスクを使う際に教師に求められるであろうスキルを考える,という 2 つを参加者の方と一緒に考えていきたいと思います。

申し込みは下記のURLから可能で,期間は,2021 年 9 月 30 日(木)10:00~10 月 29 日(金)17:00となっています。

https://forms.gle/M1HCjVa4Az91WFzD6

ご興味のある方はぜひご参加ください。資料も後日このページからアクセスできるようにするつもりです。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。


2021.11.01 追記

当日使用した投影資料をspeakerdeckで公開しました。