なんでゼミやるの?

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はじめに

「そんなにゼミやりたいんすか?」と言われて,それめっちゃいい質問だなと思ったので,私(33歳私学外国語学部准教授)の今の気持ちを書き留めておこうと思います。

所属先の環境

私は今,関西大学外国語学部というところに所属しています。ゼミの話をする前に,弊学部の特徴を少し。カリキュラムの特色は2年次の留学プログラムです。

  • 1年次:専門の導入科目,アカデミックスキル養成,留学に向けて語学力をバチバチに鍛える
  • 2年次:留学
  • 3,4年次:留学先で培った語学力を維持しつつ専門を深める

ざっくりいうとこんな感じのカリキュラムです。おそらく一般的な大学のゼミ(演習)は3年次春学期(前期)からスタートすると思いますが,弊学部では留学から帰ってくる時期の関係でゼミ選択を3年次の春学期にせざるを得ず,よって3年次秋学期と4年次にゼミの1年半がゼミ履修ということになります。2年次にプレゼミ的なのがあったりするところもあると思いますが,2年次に1年間留学をしても4年間で卒業できることを売りにしているので,専門的な教育としては3, 4年次に詰め込んでいる感があり,そこは教員間でも課題として認識されているのが現状だと思います。

そういう事情の中で,いわゆるゼミは教授のみ必須,准教授と助教は希望者のみ開講しても良いということになっています。他の学部は知りませんが,私の所属している関西大学外国語学部は若手教員の授業負担や学内業務負担をできるだけ軽減し,研究によりエフォートを割いてもらうみたいなことが制度設計として実現されています。ゼミ開講のことについても,そういう配慮があると思います(もしかすると,准教授や助教はゼミで指導生を持つような能力がまだないと思われてるのかもしれませんが)。

さらに,学部定員(170くらい)と教員の人数(50)の割合が極めて高いのも特徴です。一人の教員が受け入れられるゼミ生の人数を制限しているので,少人数の演習でみっちり指導しますよ,というのも学部の特徴です。

なんでゼミやるの

「そんなにゼミやりたいんですか?」はすごくいい問いだなと思いました。特に,私の所属先のように義務としてゼミを開講しなくてはいけないわけではなく,開講しないという選択肢が与えられているのだから,別にやらなくてもいいのではというのは理解できます。現に,開講の義務がない准教授,助教の先生でゼミを開講しているのは少数派だと思います。

まずひとつは,やっぱり大学教員という仕事の醍醐味の一つとしてゼミの運営があるというのはあると思います。自分も学部時代,博士課程時代にゼミを通してたくさんのことを学んだというポジティブな経験があります(博士課程時代は国立大学でなおかつ独立大学院だったので学部のゼミにはあまり直接的つながりはなかったですが)。

学部時代に教員と少人数の学生で密にコミュニケーションしながら突っ込んだ話について議論を深めたりしたことや,難解な洋書の専門書をみんなで協力しながら読み進めた経験は確実に今の自分の基盤となっています。それは当然ながら,今の自分のキャリアがその延長線上にある(ゼミで学んだことと無関係な仕事をしていない)ということも大いに影響しているでしょう。そういう意味でいうと,教員養成課程というマジョリティが教員になるという道を選ぶ環境と,私の今の環境ではゼミのあり方も異なって当然であるとは思います。

ゼミの活動を見ていると,活動系のことを大きく宣伝しているゼミも多いですし,むしろそういうゼミが人気を集めているようにも思います。学生にとって,その後の人生に役立つことが直感的にわかりそうなゼミを選ぼうとする気持ちも,昨今の就活事情を鑑みると理解もできます。それ自体を責める気もありませんし,結果として優秀な人材を世に送り出しているといえますからゼミの募集に誰も来ない教員よりもよほど学部,そして社会に貢献しているといえるでしょう。

そういったゼミを運営する先生やそういったゼミに入る学生が学問を軽視しているとは言いません。ただ,やはり私はやっぱり研究者でいたいと思っています。私は良くも悪くも学問の専門家であり,もちろん産学連携とか地域貢献も大学の大事な役割ではあるとはいえ,それが自分の専門であるというようには考えていません(しそこに今から自分のリソースを投じることが有益であるともあまり思えない)。もちろん,いわゆる「現場」といわれるような学校に呼ばれて,その学校の教育を良くするために力を貸してほしいと言われたらそれは全力でコミットします。ただ,そのことを自分のメインの仕事として捉えることはおそらく今後ないだろうと思います。それは,その仕事については手を抜くということではなく,それは自分がもっとも力を発揮できる場所であるという自信がないということです(かといって研究なら力が発揮できるかと言われるとそれも自信があるわけではないですが,ただ研究者ならそこで力を発揮できないなら辞めたほうがいい)。

所属先の構造でいうと,研究科が上にある場所にいる(所属先が外国語学部で,同じ組織の構成員の外国語教育研究科がある)ので,やっぱり学術的なことを扱うゼミをやりたいという思いもあります。学部の上に研究科がある,ましてや修士課程だけではなく博士課程まであるというのは一般的とは言えないと思います。そうした環境で職を得ているからには,そこも見据えたいという思いもあります。もちろん,現実的には学部から修士課程に上がる学生の数は数えるほどで,そこから博士後期課程までとなるといるかいないかレベルで,後期課程はほとんど外部から人が来るというのが現実だと思います。

学部長・研究科長が竹内先生で,英語教育で言えばその名前を知らない人はいないのではみたいな人(e.g., 水本先生,新谷先生,to name a few)が一人ではなく何人もいるみたいな環境です。いやいやこの先生がその仕事してる場合ちゃうやろっていうのを思ったことは就職してから数え切れないほどあります。

「まあだから自分はゼミやんなくてもいいや」という思いもある一方で,自分がそこに割って入る気持ちでいないでどうするという気持ちや,自分をチャレンジングな状況に意識的に置くことで成長したいという気持ちもあります。

自分と近い分野の先生が多いということはすなわち,ゼミを開講しても分野がかぶる可能性が高いということを意味します。さらに,弊学部は1学年のゼミの受け入れ人数上限が二桁になることはないわけですから,そのばらつきを考えればなおさら他の先生たちのとの差別化ができないと,若くて経験も浅い私のゼミを選ぶ可能性は低くなります。だからこそ,ニッチかもしれないけれども自分のキャラクターを生かそうという発想になりました。結果としてそれはうまく機能しなかったわけですが…

もう一つは,ゼミをやることが自分を成長させてくれるという気持ちがあります。学生から見たら,貴重な教育の機会をお前の成長のために使うんじゃあねぇという声も聞こえてきそうですが。これは冗談抜きで亘理先生がいいからやってみんしゃいと言ってくださったことが大きいです。もしかしたらそんなことは言ってないかもしれないんですが,個人的にはどっかでそういうメッセージをもらった気がしています。私が,ゼミやろうかどうか迷うというようなことをツイートしたときにかけられた言葉だと記憶しています(念の為書いておきますが,だからといって履修者ゼロだったことは亘理先生のせいでもなんでもないです)。

自分が経験したことないことを経験することによって,自分が成長できるというのはゼミを開講しようとするメリットだと思いました。また,今の私はどちらかというと英語を教える科目の担当がメインなので,自分の専門に関わることを授業を通じて教える機会はありません。そういった自分の専門に関連する科目の担当はそれはそれで大変だとは思いますが,その授業を担当できる(任される)ということは,すなわちそれだけの研究者であるということを意味すると思います。そういった授業の担当は自分が希望すればできるわけではない以上,ゼミというのは自分次第でそういった環境への直接的アクセスが可能な手段でもありました。

学生からすると経験が薄い教員のゼミに入るのはリスクも大きいと思うでしょうし,先輩からの情報が得られる先生だったり,就職に強い先生のゼミを選びたいと思うのは当然だと思います。それを上回るようなメリットを自分自身がシラバスで提示できなかったということが,自分の未熟さや至らなさなんだろうなと思います。また,ある程度その学年の学生にも顔が知れている(学年の多くの学生の授業を担当している)にもかかわらず,私のゼミの希望者がいなかったというのは,学生からの授業の評判も良くないということの表れでもあるかもしれないと思っています。

もともと授業がうまいという自己評価をしたことは一度もありませんが,だからといってこの状況を自分に対してのフィードバックとして受け取らないのは無責任すぎます。来年度も開講の希望を出すかどうかは今の時点では迷っていますが,結局私のゼミに入りたいと思うゼミ生が現れるかどうかは自分のパフォーマンス次第であると思うので,来年度以降もチャレンジしたいと思います。発想は体育会系かもしれないんですが,私は私の持てる知識の全力で向き合うので,「教えを請う」という態度ではなく,全力で私にぶつかってきてくれる人と切磋琢磨したいなって感じですね。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

2021.09.01.12:41

タイポの修正と一部加筆修正をしました。

なんでゼミやるの?」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 教育と研究と学問と | 英語教育0.2

  2. ピンバック: ゼミ選びのプロセスでこのページに来た人へ | Yu Tamura's Web

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