[宣伝] タスク・ベースの英語教科書:Getting Things Done Book1

【2022年度新刊】タスクで教室から世界へ[ブック1]

はじめに

このたび,私が編著者として関わる英語の教科書が三修社さんから出ることになりました。その宣伝記事です。以前,三修社さんから『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル:教室と世界をつなぐ英語授業のために』というタスク教材集が出ました。この本では,いわゆるメインタスクの部分が中心として紹介されています。そのメリットとしては,「料理」の仕方でどのようにも使えるということがあります。目の前の学習者に合わせて様々な調整を加えて使ってほしいというのが著者陣の願いです。とはいっても,やっぱり準備にも時間がかかるし,どうやって1コマ分の授業を構成するのかというのは悩むところでもあると思います。そこで,その素材を「料理」して「一食分の食事」という形でパッケージングした教科書を作りました。それが,Getting Things Done (GTD)です。この本で言われているタスク(Tasks)というのは,タスク・ベースの言語指導(Task-based Language Teaching)の文脈でのタスクですので,コミュニケーション活動のようなものとほぼ同義で使われるゆるい「タスク」とは違うというのは強調しておきたいです。

ちょっとした背景

もともと,「教師用ブック」と「学生用ブック」という形で先生向けのものと学生向けのものを2つ作るという構想のもとで制作がスタートしました。教師用ブック(『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』)は先生が購入し,必要に応じて素材をコピーするなどして教室で使うことが想定されていました。それに対応させる形で学生用ブックを作ったわけですが,この教科書だけで完結するものがよいのかどうかというのはかなり議論を重ねました。構想段階では,教師用と学生用が合わさってはじめて使えるようなものが考えられていました。つまり,教師用ブックの購入が前提だったわけですね。なぜなら,もしも学生用ブック単体で利用できるのであれば,教師用ブックが売れなくなってしまうのではないかということを懸念したからです。かといって,教師用ブックを別途購入しなければ使えない教科書であったとすれば,すでに教師用ブックを購入されている人にはいいけれども,教師用ブックは買っていない人が学生用ブックを教科書として授業で使おうとするのはハードルが高くなりますよね。

こういった議論を重ねたあとで,あくまで学生用ブック単体で「教科書」という体裁をとりながらも,教師用ブックに掲載されているオリジナリティのある「アイデア」の部分は教師用ブックを参照してもらうという方向性にしました。イメージとしては,教師用ブックのほうは「唐揚げ」みたいな感じで載っていて,付け合せのヒントみたいなのも載っている感じ。学生用ブック(GTD)の方は,唐揚げ定食というユニットになってるというか。唐揚げって書いてあるだけだと,他に何品か作ってあって,「あと一品なにかないかなー」というときに,「あ,冷凍の唐揚げチンして出しちゃおうか」みたいな使い方もできますし,「今日のメインはこの冷凍の唐揚げで酢鶏にしちゃおう」というのもできますよね。素材っていうと唐揚げというよりは「鶏もも肉」と例えるほうが適当だとは思うのですが,それはまあ置いておきましょう。

一方でGTDは前述のとおり,唐揚げ定食です。「今日のご飯は何にしようかな,あ,唐揚げ定食でいいか」,という。献立はもうあるので,何を作るかは考えなくていいわけですね。それが嫌いな人もいるだろうし,楽な方が良いという人もいるでしょう。それはやっぱり万人受けするものを作るのは難しいですからね。アレンジが大好きな人は教科書はなし,教師用ブックに載っている素材で15回分の献立を考えてもらって構いません。ただ,15回分の献立を考えるのは難しいという方はGTDを教科書として採用してもらったらいいですよということです。

中身の話

GTDの中身ですが,なんと三修社さんのGTD紹介ページから期間限定(2022年3月31日まで)で全ページサンプルがダウンロードできます。

https://www.sanshusha.co.jp/text/isbn/9784384335101/

教科書のサンプルってだいたい1つのユニットだけ限定とかが多いと思いますが,三修社さんは全ページのPDFが見れます。この方式は,GTDのような教科書の採用を検討される際にはぴったりだと思います。ぜひこの機会にサンプルPDFを見ていただければと思います(もちろん見本の請求もできます)。なぜ全ページ見れるといいのかというと,ユニットのメインタスクによって,プレタスクやポストタスクでどのようなことをやるのかもまったく異なるからです。

多くの場合,教科書の構成というのはユニット間で統一感があり,ユニットの一番最初にやるのは単語の確認とか,最後はミニプレゼンとか,やることが決まっていることが多いと思います。しかしながら,GTDはセクションタイトルは全ユニット共通(下記参照)ですが,そこで学習者は多種多様な活動に取り組むことになります。

  1. Getting warmed-up: トピックの導入
  2. Getting ready: メインタスクへの準備
  3. Getting into it: メインタスク
  4. Getting better at it: 言語形式に焦点をあてた振り返り
  5. Getting further: タスクの繰り返しや発展
  6. Getting it done: まとめ(多くの場合ライティング)

実はこうした構成になっていることがGTDの特徴である一方で,制作段階では逆にハードルになりました。つまり,活動のアイデアは一度出せば全ユニット共通で使えるものでないわけですから,すべてのユニットでそのユニットのメインタスクを最も引き立てるプレ・ポストタスクを考えなければいけなかったということです。毎回最初はきんぴらごぼうで最後はゆずシャーベット,みたいなわけにはいかないということですね。もちろん全部が全部異なっているわけではないのですが,それでも殆どのユニットで学習者は飽きることなく様々な活動に取り組むことになると思います。こうした教科書を作ることができたのも,合計6人の著者陣がいたからだと思います。1人や2人だと,アイデアもなかなか多く生まれにくいところでしたが,6人いることでそれぞれが自分の特徴を最大限に発揮し,個性豊かなユニットを作り上げることができたと考えています。私は編著者として,そこにゆるやかな統一感をもたらし,教科書としての質を高めることに注力しました。

もう一つのGTDの特徴は,教授用資料(Teacher’s Manual)の充実具合だと思います。当初は,答えが必要になるもの(間違え探しの答えなど)だけを提示した簡素な冊子体を教授用資料とするという方向で進めていました。そうすることで,詳しいことは教師用ブックを買って読んでくださいねという販促が可能だからです。ただ,私はこのGTDはタスク・ベースの考え方に馴染みがない(またはそうした授業展開を経験したことがない)先生方にとっては非常にハードルの高い教科書になってしまわないかということを懸念していました。

前述のとおり,この教科書はユニットごとに各セクションで行われる活動が異なります。つまり,大枠での意図(メインタスクへの準備等)は同じでも,その中で実際に学習者が取り組むことが語彙にフォーカスを当てているのか,あるいは自分の意見を考えるアイデア・ジェネレーションなのか,というのが異なってくるわけです。それはサブタイトルという形で教科書本体に記載されています。しかし,それだけでは不十分ではないかと思ったのです。そこで,そのセクションがどういった意図をもってデザインされているのか,そしてそこで気をつけるべきことはどういったことなのかということを説明することで授業準備の負担を軽減したいと思いました。また,教室内でどのようなことが起こるか,あるいは教員はどう振る舞うべきなのかなどを事前にシミュレーションすることもTMを読むことで可能になると思います。

かといって,TMもついているから教師用ブックは買わなくてもいいね,ということにはならないようにしました。活動のバリエーションや活動条件,タスクを成功させるためのtipsやタスク・ベースの言語指導に関する基本的な知識などについてはやはり教師用ブックを読んでいただかなくてはいけません。ちなみに,GTDを50部以上採用いただいた先生には三修社さんから教師用ブックを献本いただけるということです。詳しくは三修社さんにお問い合わせください。

TM内では,各ユニットの冒頭で授業前に必要な準備というセクションをつけました。これも,各ユニットで毎回同じ準備をすればよいわけではない教科書だからこそ必要になるものです。そこに「とくになし」とあれば,実際に何も準備をせずに「えいやっ」と教科書を持って教室に行くこともできます。そして,印刷物があれば印刷が必要だというのが一瞬でわかります。そうやって,まずはTMの一番最初の部分を見るというクセができたとしたら,おそらくそこに書いてある他のことも見てもらえるでしょうし,見てもらえれば必ず授業がよくなる情報を提供しているという自負があります。もしかすると,TMはあまり読まれないかもしれませんが,著者陣全員が,そして編集担当の方も,教科書本体に向けた情熱と同じかそれ以上の情熱をTMにも注いでいると思います。TMに書いてあることは見る人によっては「そんなこと言われなくてもわかる」というようなことかもしれません。ただ,タスク・ベースの言語指導に馴染みのない先生方にも安心してGTDを使っていただくことを念頭に置いてTMを作ったということはご理解いただければと思います。TMに書かれていることは,必ずしもGTDを使っていただく一人ひとりの先生方の自由な発想を制限するものではありませんので。

最後に

このブログ記事には書いていないGTDのコンセプトについては,見本PDF(https://www.sanshusha.co.jp/text/isbn/9784384335101/に期間限定でリンクがあります)のpp. 1-5に書いてありますので,そちらをお読みいただければと思います。すでにお気づきの方もいらっしゃるかとは思いますが,Book1というのがタイトルについていまして,Book2も鋭意製作中です。来年度の冬には同じように宣伝ができると思います。もうすでに来年度のシラバスや教科書の採用が決まってしまっているかもしれませんが,ぜひGTDの採用をご検討いただき,また実際に使ってみての感想等もお寄せいただければ幸いです。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

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