はじめに
サッカーファンとして,ナーゲルスマンという人は名前は知っているけどそこまでどういう監督かということは知りませんでした。footballista会員になってからはよく名前を見るようになり,サッカーのトレーニングと語学教育みたいなことを考えることも最近は多いので,それで気になって読んでみたという感じです。
過去のサッカー×語学教育の記事
今ならその内容の一部について解説しているコラム記事がfootballistaで無料(7/24公開なので今月末までと思われます)で読めますので,気になる方はまずそちらをお読みいただけるといいのではと思います。
サッカーファン視点というわけではありませんが,色々なるほどなと思うところがいくつかあったので当該部分を引用しながらちょっとした読書感想記事を書いておきます。気になった部分はやっぱりサッカーの部分よりも「第2章 指導・人生の原則」のほうが多かったので,そちらが多めの読書感想です。
原則4:シュタイル・クラッチュで奇襲する
「例外のない規則はない」(Keine Regel ohne Ausnahmen)
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「シュタイル・クラッチュ」はいわゆるポスト役の選手が後ろの味方にダイレクトで落とすポストプレーですが,その際に角度をつけること(つまり真正面ではなく,斜め方向に落とすこと)をナーゲルスマンは求めているようです。この前までの部分で,ナーゲルスマンはダイレクトプレーよりも2タッチのプレーを好むという原則が紹介されています。なぜなら,ダイレクトプレーでは正確性に劣るからです。一度ボールを止めてから蹴るほうが正確にキックできるので,基本的には2タッチプレーというのが「規則」というわけです。ただし,「例外」としてシュタイル・クラッチュというダイレクトプレーも使うということです。言語(使用)も規則と例外が混在するものです。ただ,学習者は規則の方に縛られがちで例外に対しての寛容度があまり高くないというのが個人的な印象です。規則の提示やその発見は意識しつつ,例外との付き合い方とでもいうようなものをどうやって授業で扱っていくのかというのは教師としては悩ましいところです。
COLUMN:「個人主義者」:「チームプレーヤー」の公式
ピッチ上の安定性がとても大事だ。だから7人の『チームプレーヤー』と3人の『個人主義者』を先発に選ぶ
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これはチームマネジメントというかそういう点でなるほどなーと思いました。ちなみに,このあとの場面で,チーム戦術の練度があがってきたら徐々に個人主義者の割合を増やしていくというようなことも書いてあります。ここでもあくまで7:3は「原則」であるが,それだけに縛られるわけではないということですね。ガンバ大阪では誰が個人主義者で誰がチームプレイヤーなのかなというのももちろん考えましたし,自分が所属する学部や学会の運営組織など,色んなところでこういう法則を考えたくなりましたが怖くなってやめました。
原則31:戦術は30%、残り70%は人身掌握
結局のところ、100%正確にタスクを実行するものの50%しか気持ちが入っていない選手より、常に正確にタスクを実行できるわけではないが100%気持ちが入っている選手の方が試合ではるかに効果的なんだ」
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この部分を読んだときに真っ先に思い浮かんだガンバ大阪の選手が倉田秋選手ですね。彼はここ数年パフォーマンスが落ちていて,サポーターの間でももう放出したほうがいいなんて言われることもしばしばあります。しかしながら,彼は今シーズンのキャプテンですし,怪我で離脱しているとき以外はほぼ必ず試合に出ます。そして,試合に出ればやっぱり彼はサポーターが見ていて「気持ちが入っている」と思わせるプレーが印象に残ります。思わず拍手を送りたくなるような,頑張れと応援したくなるようなプレーを見せる。そういう選手なのです。もちろん,無鉄砲にプレスにいくことで空いたスペースを使われるなんてこともあるのでただがむしゃらにボールを追いかければよいということではないんですが。ただ,倉田選手が使われるのはこういうところかもしれないですね。ちなみに,見ていて「気持ちが入っている」といつも思うガンバ大阪の選手でいうと福田湧矢選手もその一人かなと思います。
この原則では,ナーゲルスマンが選手とよくコミュニケーションを取るという話が出てきて,それがすなわちマネージメントにおいては7割は人心掌握だということなのですが,まさに今のガンバ大阪の片野坂監督もそうなのかなと思うところは多いです。もちろん,戦術家として知られているわけですが,選手たちのコメントからは,また,ガンバ大阪への移籍を決断する選手のコメントからも片野坂監督が優秀なモチベーターであることは明らかです。きっと,人心掌握というところも大事にしているのでしょう。私は相変わらず下っ端も下っ端ですが,自分が全体をマネージメントする立場にたったときのことを想像すると人心掌握って難しいなと。そういうコミュニケーションが苦手なので。
原則34:特別と普通の違いはわずかなエクストラ
「普通と特別の違いは、わずかなエクストラ」(The difference between ordinary and extraordinary is that little extra)
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このセリフは,アメフトのヘッドコーチ,ジミー・ジョンソンの名言で,それを会見でナーゲルスマンが引用したことがあるということで紹介されています。ナーゲルスマンはアメフトのファンで,アメフトからの影響も受けているらしいです。
天才というか,スターというか,そういう人,すごいなこの人って思うような人たちと自分のような凡人の差って,本当にその”little extra”だよなぁと思いました。けど,その”little extra”が少しのように見えて,その少しを実現できるかどうかっていうのは本当に自分自身だけの力ではなかなか難しいんですよね。私の場合,周りから受ける影響でその”little extra”を頑張ろうと思うことが多いです。
教員としても,向上心をもって勉学に励む学生にそんな”little extra”を頑張ろうと思えるような働きかけができるようになりたいなと思っています。
原則35:罰則で組織をハッピーにする
さまざまな罰を書いたルーレットを回し、違反した選手がダーツを投げて刺さった箇所の罰を実行するというものだ。
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私たちは新しいやり方を考案した。まずクラブに携わる全スタッフに、金額に応じて欲しい物をメモに書いてもらう。ルール違反をした選手は箱の中からメモを引き、そこに書かれている物を対象の従業員にプレゼントするんだ。最近は、クラブに出入りしている清掃業者のスタッフが旅行チケットをゲットして喜んでいたよ。一体感を強める効果があると確信している」唯一の例外は監督だ。ルール違反をした時ではなく、試合に勝利した時に箱から1枚引かなければならないのである。これもチームの雰囲気を明るくするのに一役買う。
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このアイデアはなるほどなと思いました。もしも学級担任を持つようなそういう学校教員の仕事をしていたら,自分のクラスで似たようなルールを導入していたかもしれません。もしかしたらすでに実践されている方もいるかもしれませんね。遅刻をしたとき,提出物を忘れたとき,物を壊してしまったときなどにダーツを投げるとか,くじ引きをするとか。ちなみに,ダーツには「バツなし」というのも含まれていると書いてありました。また,どんな組織でもこういうことをするのではなく,RBライプツィヒではこういう取り組みをしていたけれどもバイエルンの監督になってからはよくあるような「XをしたらY円罰金」のような「ペナルティカタログ」を作るやり方にしていたようです。チームの雰囲気・風土に合わせて柔軟にやり方を選択できるというのも,ここまで見てきた臨機応変さと通底するものがあります。
おわりに
ちょっと長くなってきたので,ここで一旦この記事は終わりにして,続きは別の記事で書こうと思います。
なにをゆう たむらゆう。
おしまい。

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