[読書感想] ナーゲルスマン流52の原則 ②

はじめに

前回の記事が長くなってしまったので,後半です。

原則37:ダイヤモンドは圧力によって育てられる

ダイヤモンドは圧力によって育てられる。選手が特別なパフォーマンスを引き出すには、特別な重圧が必要だ。特に、過去に多くの成功を収めてきた選手には

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プレッシャーがかかることによってそれがより良いパフォーマンスを引き出す事ができるということですね。多くの成功を収めてきた選手ほどどこかに慢心が生まれるかもしれない,そこの余地をなくすためにも重圧のかかる場面というのは重要ということもあるのかもしれません。私自身は「重圧」というわけではないかもしれませんが,自分が成長できる機会があればトライするということは心がけるようにしています。

原則39:気分屋タイプを受け入れる

すぐにベンチに座って、仲間を応援できる選手もいる。もちろんそれがベストだ。でも、それが苦手な性格の選手もいる。レロイはきっと自分自身に腹が立っていて、その姿を誰にも見せたくなかったんだろう。そういう気持ちを理解してあげるべきだ。監督として問題視していない。イライラしてベンチに座るより、ロッカールームで自分と向き合った方が効果的な時もある」

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途中交代した選手がベンチに座らずロッカールームに戻ってしまった,そのことについてのナーゲルスマンのコメントです。なかなかこんなコメントできるもんじゃないですよね。Jリーグでは元C大阪(現清水)の乾選手が途中交代後に監督との握手を拒否,その後のロッカールームでも素行が悪かった等が原因でクラブから活動停止の処分を受け,結局C大阪を退団するということがありました。実際にどういうことが起こったのかはわかりませんし,この引用部分で紹介されている選手の素行と単純に比較はできません。ただ,選手個人の個性として受け入れるところにナーゲルスマンのすごさがあると思いました。その後にこういう発言も紹介されています。

私はサネのようなタイプが好きなんだよ。人によって意見が分かれるところがあるかもしれない。ただ、それは彼が人が理解できないような発想をするからなんだ

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チームとしての規律はもちろん大事,ただ,多様性のない組織にはもろさもある。きっとそういうことを考えているのでしょう。人とは違う発想ができること,その創造性がもたらす効果をポジティブにとらえてチームマネジメントに組み込む姿勢,そしてそれができる監督としての力量,そこがナーゲルスマンを一流の監督にしている理由なのかもしれません。

原則41:社会問題に対して、自分の立場をしっかり発言する

公的な立場の人間には、社会的な責任が伴う。黙って他の人が答えるのを待つ、というスタンスは取るべきではない。社会問題に対して自分の立場をしっかり持ち、それを表現することが大事だ

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これができる人も多くはないでしょう。とくに,社会問題に対してはなかなか発言がしにくいことは想像に難くありません。しかしながら,監督という仕事には社会問題に対して自分の意見を明確に表現することも含まれると考えていること,そしてそれを実行できる覚悟があることは尊敬に値します。研究者は「公的な立場の人間」とはまた違うかもしれませんが,社会問題に対して自分の立場を明らかにする人はあまり多くありません。私もその一人です。言及する問題にもよりますが,やっぱり発言するまでに要する思考と時間が私にとっては負担が大きいと思うことが一番の理由です。瞬発力がある人なら的確なコメントがすぐに出てくるのでしょうが,私はそういうタイプではないので。言い訳っぽいですが,私はまだナーゲルスマンのようにはなれそうにありません。

原則42:魅力的なサッカーを展開する

もしホームの観戦に45ユーロ払ってシュートがわずか2本で0‐0のドローに終わったら、ファンはどう思うだろう?そんな試合が日常になったら、サッカーに未来はない」

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勝利するだけでは十分ではない,圧倒的に勝つことを是とする姿勢は,現在のJ監督でいうと2連覇中の川崎F鬼木監督が思い浮かびます。毎試合必ず3点取る,ということをよくインタビューでも述べていますし,勝てばいいのではなく観客を魅了する試合を見せた上で勝ちたいという気持ちが試合後のインタビューでもよく伝わります。

2点取られても3点とって勝つという攻撃サッカーで一時代を築いたわがガンバ大阪も,近年は低迷が続いていて得点数も基本はJ1で下位。ナーゲルスマンのように魅力的なサッカーをしたいという願望は監督も選手も持っていることでしょう。しかし現実はなかなかそのようにはいかない。残留争いというのは辛いものですね…

原則43:好きなように生きる

もし仕事上で自分を偽らなければならない日が来たとしたら、もうその仕事をやろうとは思わない。私は他の人が望む人間になるのではなく、自分が望む人間になりたいんだ。自分の考えを口にできなければ、もはやそれは自分ではない

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これは仕事を今後続けていく上で指針にしたい言葉だなと思いましたね。なんとなく,この引用を読んでも「そうは言ってもね…」という人もきっとたくさんいるのではないかと思います。自分がそう思わないということ,少なくとも今は自分の考えを口にできるということ,どちらも良かったなと思います。

原則44:間違ったら、潔くミスを認める

私は自分の意見をはっきり言うタイプだ。同時に、もし自分がミスをしたら謝る人間でもある。

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これ,教師という役割を演じているときは特に難しいなと思います。やっぱり,教師は正しくないといけない,間違ってはいけないということを児童・生徒・学生も思っているでしょうからね。同じことが,「知らないことは知らないと言える」ということにも当てはまると思っています。教師はなんでも知っていると思われていて,そして知らないということは学ぶ側からの信頼が低下する要因になりうると思ってしまいがちです。実際そういうこともあるでしょう。ただ,私は間違ったら潔くミスを認める教師,そして知らないことは知らないから調べると言える教師であり続けたいなと思います。

原則51:オートマティズムの罠にはまらない

判断が伴わない「自動化」には限界がある

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オートマティズムには他のデメリットもある。選手がその瞬間にふさわしいと判断して行動するのではなく、『練習したからやらなきゃ』という思考停止に陥らせてしまう恐れがある。

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これは言語教育における機械的な練習に対しての批判としても捉えられるかもしれません。よく,考えなくても口をついて出てくるくらいに練習するとか,それが言語能力の基盤になるというようなことを見たり聞いたりします。サッカーと言語使用はまた違うかもしれませんが,言語使用場面でも様々な判断が求められることは普通にあり,その判断力を養うことが重要なのだと思っています。思考停止に陥る可能性についても同様ですね。

学習者に様々な場面で判断が求められる課題を課すこと,そして,その判断の指針を提示すること,これを意識して授業をやっていきたいですね。

COLUMN:名将たちとの縁

すべての局面を包括して考える

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これは,トーマス・トゥヘル(現チェルシー監督)の練習をナーゲルスマンが描写している場面です。シュート練習,パス&コントロール練習といったように個別に取り上げたり,アップ->基礎練習->試合形式の練習のように線形で考えるのではなく,「試合をトレーニングにマッピングする複雑な練習をしていた」とナーゲルスマンは語っています。この考え方を言語教育にも応用できないかなというのが,ちょうど1年前くらいからずっと考えていることです。

おわりに

教師論,授業論,仕事論,そんなレンズを通してこの本を無意識的に自分が読んでいるのだなと思いました。サッカー観戦それ自体はサッカーを純粋に楽しんでいますが,サッカー関係の書籍,特に指導とかが関わってくるものだとやっぱり自分の仕事とかに引きつけて読みがちですね。色々と刺激をもらうことができました。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

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