文章の断片を並び替えるタスクに現れるもの

はじめに

コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』のpp.96-97に,”Put the Story in Order”というタスクがあります。このタスクは,英語力の「ごまかし」がきかない課題だなと実感したというお話。

どんなタスクか

この課題では,学習者は1つの物語を行ごとに切断してバラバラにしたものの片方を受け取ります。そして,ペアの相手の学習者はもう半分の行を持っています。「文」ではなく「行」と表現しているのは,1つの「ピース」は必ずしも完全な文ではないからです。自分の持っている行の束を見せ合うことなく,元の物語の順番にそれぞれの行を並び替えるというのがこの課題のゴールとなります。1行目は片方の学習者に与えられており,2行目以降を考えます。必ず交互にくるように,つまり自分が1行目を持っていたら2行目は必ず相手が持っている,のように課題を構成するかどうか,そしてそれを活動前に学習者に伝えるかどうかによって難易度の調整が可能です(もちろん,交互でさらに学習者にそれを伝えると難易度は下がります)。

この課題は情報合成と呼ばれるタイプの課題で,分割された情報を組み合わせることによって1つのものができあがるという性質を持っています。お互いに与えられた情報の間にギャップがあり,それを埋めることを求められるという意味では間違い探しのような典型的な情報交換タスクと似ている部分もありますが,情報交換タスクではパズルのピースを組み合わせるようなことは求められていません。その意味で,情報合成タスクは情報交換タスクとは異なります。

課題のポイント

この課題では,言語的な知識の側面と,議論をすすめるためのメタ的な会話,の2つの要素が重要となります。この重要性は,例えば同じ情報合成タスクでも複数コママンガの並び替えのような課題で必要とされるものとは比較にならないほど高くなります。例えば,自分の持っている文が”I think that”で終わっていれば,その次に来るのは

  1. 主語+動詞(thatが節のマーカー)
  2. 助動詞+動詞(thatが指示代名詞で節内の主語の場合。I think that would be interesting….のように続く時など)
  3. 現在形の動詞(これもthatは代名詞で主語になる。I think that requires a lot effort….のように続くときなど)
  4. 名詞(thatが「その」の意味の指示形容詞の場合。I think that man you saw was the suspect….のように続くときなど)

などのような可能性が考えられます。ここまで明示的な知識がなかったとしても,どのような単語のつながりは文法的にありえて,どのようなつながりはありえないのかについてを判断する知識を持っていなければ,この課題の達成は非常に困難となります。つまり,意味中心のやりとりで文法的な部分の理解が多少あやふやでも相手とのやりとりを重ねてゴールに近づいていけるようなタスクとは異なるアプローチが必要になってくるということです。

さらに,文法用語,最低でも品詞(動詞,名詞,形容詞,副詞,前置詞くらい)を英語で表現できないと,文法的なルールをヒントにして文の並び替えを行うことは難しくなるでしょう(し,もっといえば文法規則についての明示的な知識がなければ,そもそもこの課題を文法の規則をベースに解決しようという発想にすらいたらないかもしれません)。

また,自分たちがどのような「作戦」を取るのかを話し合う必要も出てくるでしょう。学習者たちのやりとりを見ていると,この「作戦」がタスクの成功の鍵を握っていると感じる場合も多いです。例えば,この課題を進めるにあたって私が教室内で4つのペアを観察した限りは次のようなパターンが有りました。

  1. 次の行を探す際,自分も意思決定に参加できるように,相手が持っている文をすべて読み上げてもらい,どれが自分の持っている行の前あるいは後ろに来そうかを考えるようにする
  2. 1の派生とも言えますが,相手の読んだ文をすべて書き写そうとする(これやると書き写した後は個人で課題の達成ができてしまうので,基本的には非推奨だと思います)
  3. 行の順番を特定する前に,バラバラの状態のお互いの持っている行に任意の記号(アルファベット)を付与する(これによって,記号を使ってやりとりできる)
  4. 1->2->3…と最初から順番に特定していくのではなく,最後の語と最初の語の組み合わせで比較的容易に繋がりそうな行を先に特定し,その上で話しの流れを踏まえて最終的な順番を特定していく
  5. 文法的なことよりもむしろ意味内容に焦点をあて,ストーリー全体の流れを大まかに予測し,それに沿うように行を並べていく(ただ,基本的には文法を考えるほうが圧倒的に短い時間でタスクが達成できると思います)

もちろん,これらは「最初からそうしようと決めて始めた」というケースと,途中で「こうしたほうがよさそうだ」と気づいてそのようなストラテジーをとったケースとがありました。いずれにせよ,こうした「課題の進め方」に関する意思疎通は,ただ情報を交換するよりも難易度が高くなります。

チャレンジングな部分

私が持っているクラスの学生で,例えば複数コママンガの並び替えはこちらの想定したくらいの時間でゴールまでたどり着くような場合でも,文章の並び替えとなるとその2倍から3倍以上の時間を必要としていました。

ちなみに,私がこのブログ記事を書くに至ったきっかけはテストでの学生たちのパフォーマンスを見て,です。学期中に一度この”Put the Story in Order”をやって,別の素材で同じ課題をやったのですが,少し文章が難しいかなとは思っていたのですが,私が思っていた以上に全員が苦戦していて,おそらく私が4月から見てきた中で初めて「難しすぎてモチベーションが急降下した」瞬間を目の当たりにしてしまったのです。学生には本当に申し訳ない気持ちになりました。

苦戦していた学生は,言語的な部分もそうですし,意味的な部分も統合しながら,つまり,文法的にも意味的にも文として成立するか,”That doesn’t make any sense.”とはならないかについての判断を適切に下すことができていないように思いました。ここが,私が「ごまかしが効かない」と冒頭で表現したことにつながります。タスク遂行中は基本的に意味のやり取りに焦点があたります。したがって,consciousness-raising taskのように意図的に学習者の注意を文法的側面に向けさせるような課題でなければ,たとえ文法項目のターゲットを学習者には直接伝えない形で設定したfocused taskであっても,学習者は文法面に注意を向けることが難しくなります。なおかつ,文法的な正確性に欠ける発話であったとしても,相手に自分の言いたいことが伝わっていればタスク達成に著しく支障をきたすようなことはあまりないと思います。ところが,この並べ替えタスクではその「曖昧さ」が許容されないことがしばしばあります。もちろん,行をどこで区切るのかで言語的なつながりの見つけやすさ・見つけにくさを変動させることは可能ですが,基本的には「なんとなく」では最後までたどり着けないことが多いです。絵の並べ替えタスクとの違いはここにあると言えるでしょう。

ただ,これは絵の並べ替えタスクが「なんとなく」でできるというわけではなく,絵の並べ替えタスクも絵の微妙な差異や変化を言語的に表現できなければ順番が特定できないということもあります。しかしながら,絵の情報をどうやって伝えるのかは学習者の工夫次第で乗り越えられる部分がある一方で,行の並び替えはそういった学習者の表現方法の工夫で乗り越えられる要素があまりないのではないかと思います。

おわりに

この課題は,文章という素材があればあとはそれを行ごとに区切って分割するだけなので,どのような素材を用いてもタスクを作成することができます。さらに,文法的な知識も要求される課題ですので,「タスクをやらせると盛り上がるけど,でも文法がおろそかになってしまわないだろうか…」ということを懸念される先生方にとっても取り組みやすいのではないかと思います。

事前に品詞の英単語くらいは与えておくことはやっておくのがよいかと思います。もちろんなくてもできなくはないと思いますが,特に高校段階くらい以上だと品詞の概念を使うほうがいいと思います。また,課題作成時の注意点として,文章のすべてを並び替えるのは難しいので,出だしの部分は全体で共有し,内容理解を済ませた上で,物語の中盤から後半あたりの並び替えをするようにしたほうがよいと思います。

他のタスクに取り組んでいるときとはまた違う学生のパフォーマンスが見れるので,今後もこういう系のタスクを適宜取り入れて授業をやっていきたいなと思います。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

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