ChatGPTにフィードバックを「外注」する

はじめに

ずっと下書き状態だったんですが,もうこのままサクッと公開しようと思って公開します。授業の中で,今まで自分(教員)が学生の書いた英文(基本的には単文)にフィードバックしていたのですが,それを学生がChatGPTにフィードバックを求める課題にした,というお話です。

どんな授業か

2回生向けの,Listening&Speakingの授業です(教養外国語のクラスで学部は理系)。クラスサイズは35名くらいで,教科書を使いつつ,半分くらいの時間はペアでのインタラクション・タスクをやっていました。そして,post-taskとして,ワークシートに「言いたかったけど言えなかったこと」という欄に自分がタスク中に言いたかったけどうまく言えなかったことを日本語と英語で書くということを学生には求めています。この部分は授業中に終わらなかったら宿題ね,という感じで,ワークシートは写真に撮ってPDFにして毎回LMS上で提出してもらっていました。このpost-task部分の英文をLMS上に提出されたPDFを見て,私からコメントが必要な場合はコメントを返す,というようにしていました。単文とはいえ,この言い方はどうなんだろう,と思うことは結構あって(もちろん自分の感覚が間違ってることもありました),それをChatGPTにやってもらおうと思ったという。最初は自分がChatGPTに学生の書いた英文を見てもらうようにしていたのですが,なにせLMS上でタイピングしているわけではないので,手書き文字をいちいち打ち直さないといけないと。どっちにしろめちゃくちゃ時間かかるじゃん,ということで,それなら学生がChatGPTで事前に添削してもらったものを教員がチェックするほうがいいかなということで,学生に使わせることにしました。

具体的な方法

学生には,ChatGPTのアカウント作成方法などを書いた資料を配っていました(今はログインなしでも使えるのでこれは不要ですね)。ChatGPT3.5(無料版)だと,英文の添削と理由の説明をお願いしても,理由も英語で説明してくる場合があります(今はわからないです)。そういうときに,日本語で説明して,とやりとりをして日本語の説明を出してもらう,そういう部分も含めてスレッドを全部画像として提出するように学生にはお願いしていました。つまり,最初にどういう入力をして,どういう出力が返ってきたのかのやりとりを提出させる,ということです。こうすることで,一応ChatGPTが全部書く,ということを抑制しようという狙いがありました。

また,私はそこは直接的には狙っていなかったのですが,こういう方式をとることで,結構学生の学習になっている部分があるな,学習につながるやりとりができているな,と感じる部分もありました。一応こちらでテンプレのプロンプトは提示していますが,自分で考えて,「XXXXXXXXXXXXをYYYYYYYYYYと訳しました。あってますか」(Xには和文,Yには英文が入ります)と聞いてる学生もいました。その他にも,自分で色々気になったことを聞いてる様子がみられました(すべての学生からではないですが)。以下はその例です。

  • separeteとdivideの意味の違い
  • 冠詞のaとtheの使い分け,訂正された英文に冠詞を入れる必要がないかどうか
  • be動詞と動詞の接続(may be likeはあってるか,とか)※このlikeは動詞
  • severeとseriousの違い
  • thinkとconsiderの違い

また,ただ添削するだけではなく,語彙や文法について,私が指示していなくてもChatGPTに聞いている様子もありました。さらに,次のようなことをChatGPTとやりとりしている学生もいました。

  • 英語にしてもらったものをさらに日本語に訳させて自分が伝えたい意味になっているかを確認する
  • 提案された表現が自分にとって新規のものであった場合に,どのようなケースで使用するのか
  • 修正の提案が間違っている場合に,間違っていることを指摘する
  • 英文を読み,自分の意図と違っている場合には自分の意図を伝えて再度英文を作ってもらう

最初は使い方へのフィードバックがいる

最初からうまくできるわけではないので,最初の何回かは明示的にうまく英文添削をしてもらえている例とうまくできていない例(例えば,自分で英文を作らずに日本語を英訳してもらうことをお願いしている,英文を添削してほしいというプロンプトなしで英文をChatGPTに投げるので,ChatGPTは普通にその英文に応答して会話をしているなど)を提示していました。そのうち,私が別に教えなくても学生自らが様々な方法でChatGPTとやりとりを繰り広げる様子が見られるようになったという感じです。

授業中に学生に声を掛けることに対する迷い

こうやって文法指導的な部分をChatGPTに外注していると,それまで授業の内外で自分が担っていた指導が必要なくなることになります。もちろん,ChatGPTの出力と学生の言いたいことをモニターして,うまく英文を作れていなかったら,あるいは文法解説が間違っていればこちらからフィードバックを出すことはあります。ただ,授業中に例えば学生の書いている英文に誤りを見つけたときに,迷うことが増えました。その場でフィードバックもできるのですが,結局あとでChatGPTに自分でフィードバックをもらいにいくことになるわけで,そこで誤りが見つかるほうが学生にとって良い経験になる可能性もあるのではないかと考えるようになったのです。

個人的な感覚ですけど,間違いを指摘される際にその場で,なんなら周りにそのことがもしかしたら聞かれているかもしれない,という状況でフィードバックをもらうよりは,自分の自学の時間で感情のないAIからフィードバックを受けるほうが精神的にいいのかなみたいな。

このあたりは,まだまだ試行錯誤という感じです。

学生の反応

ちなみに,学期末の授業評価アンケートで,このChatGPTに英文を添削してもらうという課題は意味がないからやめたほうがいいというコメントもありました。私から見ると有効活用している例が結構あったのでそれはいい英語学習になっているなと感じたのですが,私の意図が伝わっていない学習者にとってはこの課題自体を自分の英語学習に有用だという認識を得られなかったということになります。匿名のアンケートなので詳しくどういう印象だったかを聞くことはできなかったのですが,結構気にはなっています。

おわりに

最近は研究でもどんどん生成AIの利用について様々な観点の研究が出てきていますね。実践するうえではそういう研究も参照しないとなーと思ったりはします(するだけ)。

なにをゆう たむらゆう

おしまい。

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