カテゴリー別アーカイブ: 献本

【新装改訂版】外国語学習に潜む意識と無意識(献本)

私がもっとも敬愛する友人であり尊敬する研究者の福田純也先生(※「もっとも」が修飾するのは友人としての敬愛です)より『【新装改訂版】外国語学習に潜む意識と無意識』(開拓社)を献本いただきました。ありがとうございます。そして,このご紹介が遅くなってしまったことをお詫びします。

私はこの本(厳密に言うと,新装改訂版の前の本)を,私が3年次ゼミを担当することに決めた年からずっとゼミの教科書に指定しています。数年前に1人ゼミに入ってきた学生と使い始めた当初は,誤字脱字も散見され,難しいことを難しく書いてある印象もありました。私が補足をしながらゼミをする感じで,それはそれで,「読んだら全部わかる」というわけでもなかったので私がいる意味があったという感じではあったのですが。今回の改訂版では版が一回り大きくなりました。また,情報の提示順序が整理され,研究紹介もボックス形式でまとめられていて,初学者にとって格段に読みやすくなったと感じます。福田先生がご自身で書かれているようにかなり力の入った改訂であるなという印象です。

私がこの本をゼミ(参照:ゼミ選びのプロセスでこのページに来た人へ)で使う理由は,言語習得研究や言語研究「そのもの」の面白さを学生に伝えたいという私の目的にぴったり合っているからです。初学者向けの第二言語習得のいわゆる「王道」的入門書は割と内容が似通っていてしばしば退屈です。私個人は,もちろん「王道」第二言語習得研究を通過して,「第二言語習得研究ってすげー!!」ってなってこの道に進んだ者ではあるのですが,その道に入っていくにつれて,「なんか違うぞ?」「本当に知的好奇心をくすぐられるところってそこじゃないよな?」って気持ちになっていったんです。その私にとっては,「そう!面白いのはそこ!」っていうポイントがたくさん詰まってるんですね。

本書では「王道」のインプット仮説やアウトプット仮説といった「有名」仮説にもさらっと触れられています。これらの仮説は正直,私が思っているSLA「研究」にとって大きな情報量を持つわけではありませんが,全く無視するのもどうかと思うところで(いわゆる「教育的示唆」的な受けはいいと思いますが,研究仮説としてはオワコン),本書のようにうまく位置づけて触れている点は,テキストとして非常にバランスがよいと感じています。

既存の「王道」SLAに違和感を覚える方にはもちろん,むしろ王道派の方にこそ「言語習得研究の面白さはここにもある」と知っていただきたい一冊です。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

AIで言語教育は終わるのか?(献本)

同僚の水本先生より,『AIで言語教育は終わるのか?:深まる外国語の教え方と学び方』を献本いただきました。ありがとうございます。まず,このご紹介が遅くなってしまったことをお詫びします。

水本先生の「AIとライティング教育」の章は,ライティングの授業で生成AIの利用を促している自分にとって「必読」の内容でした。同じ授業(ライティングの授業ではなく,学部1年生向けの文法と語彙の力を伸ばす目的の授業)を水本先生と分担している関係で知っていた話もありましたが,それ以上に新たな気づきが多く,自分の授業実践を振り返るきっかけになりました。特に「学生に使わせる仕掛けや練習の不足」が,自分が授業で感じていた“いまひとつ感”の原因だったのではないかと実感しました。ガイダンスや説明だけでなく,実際にAIを使う練習を組み込むことの重要性を改めて認識しました。

また,長谷部陽一郎先生の第2章(AIと言語研究)第4節の「記号接地問題」に関する議論も大変興味深く拝読しました。生成AIの登場以降,(おそらくですが個人的な印象では)今井むつみ先生の影響で身体化の観点から語られることが多い「記号接地問題」というテーマですが,本書ではラネカーの認知文法を参照しながら,身体化に依拠しない定義を提示し,身体的な「記号接地」ができないAIも記号接地しているのではないかという視点が展開されています。この多角的な切り口は,自分にとって新鮮な学びとなりました。

言語教育に携わる人は,ぜひ一度手に取ってみる価値があると思います。興味のある章だけでも読んでみてほしい一冊です。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

The snoop detective school(献本)

鈴木祐一先生より The snoop detective school を献本いただきました。ありがとうございます。まず,このご紹介が遅くなってしまったことをお詫びします。

この教科書の大きな特徴は,ユニットを貫くストーリー性と,RPG的な「レベルアップ感」です。学生は簡単なことから徐々に難しいことへ,ストーリーを追いながら自然に挑戦できる仕組みになっています。私が編著で関わった,TBLT型の教科書であるGetting Things Done(GTD)のように,「順番に縛られない」タスク型(どのユニットから取り組むか,どんな順番で取り組むかは自由な教科書)とは異なり,この本は物語の流れに沿って進むことで「次に進んでいる実感」が得られる点が魅力だと感じました。

また,Task first と Practice first の両アプローチを想定しているところも大きな特徴です。つまり,どのセクションを先に取り組むかで,TBLT的にも使えるし,PPP的にも使える教科書になっているというのも,前述のGTDとの大きな違いです。いや~商売がうまいな,と思いました!笑 そういう柔軟性をもたせておけば,タスクやりたい!という先生にも,タスクは無理だけどPPPでコミュニカティブにやりたい!という人にも使ってもらえますからね。

特に活動ベースで学ぶことが好きな学生には親和性が高い印象です。著者の「How to use this textbook」にあるように,ミックスレベルやビギナーにも対応できる構成ですが,しっかり説明を聞いてから取り組みたいタイプの学習者よりも,まず体験から学ぶことを楽しむ学生にフィットするのではないでしょうか。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。