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修士課程を卒業して、博士課程や研究者へのあこがれがありましたが、結婚・育児・家事などにかまけて…

はじめに

Querie.meで頂いた質問に回答を書いていたら少し長くなってしまったのでブログ記事にしてしまおう企画第3段。

いただいた質問は以下です。

修士課程を卒業して、博士課程や研究者へのあこがれがありましたが、結婚・育児・家事などにかまけて、単なる非常勤講師としてもう何年も過ぎてしまいました。非常勤は不安定で、いつ契約が切られるかもわかりませんので、社会保険に入れる安定した仕事につきたいです。今となっては学会で研究発表する気力もありません。人生どうすればよいのでしょうか。

回答

まずはじめに何点かお断りさせてください。私は質問者様の背景について,上の質問で書かれていること以上のことは想像でお答えるすることしかできません。また,想像でお答えしますので質問者様の実際の状況や心情に沿った回答にならないかもしれません。そうした前提の上で,書かれていることのみを元に,私なりに精一杯質問に対する私の考えを述べさせていただきます。さらに,無料での匿名のご質問に対する回答ですので,質問者様の人生について私は一切の責任も持つことはできません。「お前が言うな」ですとか,「お前にそんなこと言われたくない」と思われてしまうかもしれないことを百も承知で,ただし私は全力で以下の文章を書きました。

私の個人的なこと

私と質問者様の共通点として「アカデミアという業界にいる」ということはおそらく間違いないのではと思います。ただし,分野が同じかどうかということはわかりかねます。したがって,私がいる分野で私が見ている景色,を前提に書かせていただきます。

私は生存バイアスの塊といいますか,本当に今のキャリアを私が歩めているのは本当に私の実力であるとか言うことではまったくなく,本当に運とめぐり合わせでここまで来たと思っています。そのような私が,不安定な非常勤の立場の方になにかアドバイスを差し上げること自体がとても心苦しいといいますか,どれだけ質問者様の気持ちを慮ろうとしても不可能であると思います。ただ,私と質問者様で抱えている悩みが全く異なることは,偶然でしかなかったということは思っています。

ライフプラン

質問者様の「結婚・育児・家事などに」というお言葉から,おそらくですが現在もパートナーの方がいらっしゃって,その方と家庭を作られているのではないかと想像します(そうではないということでしたら申し訳ありません)。そうしますと,「非常勤は不安定」といったときの「不安定」さはパートナーの方がどのようなお仕事をされているのかということにも依存してくることかと思います。質問者様のジェンダーも質問の内容のみから推測することはできませんが,ジェンダーの規範(男が稼いで等)はいったん置いておいて,パートナーの方と力を合わせてどのように生きていくのが良い選択なのかということをお考えになるのが良いのではないでしょうか。

もちろんいわゆる二馬力で世帯年収を高くするのが質問者様にとってもパートナーの方にとってもリスクを軽減する道だとは思います。しかしながら,パートナーの方がメインの稼ぎ手を担って,質問者様はパートタイムで働きながら家庭の負担を軽減するという道もあるのではないかと思います。そのことによって,自分が思い描いていたような専任職への道が絶たれてしまったとしても,それは質問者様が何を人生の最優先事項と考えていらっしゃるかという問題でしょう。

あこがれについて考える

「博士課程や研究者へのあこがれ」ということを考えたときに,研究の道に進むということに対してご自身がどの程度のあこがれを抱いていたのか,そして,なぜあこがれを抱いたのかについてもう一度考えてみてはいかがでしょうか。

先日,私がよく見ているインターネット番組で,サッカー元日本代表の内田篤人さんはこんなことをおっしゃっていました。

もしサッカー選手になりたければ、夢を叶えるためにサッカーを続けていく。でも、苦しいな、嫌だけど練習に行こうかなと思っていたら、多分その夢は違うと思う。僕はサッカー選手になれたのは、なろうと思ってサッカーを始めたけど、ずっとなろうと思ってサッカーをやっていたわけではない。楽しくて楽しくて朝も早く起きて、みんなとやって行った結果、プロになれた。努力しよう、何かを頑張ろうと思わなくていい。普通に生活してサッカーにのめり込んだ方がいい。そしたら結果的になれましたというのが理想的だと思う

子どもたちの“夢”に対する質問に内田氏が伝えた言葉とは。「僕はずっとなろうと思ってサッカーをやっていたわけではない」 | 内田篤人のFOOTBALL TIME

「今となっては学会で研究発表する気力もありません。」という質問者様のお言葉から察するに,研究活動が楽しいものではなく,つらいものだとお感じになっていらっしゃるのではと推察します。研究が楽しいと思ってやっている研究者の方が100%だとは私は思いませんし,私自身も研究に臨むにあたっての苦しみというのは常に味わっています。しかし,それでも今の仕事を私が続けていけるのは,そこに人生をかけられるくらいには研究が辛くないということなのだと思います。

もしも,研究の道にいくのがつらいとお感じになっているのであれば,なにか別の道を探されるのも一つの選択肢としてありえるのではないかと思います。博士号を取得して研究者になることだけが人生の幸せでもありませんし,ご自身がどうありたいのか,自分にとって何が幸せなのかということが最も重要なことであると思います。それがもし「博士号を取得して研究者になること」であれば,一念発起してそこに邁進するべきでしょう。その選択を取れないとお考えであれば,なにか別の道がきっと質問者様には合っているのだと思います。

私は結婚をしていない独身ですので(バツイチ子なしです),育児や家事などに割かなければいけないリソースは,ご結婚されていて家事・育児をされている方に比べれば相当少ないはずです。だからこそやっていけていると思うところもあります。正直に申し上げますと,家事・育児をやりながら研究もバリバリやられている方ははっきり言って超人です。真似などできません。私はそう思うからこそ,ご結婚されて,育児や家事などに取り組まれている質問者様のことを尊敬しています。私のような者よりもよほど社会に貢献していらっしゃいます。そのことを誇っていいと思うのです。

その上で,ご自身にとって,「安定した仕事」に何を求めているのか,それは自分の夢ややりたいことなのか,お金なのか,そうしたことを考えることで,この先の人生どうすればよいのかということについて,何かしらのヒントが得られるのではないかと思います。

おわりに

正直に申し上げまして,今回いただいた質問はこれまで頂いた質問の中でも最も回答するのが困難でした。質問者様の切実さは十分に伝わっていますが,私が果たして回答者でいいのか,私が回答することがなにか質問者様のプラスになるのか,という不安が拭えません。私が上に書いた回答は,また何年後かに同じ質問に答えるとしたら変わっている可能性も十分にあります。ただ,今の私が無い知恵を絞って考えた,私なりの精一杯の回答です。質問者様が今後幸せな人生を送られることを切に願います。

以上です。

私に質問されたい方は質問お待ちしています。

https://querie.me/user/tam07pb915

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

2022-08-10追記

アカデミアの道を目指して,そして方向転換された方としてとても参考になる記事を書いてらっしゃる方がいるのでご参考まで。

文系博士課程修了後の一般企業への転職活動記録