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【レビュー】タスク中のL1使用について

はじめに

超久しぶりに論文のレビュー記事。対象は以下の論文。メモ的なものです。

Xu, J., & Fan, Y. (2021). Task complexity, L2 proficiency and EFL learners’ L1 use in task-based peer interaction. Language Teaching Research, 13621688211004632. https://doi.org/10.1177/13621688211004633

概要

Task complexityの異なるinteractiveなタスクに取り組ませ,その中でのL1使用について,熟達度グループごとの比較をした研究です。上級グループでは複雑なタスクでL1の使用が増加しており,このL1使用はメタ認知的あるいは文法に関する会話の役割を担っていた。一方で,下級グループではそういった傾向は見られなかった。という話です。

本研究

RQ

  1. タスクの複雑さがL1使用に与える影響
  2. タスクの複雑さがL1使用に与える影響は熟達度によって異なるか
  3. タスクの複雑さはL1使用のどのような機能に影響を与えるか
  4. タスクの複雑さがL1使用の機能に与える影響は熟達度によって異なるか

参加者

  • 48人の中国語話者大学生
  • 大学一年生でレベルの違う2つの大学からリクルート(24ずつ)
  • レベルの高い方->high group, レベルの低い方-> low group

タスク

  • 複数コマのナレーションタスクで,Mr. Beanの動画の一部を10コマで表したものが2種類あって,それを二人で協力してナレーションするタイプの課題です(どっちの素材でもsimple/complexでやった)
  • 複雑さの操作
    • Robinsonのフレームワークの中で,+/- here and nowを選択
    • + here/now は絵を見ながら現在のこととして,-here/nowは写真を見ずに過去のこととしてという感じ(絵を見る時間は3分間でメモとかはなし)
    • expert ratingでも難しさの違いがあることは担保してる

手順

  • L1は使う必要があると感じたら使っても良いと言われている
  • within subject-designで同じ学習者が2つのタスクをやる

データコーディング

  • まずはL1の使用をコーディングして5つのカテゴリに分類
    – metacognitive talk(タスクのマネジメントなどについての発話)
    – grammar talk(文法について話す)
    – vocabulary talk(語彙について話す)
    – phatics(expressions such as ‘mmm, yeah, ok’みたいなものらしいです)
    – off-task talk(タスクとは直接関連しないもの)
  • L1使用の量については次の3つ
    • 全発話語のうちのL1の発話語
    • 全ターンのうちのL1のターン
    • predominant L1 turns(L2の語数と同じかそれよりもL1語数が多い)とminor L1 turnsに分類

結果

結果は以下の通り。

検定を何回もやるので有意水準を1%に設定
  • 語数とターンでは有意差あり(難しいほうがL1多め)
  • ただしpredominant L1 turnsでみると差はない
  • ただしSD広め
  • 一応RQ1はYES

熟達度別で見ると…

熟達度低いグループでは差がない->RQ2はYES

機能別では…


1%基準で有意なのはgrammarだけ


熟達度も入れてみてみると,高熟達度群でmetacognitive talkとgrammar talkだけsimple/complexの差が有意

議論

  • 以下の記述を見ると,そんなにL1使用が多かったとは著者たちは思ってないっぽい

Our results show that the participants did not use their shared L1 excessively, 27% in the simple tasks and 31% in the complex tasks. In other words, in spite of the fact that participants were allowed to use Chinese, students did not rely much on their L1,….

p.11
  • 先行研究よりは多かったということは言っているけど<-3割はさすがに多すぎでは?(今作っている教科書では,9割以上英語で話せたかというのを目安に自己評価をさせようということでいまのところやってます)
  • 意味中心のやりとりだとL1使用が多くなるとは言われているから,それが原因かも(Moore 2013, Tognini & Oliver 2012がそういうこと示したらしいけど,それどういうロジックなんだ?)<-読んでないです
  • more complex, more L1

熟達度に違いがあるL1使用例

論文中で会話のスクリプトが出てるんですがここでは要約だけ。

High group

  • complex task
    物語の詳細を描写しようとしたり,描写の質をあげるためにL1使ってる
  • simple task
    語彙を探しているときに使ってる

Low group

  • complex task
    – そもそも細かいとこまで描写しようとしてない
    – 過去形も使ってないし,それを修正しようともしない(low awareness towards linguistic forms)
  • simple task
    – こっちだと逆に細かいとこまで描写しようとする
    – でも能力的にそこまでできないのでL1を使う(主に語彙)
    – 結果的にどっちでもL1使用の量は変わらない

L1の機能

  • task management的な部分でL1使う(役割分担,どうやってナレーションするか,絵に含まれる情報,などについて話すときにL1使う)

なぜ高熟達度はL1使用多い?

  • 高熟達度群は,英語力にある程度自信があるので,より目標を高く設定して頑張ろうとする
  • その際にどうしたらうまくできるか試行錯誤する過程でL1が出てくるのではないか
  • 低熟達度群は,自分たちに自信がある内容自体とタスクを達成することに注力していた

感想

そもそも

complexなほうがL1多いと言うけれど,それはcomplexなタスクだからということではなく,学習者に与えるタスクとして(少なくともtaskを授業で使うという目的に照らして)間違っているということではないのかなというのが最初に思ったことです。機能をみたときにmetacognitive talkが他と比べてかなり多いというのは,タスクの進め方について十分な指示が与えられていなかったという解釈もできると思います。タスク遂行(今回であれば絵を描写すること)に必要なリソースは,タスク遂行についてのリソースとは異なるでしょう。pre-taskというとタスク遂行そのものへの準備に焦点がついつい向かってしまいますが,タスクをどう進めるかについても学習者はやり取りする必要が生じることはもっと認識されていいでしょう。そこでL1を使ってほしくないという思いがあるならば,task managementに必要な汎用性の高い表現は与えてしまって,それが使えるようにしてあげることはしても良いんじゃないかなと思います。そうでなければ,進め方を話し合わせなくてもタスクができるように具体的な指示を与えるべきでしょう。

そういったことまで含めて,大事なことはtask単体の複雑さどうこうの効果というよりも,授業の構成でそこをどうカバーするかだと思うし,授業の前後になにをやるかのほうがよっぽど授業内のL1使用に影響を与えるのではないかなと(それもtask complexityのmanipulationだと言われたらそうなんですけどね)。だとしたら,そうやっていろんな要因がある中で1つだけを取り上げてこういう形の研究やることって理論への貢献もあるのかないのかわからないし(いろんな要因の+/-を操作してL1の使用を調べた研究がたくさん集まったらメタ分析ですか?),実践の参考にもなりそうでそんなにならないですよね。

それタスクか?

あとは,ナレーションするタイプのタスクはいいとしてもそれを2人でやるっていうのは状況がかなり特殊だし,そもそもそれタスクとしてどうなん?という指摘もあると思います。インタラクティブなタスクをやらせるならもっとそれに適したタスクはあるはずだし,コマ使うなら10コマをバラバラに渡して,コマをストーリーの順番に並び替えるような情報合成型のタスクにすればよかったんじゃないかなとか思うところもあります。

もっと授業に関しての記述を

あとは,この論文は授業に関する記述が明らかに少なすぎだと思います。タスクをどう実施したかが5行だけです。通常の授業の中でやられたとは書かれていますが,そうだとしたら普段どのような授業をしているのか,授業と関連させているのか(授業の成績とは関係あるのかないのか),どういうビリーフの教師が普段教えているのか,等が決定的に重要ですし,実践に近いことをやるならそういうことを詳しく記述しなければ実践者が参照することも他の研究結果と比べることも難しいでしょう。実践に近いことをやればやるほどそういう要因で結果が容易に変動することは誰しもが想像できるわけですから。査読者もそういうのちゃんと指摘してほしいなと思います。

ペアの差の考慮

結果の表を見ると,SDがかなり広いですよね。だとしたら,それはペアで傾向がかなり異なっていることを示しているわけですから,こういうときこそマルチレベルの分析しないといけないんじゃないかなと思います。まああんまりテクニカルな分析に関しての指摘はしたくないので,あくまでsuggestionて感じですけど。

おわりに

面白そうかなと思って読んだら面白くなかったというオチでした。タスクのことは知識として持っておかないとなと思う一方で,こういう論文はそろそろ読むのがつらいです。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

追記

Twitterで反応をもらったので追記します。やや複線化してますけど。

上のレビューでは先行研究のレビューの部分をがっつり端折ってしまっていますが,最初のイントロの部分で,インタラクション中のL1使用はL2 learningにポジティブなインパクトをもつという前提にいることを書いてはいます。

(前略)a growing body of research supports that students’ L1 use can be a social and cognitive tool (Alegría de la Colina & García Mayo, 2009; Antón & DiCamilla,1998; Storch & Aldosari, 2010; Thoms, Liao & Szustak, 2005). That is, judicious use of L1 can enhance L2 learning, giving full play to it as a mediating tool to analyse language and perform tasks. Specifically, L1 contributes to supporting peer interaction, helping learners’ negotiation of social identities and pro- moting the exchange of more meaningful and sophisticated ideas (Al Masaeed, 2016) (p.2)

で,このあとに,L1使用に影響を与える要因として熟達度があることを指摘し,それに加えてタスク要因もあるんじゃないかということで本研究がそこを見るよという流れですね。

ただ,そうであっても個人的にはタスクを用いる理由とその背後にある理論を考えれば,L2使用にこだわる理由があると考えるので上の「そもそも」に書いたようなことを思ったということになります。そういうバイアスで読んでいたので,「L1使ったからどうだっての?」という亘理先生の指摘は最もです。

とりあえず一旦ここまで。また加筆するかもしれないです(2021/04/28 19:15)。