slackでテキストチャット型テストをやってみた感想

はじめに

以前,下記のようなブログ記事を書きました。

ペアやグループでの「会話テスト」もテキストチャット (Slack) なら効率的に回せるかもという話

この記事の中で,通常のスピーキングテストなら複数人と同時にやりとりはできないけれど,テキストチャットならそれが可能かもしれないという話を書いています。実際にいくつかの形式でテキストチャットで同時に学習者とやりとりする形のテストをやったのでどんなふうにやったのかと,その感想をこの記事では書きます。

やり方

クラスによって,いくつかのパターンでやってみました。

教師は複数のグループのやりとりを同時に観察するだけ

このパターンは,普段私が授業で使っているslackの使い方とほとんど同じです。この形式だけが,教師相手に会話するのではなく,学習者同士(3〜4人)で会話する形式でした。時間は60分間に設定し,全グループが同時にスタートする形としました。

お題はテスト開始と同時にリスニングで与えて,いわゆる悩み相談的なタスクにしました。悩みに対する解決策を示すというのがタスクのゴールです。

この形式だと,教師は学習者のやりとりだけに集中できます。よって,事前にルーブリックをグループごとに用意しておけば,ある程度はテスト中に評価をしていくこともできます。スピーキングテスト中に机間巡視するのとは違い,学生たちのやりとりはすべて教師に見えますので,どのようなプロセスを経て現在地にいるのかを逃すことがない点は便利です。

ただし,やはり複数のグループの評価を目的にやりとりを見ていると,なかなか教師がやりとりに介入していくのは難しいように思いました。積極的な介入を重視して評価はテスト後にするか,介入は極力控えて評価を優先するかのどちらかだと思います。もしもこの2つを同時にしようと思ったら,一度に観察するグループは3~5くらいが限界でしょう。

グループ対教師のやりとり

この形式は,3~4人の学習者グループが教師とやりとりする形式です。お題は教師に何かを提案する形式としました。例えば,「オンライン授業において導入してほしいツールの提案」や「この授業において,学生・教師・学生と教師が守るべきルールの提案」などです。これらのお題とグルーピングは事前に学習者には伝えていて,どのように提案するのか,もし提案を断られた場合や懸念を示された場合にどう対応するのかというところまで考えておくように指示しました。

当日は,授業時間を35分×2セッションに分けて,6グループずつとやりとりするようにしました。教師はあえて極端に提案を突っぱねる(もちろんロジカルに)ようにして,そこでの学習者の出方を見るようにしていました。この程度を調整することで,学習者のレベルをある程度判定できたように思います。例えば,こちらの反論に対してすぐに再反論や問題の解決策の提示ができるようだとさらに反論をしてみたり,あるいはこちらの反論に「ぐぬぬ」となってしまい有効な反論が出てこなければ,その点は深追いせずに別の論点を提示するなどしていました。

教師対学習者の1対1のやりとり

この形式は,いわゆるインタビューテストで,教師と学習者が1対1で会話する形式です。内容は,教科書のユニットごとに決まったテーマについてのフリートークで,学習者側にホスト役になってもらうようにしました。ただし,こういう役回りにすると事前に用意した質問をただただ投げるだけになってしまうので,echo, reaction, follow-up questionを使ってやりとりができているかどうかを評価の観点の1つとして取り入れました。

時間は17分で,90分を4つのセッションに分け,セッション間に5分間のインターバルを入れました。学生には事前にスケジュールを提示しておき,時間になったら教員にDMを送って会話をスタートするという形です。

42.5インチモニタを6分割表示設定にして,ブラウザを複製してslackを6箇所で開いてやりとりしました

5分間のインターバルがあるといってもほとんど休憩なしで,17分間ひたすら学生からのポストに返事をし続ける感じでした。少しの遅れでも学生の不利益になるので,とにかく返事は1分以内にすべて返すということを徹底しました。よって,めちゃくちゃ疲れました。

流暢さがある学生だと,だいたい15〜18ターンくらいはやりとりができました。もし仮に90分を24人で割ると1人3分くらいしか会話の時間は取れないことになります(それでもたぶん交代にかかる時間とか考えるとカツカツ)。3分で15ターンだと1分で5ターンなので,だいたい単純計算で12秒で1ターンくらいのスピードでやりとりする必要があります。レベルから言って口頭でそのくらいのスピード感で進むかと言われると厳しいかなというのが私の見立てなので,テキストチャットの利点をうまく生かして学習者とのインタビューテストができたなと思っています。

ざっくり感想

一度に6グループ(6人)なら全然いける

まず,6グループ,あるいは6人なら同時のやりとりも可能だなと思いました。もちろん最初は戸惑うことはたくさんありましたが,やはり学生の入力スピードとこちらの入力スピードだとこちらに圧倒的に分があるので,そのアドバンテージを生かしてやれました。ただ,1人とやりとりするよりはグループとのやりとりのほうが難しかったです。なぜなら,グループだとこちらの1の返事に向こうから2, 3の返事が返ってくるからです。論点がまとまっていればまだしも,たまに複数の論点に対してこちらが返答しなければならない場合があり,結構しんどかったです。1対1だとそういうことはあまり起こらないので,比較的ラクでした。

コピペを多用できる

複数の学習者を相手に同時にやりとりするのを可能にしたのは,コピペ戦法です。私はランダムにお題を与えていたので,お題がある程度被っているときと,ほとんど被っていないときとありました。お題が被っている場合,同じような質問だったりコメントだったりが学生から出てくることも多いので,その場合別のグループですでに答えたことを,同じお題でやってる別のグループにコピペして投稿するようなことも頻繁にやっていました。学生側からすると「ずるい!」となるかもしれませんが,こちらとしては同じ内容なら何度も同じこと書くよりコピペしたほうが早いから許してくださいという感じです。もしもセッションごとにお題を固定して,6人・6グループがすべて同じお題で取り組むのであれば,コピペの頻度はもっと高くなることが見込まれるので,より一層教員側の負担は減るかなと思います。

後から評価するにしても楽

学生と教師がやりとりするパターンの場合,やりとりしながら評価は無理でした。これやるのであれば,おそらく3人・3グループが限界でしょう。それ以上だと,いくらルーブリックを事前に練っていてもその場で評価だと絶対に返事のタイミングが遅くなってしまうと思います。

ただ,もしも評価をテスト後に行うとしても,音声を録音させたものを後から提出させ,それを聞いて評価するよりはよほど楽でした。なぜなら,すべてやりとりした記憶があるからです。

とくに,学習者同士のやりとりを録音させるようなケースだと,ほとんど内容はわからない状態で音声を聞いて評価をしますので,頭から最後まで聞かないと評価できないケースがほとんどです。

一方で,自分がやりとりの相手だった場合,「あーそうだこのグループはちょっとこの話題で詰まってたところあったよなー」とか「○○がほとんど話題に入ってこれてなかったなー」とかいうエピソード記憶的なものがやりとりの断片を見るだけですぐに思い出せます。また,音声を聞くより文字を眺めるほうが圧倒的に早く全体を処理できますから,評価にかかる負担感は間違いなくテキストチャットのほうが低いと思いました。

オンラインだからこそ待ち時間を有効に使えた

ちょっと話はそれますが,もし教室内で,グループ,個人ごとに教師のところに来させてテストしようと思うと,待ってる間をどうするかが問題になります。

同じ教室内でリスニングテスト受けてもらおうにも,会話がワイワイ盛り上がったらリスニングテスト受けている人たちに迷惑ですし,かといってコソコソ話すのもなんか違う。2教室用意して別室でLMSでリスニングテストさせているなんていう話も同僚の先生から聞いたことがありますが,ちょっとハードルが高いですよね。その点,LMS上での課題に慣れていて,なおかつ全員が同じ場所にいる必要がない今のような状況だからこそ,待っている時間はLMSで別のテストやっててねというのが何の違和感もなくできたなと思いました。

秋学期に対面授業になったら大教室で少人数で授業みたいな環境になる大学もあるかもしれません。そうすると,ある程度離れた場所で普通のボリュームで会話していたらリスニングテストの邪魔にはならないのかもしれませんが。

おわりに

この記事では,slackを使って,学習者同士,学習者グループ対教師, 学習者個人対教師の3つのパターンでテキストチャットテストをやってみたという報告のようなものを書きました。秋学期にどのような形態の授業になるのかうちの大学はまだわかりませんが,テキストチャットでインタラクティブな側面を評価するテストをやるというのはオプションの一つとして使えるなと思いました。今後,対面のスピーキングテストは難しいなぁという場合に活用していこうと思います。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

slackでテキストチャット型テストをやってみた感想」への4件のフィードバック

  1. すし のアバターすし

    こんにちは、お伺いしたいのですが、学生によってはよくGoogle翻訳で全部英文作ってしまうことも多いですが、ロジカルであればOKということにされていますか?

    返信
    1. Yu Tamura のアバターYu Tamura 投稿作成者

      こちらで見分けがつく場合とつかない場合がありますが、その真偽を100%確かめることが不可能なので、翻訳アプリを使っているかいないかは特に気にしていません。そもそも、文法的正確さはパフォーマンスの評価の観点に入れてませんね。
      ライティングの授業でも自動翻訳の使用の有無は特に問うたことは今までありません。翻訳アプリ等使うようなレベルの学習者はそもそも文レベルでも文以上のレベルでもライティングのプロダクトとして適切なものにならないケースがほとんどですので、そこを重点的に指導しますね。ライティングの授業ではGrammarlyみたいな文法チェッカーとかは積極的に使わせるようにしてました。

      返信
  2. ピンバック: 2020年の振り返り | 英語教育0.2

  3. ピンバック: 2020年度に更新したオンライン授業関係の記事まとめ | 英語教育0.2

Yu Tamura への返信 コメントをキャンセル