タグ別アーカイブ: ライティング

AIで言語教育は終わるのか?(献本)

同僚の水本先生より,『AIで言語教育は終わるのか?:深まる外国語の教え方と学び方』を献本いただきました。ありがとうございます。まず,このご紹介が遅くなってしまったことをお詫びします。

水本先生の「AIとライティング教育」の章は,ライティングの授業で生成AIの利用を促している自分にとって「必読」の内容でした。同じ授業(ライティングの授業ではなく,学部1年生向けの文法と語彙の力を伸ばす目的の授業)を水本先生と分担している関係で知っていた話もありましたが,それ以上に新たな気づきが多く,自分の授業実践を振り返るきっかけになりました。特に「学生に使わせる仕掛けや練習の不足」が,自分が授業で感じていた“いまひとつ感”の原因だったのではないかと実感しました。ガイダンスや説明だけでなく,実際にAIを使う練習を組み込むことの重要性を改めて認識しました。

また,長谷部陽一郎先生の第2章(AIと言語研究)第4節の「記号接地問題」に関する議論も大変興味深く拝読しました。生成AIの登場以降,(おそらくですが個人的な印象では)今井むつみ先生の影響で身体化の観点から語られることが多い「記号接地問題」というテーマですが,本書ではラネカーの認知文法を参照しながら,身体化に依拠しない定義を提示し,身体的な「記号接地」ができないAIも記号接地しているのではないかという視点が展開されています。この多角的な切り口は,自分にとって新鮮な学びとなりました。

言語教育に携わる人は,ぜひ一度手に取ってみる価値があると思います。興味のある章だけでも読んでみてほしい一冊です。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

サマリーライティングの授業

querie.meでいただいた質問です。

質問

英語の授業について、相談させてください。TOEFLなどで英語のリーディングをした後にサマリーを書くといった問題があるなかで、サマリーライティングの授業を実践したいと考えています。一方で、自分がどのような形でサマリーライティングをしているのかについての、メタ的な視点が足りず、どのように指導したらよいのかわかりません。そこで、二つ伺いたいと思います。
①サマリーライティングをpost reading活動として設定する場合の授業手順について
②サマリーライティングの仕方やその指導法について解説している本など
自分のなかでもうまく構成がまとまっておらず、すみません。指導するのは、高校生から大学1・2年生ぐらいのところで、90分授業です。

回答

お返事遅くなりました。指導対象が高校生から大学1,2年ということは,高専の方ですか…?(質問者を特定しにいくスタイル

冗談はさておき,以下,私の回答です。

①TOEFLと最初に書かれているのでテスト対策の授業になるんでしょうか。そうだとしたらガッツリテスト対策だと言ってやるかなと思いますが,そうでなかったら,「なんのために要約するのか」「要約は誰が読むのか」というところを明確にして授業するかなと思います。例えば,自分のリサーチのために読んだ文章を自分があとでレポートを書くために要約しておくのと,他者のために自分の読んだ文章を要約して伝えるのでは要約のベースは同じでもまとめ方とかは変わってくると思うので。ライティングは、読み手の設定を意識したいです。

②研究室にある本をいくつか見てみましたが,サマリーにフォーカスした本はありませんでした。すみません。ただ,要約という行為の参考になるのは、もしかすると日本語のアカデミックスキルを扱った本かもしれないなとなんとなく思いました。私はそういう授業を担当したけ経験があるのですが,日本語だろうが英語だろうが、要約という行為は同じだと思うので,自分がサマリーライティングをやるならそういう教材を参考にするかなと思います。手元にあるものだと『知のナビゲーター』とか『知のステップ』とかでしょうか。

あとは,こういうときこそ,Google Scholar等でサマリーライティングについて調べると多くの実践報告の蓄積があるのではないかとおもったので,大学や学会の紀要に掲載されている実践報告を読むとなにか指導のヒントが得られるのではないかなと思いました。

おわりに

質問来てほしいなとか思いつつ学期始まるとなかなかブログ記事を書くにいたらず遅くなってしまいすみませんでした。

質問したい方はどうぞ。

https://querie.me/user/tam07pb915

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

ChatGPTの英文校正の質

質問に答えるブログです。以下の質問です。

質問


英文(学生が授業提出用のエッセイを書いたとして、または、教員が研究論文を書いたとして)を例えばChatGPTに校正してもらった場合と、いわゆるネイティブに校正してもらった場合との「質」の差はどうなんでしょうか。

回答

英文校正業者に頼んだ場合でも校正者によって結構ばらつきはありますし,ChatGPTでも毎回同じように校正してくるわけではない(ように感じるときがある)ので,比較するのが難しいですが,個人的な印象だけでいえば,差はとくにないように思います(つまり英文校正業者に頼むほうが良いとはあまり思わない)。ジャーナルごとに異なるフォーマットの調整をうまくやってくれるのかは試したことないですが,そういうのは業者に頼むほうが安心感あるかなとなんとなく思っています。あとは,ChatGPTは校正目的で使うとなるとどうしても分量を分割する必要が出てきますよね。全体の構成(例えばバックグラウンドの書いてあることとディスカッションに書いてあることのつながりがどうかとか)に関係するような部分のフィードバックや用語の統一感に関わる部分などは限界があるかもしれません。もしかすると,プラグイン使ってPDFを読ませたらに関連することをうまく読み取ってアドバイスしてくれるのかもしれませんが。

また,論文を書くための校正と授業でエッセイを書いたものを校正するのは目的が全然異なることなので,一緒くたに語れないなとも思います。ライティングの授業でエッセイを書かせるとすれば,少なくとも私は自分自身のかなり強い「こだわり」があるので,そういう部分はChatGPTが(私が満足できる程度に)指摘してくれるわけではありません。文法的な部分というよりも,情報の並べ方とか,結束性や一貫性の部分ですね。

つまり,学生の提出したものを校正するという点では私は「構成」の部分については少なくとも私の好みを反映させるのはなかなか難しいなぁと思っています。

あとは,ご自身で使ってみるのが1番かと思いますので,ご自身の目的に合わせてどの程度使えるのか試してみてはいかがでしょうか。

質問したい方はどうぞ。

なにをゆう

たむらゆう。

https://querie.me/user/tam07pb915

おしまい。

お世話になります。私は大学生であり、ChatGPTの使用に関するラインについて分からない点があり…

Querie.meの回答をブログに書くシリーズ。最近これでしかブログを更新していない気がしてきています。質問は以下のとおり。

質問

お世話になります。私は大学生であり、ChatGPTの使用に関するラインについて分からない点があり、Tamさんに大学教員として今現在のchatgptの使用についてどの程度まで学生に認められると考えられているかご意見をいただきたいと思っています。

一つの具体例として、エッセイ課題(どの言語でも、例はライティングスキルをみる課題)を書く際にどのくらいChatGPTを使用するとチートと見なされると現在お考えでしょうか。

①単語について質問する。e.g. 今まで、例文を確認して”noxious”という単語が自分のエッセイの文脈に合っているか判断していたが、ChatGPTに聞く。代替え案があれば、その英単語を使う。

②文法や構成の質問をする。e.g. 自分が書いたエッセイをChatGPTに改善(redundantなところはないかを聞くなど)の提案を聞き、その改善された文章をそのまま使用する。

③内容の指示をする。e.g. 自分で考えたthesis statementをサポートする内容の提案を聞く。(具体例の提案など)その内容を参考にする。(あるいは使用する)

Tamさんはなんでも活用できるなら時場合に応じて活用すべきだとお考えだと思いますし、ChatGPTの機能を目的によっては活用することができる点もたくさんあると思います。しかし、現在大学においてChatGPTの使用に関するガイドラインがなく、これから課題のエッセイ、レポート、またプレゼンの制作などにおいてChatGPTをどの程度使用していいかわからず、tamさんのご意見をいただきたいと思っています。

よろしくお願いいたします。

回答

非常に良い質問だとは思いますが,授業を担当される先生に聞くのが一番良いと思います。私の意見も質問者様に理解いただいているようですし。もし万が一私の授業を取っている学生であれば,匿名でこういう場所で聞くのではなく直接メールやLMSのメッセージ機能を利用して連絡してください。

剽窃とはまた違うレベルの話なので,認めるか認めないかや,どの程度認めるのかの線引きを教員側が仮に決めたとしても,学生がそれを守っているかどうかを確かめることは教員側からは不可能でしょう。レポート提出課題などは,教室で実際にレポートを書かせて提出させないのであれば,実際に本人が書いているかを確かめようがないというのと同じような話ではないでしょうか。剽窃検出ソフトウェアは,ウェブ上にあるものに引っかかるかどうかしか検出できないので,例えばですが親や兄弟や友達が代わりに書いたものを自分のものだと偽って提出してきた学生がいたとして,そのプロダクトについての質疑応答のようなテストが無い限りはそのプロダクトの本当の著者が誰かは教員が採点するときにはわかりません。ChatGPTを使ったのかどうかも,教員がコントロールできるものではないと私は思います。だからこそ,実際に授業をしている教員に確認するのが最も重要だということです。

というのが回答です。例として挙げていただいたライティング課題の話だと,どれも「チート」と私は思いません。テストや課題のcheatingはもっと悪質性があるものだと考えています。質問者様の「チート」の使い方や意味と,私がその単語をどう解釈しているのかにズレがあると,そもそもやりとりが噛み合わなくなります。したがって,以下では挙げていただいたライティング課題の例で,1から3の行為をしても良いかと学生に聞かれた時に私はどう答えるのか,という点で書きます。

したがって,「Tamさんはなんでも活用できるなら時場合に応じて活用すべきだとお考えだと思いますし、ChatGPTの機能を目的によっては活用することができる点もたくさんあると思います。しかし、現在大学においてChatGPTの使用に関するガイドラインがなく、これから課題のエッセイ、レポート、またプレゼンの制作などにおいてChatGPTをどの程度使用していいかわからず、tamさんのご意見をいただきたい」という部分については,以下をお読みいただいても回答はありません。

どんな力を身につけるための課題なのか

まず大事なことは,その課題を通してどのような力を身につけることが意図されているのかということかと思います。ツールを利用することも含めて能力であるとみなすのか,その個人が持つものだけをその人の能力であるとみなすのかによって,ツールの利用に対する考え方も変わってくるでしょう。私はツールが使えることも,ツールを使わなくてもできることも,どちらも大事だと思っています。よって,ツールを使うことを認める場合や,積極的に推奨する場合でも,それなしでも同じようなパフォーマンスができることを目指してもらいたいと学生には伝えています(目指すだけでそうなれとは言ってないところがポイント)。

アカデミック・ライティングに限って言えば,その「頂上タスク」と呼べるような目標は,エッセイやターム・ペーパーを書くことであったり,あるいは学術論文を書くことであると思います。そのような課題に実際に英語学習者が取り組む際に,実際には一切のツールの利用が制限されるわけでもありませんし,むしろ使えるリソースは何でも動員して言語面のクオリティを上げることが良いとされているはずです。ライティング・センターのような場所でアドバイスを受けたり,学術論文であれば専門の業者に校閲を依頼することも一般的です。そこを目指していると考えれば,ツールを利用することを制限するよりはむしろ,どうやってうまく使いこなせるようになるのかを教えることも目標に近づくための手段としては何も不自然なことではないでしょう。

ただし,そうしたツールがない状態ではエッセイを書くこともままならないのであれば,質の向上の見込める最大値はリソースを総動員しても低いままだと思います。結局は,どういうものがいいエッセイ,いいターム・ペーパー,いい学術論文であるということがわかっていなければいいものが書けませんし,そういうことがわかるために,そしてそれが自分でも一定程度の水準でできるようにするために必要な(リソースなしでの)英語力は身につける必要があるだろうなと思います。

カリキュラムにもよりますが,ツールなしでのライティングも継続的にやっていくことは,ツールがある場合とない場合の差に自分自身が常に自覚的になれるのでやってほしいところですね。英語力とかどうでもいいし,別に単位だけもらえればそれでいいんですという人は,そもそも大学の授業でもらえる単位がなんらかの知識や技能を習得したことにより得られるものであるという感覚もないと思いますので,何でもやっていいんじゃないかと思います。質問者様はおそらくそういう方ではないからこそこうして長文の質問を送ってくださっているのだと思いますが。

形式面の質向上のための利用

1や2はGrammarlyQuillbotなどのライティング支援ツールを使うのとあまり変わらないと思います。私はこれらのツールをライティングの授業で使うことを推奨しているので,ChatGPTを言語の形式面の質を上げるために使用することを認めないということはないでしょうね。

ただし,私が今年度秋学期に担当していた1年生向けのアカデミック・ライティングのクラスでは,14週目にそうしたツールなしで制限時間付きのエッセイライティング課題を授業内で行いました。ほとんど全ての学生は,その際にツールがないと自分の語彙や文法の知識が圧倒的に不足していてライティングを満足に行えないということを強く感じていたようで,テストの振り返りや学期末のポートフォリオでもそのようなコメントが多くみられました。

ツールを使いこなせばそれなりのものが作れるというのも私は能力であると思っていますが,standardized testなどで測定されるようなproficiencyはそういうものではないので,そこを伸ばしたいと思えばツールを使わないようにしてみるというのも一つの方法なのかもしれません。

内容面のサポート

3についても,Googleで検索して見つけた記事の内容を用いるのとやっていることはあまり変わらないと思います。ウェブ検索を禁じる人はいないと思いますので,3の意味での使用も認めないというのは難しいかなと思います。ただし、ウェブ検索の場合は検索の過程で情報を探し出す,たどり着いた情報を吟味する,得られた情報を取捨選択する,などのような能力が必要となります。こうした能力を重視するのであれば,それはChatGPTではなくウェブ検索でやってもらいたいという意見もありうるかなと思います。

もちろん,ChatGPTの場合も,提示されたものが本当に自分のエッセイにフィットするかどうかを吟味し,提示されたのが複数あればその中から選ぶ必要は出てくるでしょう。しかしながら,ChatGPTに聞く時点で情報はかなり絞り込まれていますので,ウェブ検索で自分の得たい情報を探し出すスキルはChatGPTを使う際には必要ないでしょう。さらに,ChatGPTは平気でそれっぽい話をでっち上げることもあるので,存在しないデータや調査を提示してくるなんてこともあるかもしれません。そうしたことが起こったとしても,それをまたウェブ検索で確かめれば良いという見方もありえますが,それなら最初からウェブ検索で良いのでは?と思います。

辞書は使って欲しい

話を1に戻しますね。1については,辞書は使って欲しいなと私は思います。辞書の例文で確認した上で,自分の判断についてChatGPTの意見を求めるという使い方はいいのではないでしょうか。ChatGPTにどのようなプロンプトを入力するのかによって答え方も変わってきますが,辞書は意味や例文以外にもコーパスのような頻度の情報であったり,文法的な補足が書かれていることもあります。そういった情報に触れる意味でも,辞書は使わない,もうChatGPTでOKというようにはなってほしくないかなと思いますね。少なくとも今の時点では。

理由は理解した上で修正や提案を受け入れる

2の中で文法はともかく構成については,教員が求めるものとChatGPTが出してきたものが必ずしも一致しているとも限らないので,そこは理解しておく必要はあるかなと思います。使用している教科書や題材,エッセイであればエッセイのスタイルなどによって,構成が変化する部分もあるでしょうし,教員が独自に重要視している部分もあるかもしれません。例えば,私は典型的なfour/five paragraph essayにおいて,イントロのthesis statementにボディで言及する内容が含まれているかどうかを重視しています。理由を述べる際に, I believe that this change is necessary because of the following three reasons. のように書くよりは,その3つの理由を簡潔にまとめて,because of A, B, and Cのようにするほうがボディとのつながりが強くなり,結果として読み手にとって内容が理解しやすい文章になるからです。そういうことまで考慮した上で,提示された修正や提案を受け入れるかどうかを判断できるのであれば良いと思います。

また,文法(というか文レベルの話)についても,例えば,「こちらのほうが読みやすいのでこうしたほうが良いです」という理由で修正がなされたときに,その読みやすさは何によってもたらされているものなのかを考える必要があると思います。あるいは,「確かにこっちのほうが読みやすいな」という感覚のようなものを持てているかどうか。そういう判断ができないなら,「使いこなしている」とは言えないでしょう。

おわりに

これは結構いろんな意見の人がいそうですよね。大学がガイドラインを作るっていうようなものでもないかなと個人的には思ったりします。

https://querie.me/user/tam07pb915

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

[R] Collaborative Writing準備時短テク

はじめに

以前,下記のようなブログ記事を書きました。

一言で言えば,教師側で作ったテンプレファイルをフォルダごと学生と共有し,学生は自分の名前のついているWordファイル上で執筆活動を行い,教師側はリアルタイムでその進捗をモニタしつつフィードバックを出していくというようなライティング授業実践です。

今年度からは3年次のライティング授業も持っていて,その授業ではペアでのcollaborative writingも取り入れています。最初はペアはこちらで作ってファイルは学生に作らせてリンクを教師と共有という形でやっていましたが,それだとやっぱり使い勝手が悪い(教師側が自分のローカルからファイル閲覧できないとか他にも色々問題ががが)というのがあって,やっぱり教師が学生のファイルを作るほうがいいだろうという結論に至りました。

超えるべきハードル

1. 学生のペアリング

これは昔知り合いの川口先生がブログ記事に書いていたような気がするなと調べたらすぐ見つかったので,そこの記事で紹介されているものをそのまま使いました。

2. ペアリングした文字列をファイル名に転用できるようにする

上記ブログ記事先のやり方でやると,リスト形式で学生のペアリングリストが手に入ります。ただし,それをファイル名に転用できるようにしようとするとひと手間工夫が必要です。リストのそれぞれの要素に入っているクォーテーションマークでくくられた名前を結合して1つにまとめる必要があるからです。

私がもともとやっていたのは,文字列ベクトルの1つ目から順番にとってきて,それをファイル名にするというものでした。今回はペアですので2人(もし奇数なら3人組もできる)の名前を1つのファイル名にしようということになります。

リスト内の要素を結合するには次のようにします。

sapply(pairing,paste,collapse="&")->pairing2

pairingがリスト形式のグループ分けです。最終的にpairing2という変数には

"TAMURA Yu&KAWAGUCHI Yusaku" "TERAI Masato&FUKUTA Junya"

といったように名前が&でつながれた文字列のベクトルが入っています。あとはテンプレファイル複製のやり方と同じです。

setwd(here("Week9&10"));getwd() #Create a folder before runnning this code
dirnow <-getwd()
list1<-list.files()
print(list1)
original<-file.path(dirnow,list1) #Use the original file name
filename1<-paste(pairing2,list1,sep="_")
print(filename1) #Check all the file names
for (i in 1:length(filename1)){
file.copy(from=original,to=paste(dirnow,filename1[i],sep="/"))
}
list.files()

私は”rename”というフォルダ内にその週の課題ファイルを入れるフォルダを作っています。そのrenameという場所にRStudioがあるので,そこがワーキングディレクトリとなっています。それをその1つ下の階層に移してあげるのが1行目です。”Week9&10″というのがフォルダ名ということですね。そこに, “2022_Spring_AW_Week9&10.docx”という名前のテンプレファイルが1つはいっています。

3,4行目はそのコピー元ファイルがちゃんとあることの確認ですね。6行目でペアリングされた学生の名前が&で結ばれたものと,テンプレファイル名をアンダーバーでくっつけています。こうすることで,filename1という変数内には,

"TAMURA Yu&KAWAGUCHI Yusaku_2022_Spring_AW_Week9&10.docx" "TERAI Masato&FUKUTA Junya_2022_Spring_AW_Week9&10.docx"

のような最終的に変換されるファイル名が入ります。あとはfor関数の中でfile.copy関数を使ってファイルを複製し,そのときのファイル名をさきほど作ったfilename1の1番から最後までにしてあげるということになっています。

最後に元のテンプレファイルをフォルダから削除し,renameフォルダ内から”Week9&10″をひとつ上の階層(私の場合授業のフォルダ)にあげてからフォルダごと共有リンクをLMSに貼ればOKです。学生側はフォルダにアクセスし,自分の名前が入ったファイル上でペアと一緒にライティングをしていくことになります。

補足

もしも,ペアリングは自動ではなく手動でやりたいという場合は,エクセルなんかで2列になったものをコピーして,pairing変数にいれてあげればあとは同じようにできると思います。

おわりに

このRのルーティンを作るのに調べ物とかも含めて1時間くらいかかりました。そこで気づいたのですが,自分の担当しているのクラスは12人という少クラスで6ペアしかできないので,こんなことしなくても手作業複製とファイル名変更したほうが作業効率がよかったのではないか…という。

もっと大人数のクラスでcollaborative writingをやろうと思っていて,でもファイル管理がめんどくさい…という方の助けになれば。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

ライティングにおいて文の数を制限するとどうなるか

はじめに

下記のanf先生のブログ読んで考えたことを書きます。今まであまり深く考えたことがなかったんですが,以前に自分が関わった研究と,高校ライティングの入試問題の形式って,直接的ではありませんが,つながるところがあるかもしれないなという話です。

2020年度埼玉県公立高校入試問題のライティング問題から読み取るメッセージ

ライティング問題における文の数の指定

上の記事中の中では埼玉県公立高校入試でのライティング問題で文の数の指定が近年では5文以上となっていたものが,今年度は3文以上という指定になったという話があります(それだけがメインじゃないんですけど)。一見すると,書かなければいけない文の数が減るというのは要するに求められる分量が減ったと捉えられると思います。ちょっと別の角度から文の数の指定を考えてみたら面白いかもしれないということを以下で考察してみたいと思います。

文の数の上限をつくるという発想

あくまで,入試問題での指定は,「◯文以上で」という最低ラインを示しているものです。つまり,3文はいいけど2文ではいけないと。これも「制限」ですが,文の数の制限は別のやり方もあります。それは,上限を設けるということです。文の数の下限を設けるというのは,ある一定以上の流暢さ(ここでは入試という限られた時間内である程度の分量が書けること)を求めているというメッセージになると思います。

一方で,同じ内容を表現するにあたって文の数の上限をつけるとどのようなメッセージになるでしょうか。これは1文の中にどれだけ節(または句)を埋め込めるのか,つまり,どれだけ複雑な文が書けるのかを見ますよというメッセージになるでしょう。もちろん,意識的に節を増やそうと考えることを求めているわけではありません。ただ,伝える内容が同じ時,文の数が減るというのは1文の統語的複雑さ(簡単に言うと1文に含まれる節の数が多いことや1文に含まれる語数が多いこと)が必然的に(そして意識するかは別として)あがることが見込まれます。

本当に節は増えるのか?

以前,大学生・大学院生を対象に以下のような研究をしたことがあります。

How Do Japanese EFL Learners Elaborate Sentences Complexly in L2 Writing? Focusing on Clause Types

論文の概要は以下のとおりです。

ライティングによる絵描写タスクを日本語を母語とする英語学習者に課し,その際に用いる文の数に制限をかけることで統語的に複雑な文の産出を誘発し,学習者がどのような節を用いて文を複雑に書こうとするのかを明らかにしようとした論文です。別途行ったエッセイライティング課題をライティングの熟達度として操作的に定義し,熟達度によって用いられる節の数が異なるのかも検討しました。結果として, 文の数が制限されることにより等位節,関係節,非定型節の産出が増え,これらの節は文を複雑にするために学習者がよく用いることが明らかになりました。また,非定型節は熟達度が高くなるほど多く用いられる傾向にありました。これらの結果に基づき,節の数や節の長さなどの指標を用いるのだけではなく,節の種類にも着目することで,学習者のライティングをより詳細に捉えられる可能性について論じました。

https://tamurayu.wordpress.com/2017/02/27/nishimura-et-al-2017/

この研究では,上限を決めるというより,6コマの絵描写を6文で書くよう指示した場合と,そのような制限をつけなかった場合を比較しています。したがって「◯文以内」という上限をつけたわけではありません。よって,上限をつけた場合も同じようなことが期待できるとは限らないという点には注意が必要です。

入試問題へそのまま応用できるというわけではないが…

文数の下限ではない指定という方法が,入試問題の形式として応用可能かというとあまりそうは思っていません。ただ,文数の制限という操作は必ずしも流暢さを引き出す目的ではなく,複雑さを引き出すことにも応用できるのではないかという示唆が上記の研究にはあると思っています。

課題として,それなりに内容的な分量を求めるように工夫すれば,5文以内という制限よりも短い文数で書くことを難しくすることはできそうです。それを例えば2文とかで書いていた場合には,内容的な点でのタスクのゴールを満たしていないということで減点することができます。そして,同じ文数でも…and…but…のように等位接続詞で文をつないでいるのか,Even though…,…のような従属節を使っているのか,the places where the students can learn…のように関係節を使っているのかで,文法知識の発達段階をみることができそうです。もちろん,節だけではなく,節を句で表すことができるかどうかというのも複雑さを上げるという意味ではポイントになります。ただし,特に主語位置でのnominalizationは文理解がしづらくなるので要注意と言われることもあります(https://owl.purdue.edu/owl/english_as_a_second_language/esl_students/nominalizations_and_subject_position.html)。

また,埼玉県入試問題のように,最低ラインがあるような場合でも,うまく比較できれば有益な知見を生み出すこともできるかもしれません。

例えば,3文という最低ラインの作文と,5文という最低ラインの作文を比較することを考えます。この時,もし産出される文数が減るのであれば,そのときに1文の統語的複雑さはどうなるのか,また,そのときにどのような手段で複雑さをあげるのか,というのは面白い観点になり得ます。もちろん,作文で求められる課題があまりにも異なっていると比較としての意味はなしませんが。

おわりに

この記事では,文の数を制限する(下限or上限)を設けるという操作と,それがどのような言語産出を誘発するのかということについて考えてみました。私はこの記事で,「複雑さ」とか「統語的複雑さ」といった用語を割とゆるく使いましたが,それが一体何なのか,そしてどういった指標でそれを捉えるのかといった問題は,それだけで本1冊が書けるくらいの研究領域になっています。よって,あまり安易にこの分野に足を踏み入れると危険ではあるのですが,文数の制限と言語産出というのは,教育的示唆にも繋げやすいかなと思うので,ライティングに興味のある院生さんがいたらぜひ掘り下げていってもらいたいなと思ったりもします。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

ライティングの授業でビデオフィードバックをやった話

はじめに

私は過去の記事で,自分のライティングの実践について何回か書いてきました。その中でもフィードバックをどう出すかということは常に悩みのタネでした。

Word Onlineを活用したライティング活動

ピアフィードバックの話(ライティング)

ライティングの授業

Word Onlineを使って書いている最中にフィードバックを出しつつも,授業中の書いている時間だけでは私のフィードバックが追いつかないですし,学生も授業外の時間を使って次週までに仕上げてくるということも多いので,授業外でもフィードバックをする必要はありました。もちろんフィードバック出さないという選択肢もアリなんですけどね。私はコミットする方を選びました。Wordのコメント機能で普段はフィードバックをして,最終稿はPDFで出してもらっていたのでそこにiPad×Apple Pencilで書き込みをして返却していました。

とはいえ,書くのってめんどくさいんですよね。タイプするにしろApple Pencilで書くにしろ,とにかくめんどくさい。そこで,「これもう書くのめんどくさいから喋っちゃえばいんじゃね?」,「ドラフト見ながら直すべきところについて喋ってそれを画面キャプチャで録画して,その動画を見てもらうほうが効率よくフィードバックが返せるんじゃね?」と思ったのでやってみたわけです。

これは画期的なことを思いついたなと思いました。しかしですね,そんなに甘くなかったよというのが今回のお話です。

ビデオフィードバックのほうが時間がかかる

結論から言いますと,ビデオフィードバックのほうが普通にWordやPDFに書き込みするより時間と労力がかかりました。毎週やらないにしても,私は2クラス合計で30人以上を担当していたので,この人数に対してビデオフィードバックは無理がありました。もちろん,隔週で1クラスごとにしたり,あるいはビデオフィードバックを希望する学生の締め切りを早めに設定して人数を少なくしたり,最終的にはSlackのPollでビデオフィードバックがいいと回答した学生のみにビデオフィードバックをするというようにして対象となる学生の人数を意図的に減らそうとしました。学生にとっては申し訳ない気持ちもありますが,このためだけに研究室に泊まったこともあったので,正直そこまでしてやれないなというのが感想です。今後同じようにビデオフィードバックをするのであれば,500語以下のエッセイであれば10人,150語程度のエッセイであれば15人くらいでないとやらないと思います。それくらいしんどかったので,はっきり言ってビデオフィードバックは全くおすすめできません。

どんなビデオフィードバックをしていたか

少しだけ,実際にどのような方法を実践していたのかについて簡単に述べます。ドラフトのWordファイルは学生と教員でOneDrive上で共有されていますので,毎週指定した日時までに,その週までに書き上がっているべきところまで書けている者に対してビデオフィードバックをするようにしていました。方法としては,Macにデフォルトで入っているQuickTime Playerの動画キャプチャ機能を使って動画を録画していました。ファイルを開き,一旦読んでコメントしようと思っている場所にマーカーをつけたり,あるいは意味が理解できない場所に「???」とコメントを挿入したのち,その画面を見ながら,iPhoneについてくる純正のマイク付き有線イヤフォンを使ってフィードバックを一通り喋って録画し,その動画ファイルを個別に学生とOneDriveで共有するという方法をとっていました。次の授業時に学生はそのフィードバックを見て修正をするという感じです。たまに画面をスワイプして辞書の用例を見せたり,あるいはGoogle N-Gram Viewerでコロケーションの頻度を見せたり,iwebコーパスのコンコーダンスラインを見せたりしながらフィードバックをすることもありました。

指定の日時より遅れてファイルが更新された学生については,時間が遅すぎれば何もコメントしませんでしたし,少しの遅れくらいならWord上でコメントするだけにしていました。Final DraftはPDFなので,iPadで動画キャプチャを取りながら書き込みをすることもありましたし,Wordファイルのときと同じようにMacでPDFファイルを開いてそこにマーカーつけたりしたものに対してしゃべることもありました。

なぜ時間がかかるのか

上記の説明を読んでいただければ,それだけで,「これは時間かかるだろうな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ただ,様々なリソースを参照する作業については私の英語力不足もあって結構頻繁に行っていました。間違ったことは教えたくありませんし,自分の感覚だけでは自信がないなと思える部分もあったからです。

しかしそれ以上に私が感じたのは,しゃべるほうが丁寧に言葉を尽くすから時間がかかるということです。つまり,コメントを書き込むだけだとスペース的にも時間的にも最小限の言葉で伝えようとするので,1箇所に対して長くコメントをつけることにはなりません。ところがしゃべるのは書くより楽なので,1箇所に対してすごく丁寧にコメントするんですね。これ自体はいいことで,私は学生から「コメントがきつい」「怖い」とそれまでは言われることもあったんですが,動画のフィードバックだと「優しい」「わかりやすい」というポジティブな感想しかもらわなかったです。私の労力を度外視して単純に学生の満足度という観点だけを考えれば,ビデオフィードバックをやったほうが学生には受けると思います。これはどんな先生がやってもそうでしょうね。でも考えてみればそりゃそうだろうという感じで,ビデオとはいえ学生からしたら長いときで15分くらい1対1の感覚で先生から指導を受けるわけですから,その手厚い指導のほうが,Wordのコメントを読むよりも丁寧な指導を受けていると感じるに決まっています。普段の授業で学生1人に対してそんなに長い時間つきっきりで指導することなんてできないわけですしね。

また,なぜか動画になると,「このイントロのところはすごくいい流れだと思う」とか「全体の構成としては前よりは良くなっているなと思う」みたいなポジティブなコメントをしている自分に気づいたりもしました。WordやPDFでのコメントだとほとんどそんなことはしていなかったと思います。ポジティブなフィードバックを出すこと自体はいいことなのですが,そういうコメントもしている分ビデオフィードバックは時間が余計にかかりました。

また,それ以外にも読みながらコメントをしゃべることができないため,(1)読む,(2)コメントすべき箇所に目星をつける,(3)実際に動画を収録する,という3つのプロセスを経ないといけませんでした。したがって,読みながら,たまにコーパスや辞書にあたったりしながらコメントをしていくよりも時間がかかるということもあります。本当に即興でコメントを喋ろうとすると,当然ながら沈黙が空いてしまったり,話す内容があっちこっちにいったりして見る側からしたらわかりづらいものになってしまいます。かといって,収録したあとにあとから編集なんぞしようもんなら余計にめんどくさい作業が増えてしまいますよね。その意味でも,ビデオフィードバックはハードルが高いなと思いました。

時間をかけただけの効果があるか

データを取って分析したわけではないので,これはあくまで私の印象論になりますが,学生が「わかりやすい」というような感想を述べたところで,それすなわち身になっているとは限りません。そして,正直言ってビデオフィードバックにしたから学生が伸びた,とは少なくとも秋学期のだいたい半分手前くらいから始めた実践の短い間(おそらく10週くらい)では感じられませんでした。ライティングのクオリティがあがっているなと感じた学生はビデオフィードバックでなかったとしても伸びていただろうなと思いますし,ビデオフィードバックで丁寧に指導しようが,それがドラフトに反映されてこない学生がゼロになることはありませんでした。つまり,時間と労力を注ぎ込んでも(そのつぎ込み方の問題だと言われたら何も言い返せませんけど),それに見合った成長が見られたという実感は正直ありません。もちろん,短期的には見えなかっただけで、この先に何か変化が見られるかもしれませんし,今後の彼らの学習経験に何か影響を及ぼすかもしれません。

おわりに

ということで,ビデオフィードバックは人数が非常に限られたライティングのクラスでなければ,教員の負担だけ倍増して,フィードバックするのすら嫌になってくる(のに学生からはもっとほしいと求められる)のでおすすめできませんという話でした。正直,ビデオフィードバックができるくらいクラスサイズが小さいのであれば,いちいちビデオフィードバックにせずとも授業中に1人ずつ呼んで10分間面談するのでいいと思います。授業外でフィードバックを出さなくてはいけないからこそ負担感が増えるわけですので。授業内でフィードバックをできるのであれば,それに越したことはありません。

私は来年度からはライティングの授業をメインで担当しない予定ですが,おそらく来年度はビデオフィードバックはやらないと思います。とはいえ,最小の労力で効用を最大化する方法については引き続き考えていきたいなと思っているので,なにか別の方法で有益なフィードバックができたらいいなと考えています。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

 

ライティングの採点の不備と一緒に学習者の心ぶった斬ってませんか

民間試験導入の問題がわーっとなったとき(あるいはその少し前),ちょくちょくTwitterで,

こんなのでこの点数!!

みたいな投稿についた画像で学習者のライティングプロダクトとその点数の写真を見かけることがありました。私のタイムラインは英語教育関係者が多いですし,民間試験導入の問題についても声を上げている人がたくさんいらっしゃって,関連したツイートが比較的頻繁に流れてくるので目についただけかもしれません。おそらく,一般的なレベルでいえば認知度が高まったのはほんの最近のことで,下記のことを考えたのはおそらく私くらいだと思います。「なーに言ってんだばかか」と思われてもいいです。

私は上記のようなツイートを見るたびに,「試験の採点がおかしい」とか,「こんな試験を入試に導入なんてありえない」とか,そういうことの問題提起は理解していても,やっぱり学習者の実際のライティングをもってそういう主張をすることには賛同できないという気持ちになりました。本人が(「こんなんでいいの?」というようなノリで)画像をあげていることもあるかもしれないので難しいですが,試験の不備と一緒に学習者の心までぶった斬ってはいないでしょうか。その本人だけではなく,似たような質のライティングをした学習者がそうやってオトナが叩きまくっているのを見て(叩いているのは試験そのものだとしても)どう感じるだろうというのは私の考えすぎでしょうか。

水をさすつもりはまったくありません。標準化された試験としてやっていて採点基準どうなってるのという批判はそのとおりだと思います。ただ,元のツイートにぶら下がっていたコメントなんかがとくにですが,「正確さ」に対して過剰に反応しすぎではないですかね,誤りに対しての不寛容さみたいなのも一緒にそこに投影されていませんかね,と思わずにはいられないのです。

たしかに,たしかに,お世辞にもうまく書けているとは言えないようなものだったりもします。文法的なエラーやつづりのエラーも含まれています。なんとかかんとか文意を汲み取ろうとこちらが最大限の努力をして,意味解釈はできるかな,というレベルのものです(私が見たものは)。それでも,問いが与えられて,その問いに答えるために自分の持っているリソースを最大限に活用して,英語を書いたということと,その学習者が現時点でそのレベルの発達段階であるということは何も悪くないと思うのです。

あまり具体的なことを言うとどの画像見たかとかになってしまうので詳しく言及することは避けますが,評価できるポイントだって見つけようと思えば見つけられるように私には思いました(一つの観点でいえば流暢さとしての語数)。課題が何を求めているのかや,何を測定しようとしているのかにもよりますが,同様のライティングプロダクトに対して私はこれまでにゼロをつけたことはないなと思いましたし,意味のわからない単語の羅列ではなく英語の文を表出しようとしたことを評価したいなと思いました。何度も言いますが,そういう性格のテストではないとか,誰も書かれたものそのものへの批判はしていないとか,そういうのはすべて,「そうだろう」と思っています。そのうえであえてこういうことを書いているのです。

杞憂であってほしいと思っていますし,実際に杞憂なのだと思います。それでも,それでもやっぱり,「ああやっぱりこれじゃ全然だめなんだ」と思う学習者がいたら,それは英語教育にとって良いこととは言えないと思います。「あれでいい」と言っているのではありません。もっと良い英文が書ければそれに越したことはありません。私はただ,英語を使ったときに少しでも誤りだったり誰かから見て不自然と感じられるようであったらすごい勢いで寄ってたかってあーだこーだ言う,そういうのが本当に嫌いなのです。そして,ライティングの採点基準についての批判を真摯にする人の周りに,意図せず人の誤りを笑うそういう人たちが集まっているのではないかと思ってしまったのです。

なにをゆう。

たむらゆう。

 

MS Word Online vs. Google Docs

はじめに

昨日学部教授会前のFDで,LMS利用やOffice365などを授業に利用することについてのお話がありました。その中で,WordやPowerPointを共有することによって協働的ライティングやグループプレゼンをやらせるというような例もありました。質疑応答で,Google Docs(以下,Docs)とWordはどちらがいいのかという話も出たので,個人的な意見を書きます。はじめに結論を言ってしまうと,所属機関が契約していてGoogle Classroomを使える人はDocs一択かなと思います。また,個人利用の場合でも,学生にGoogleアカウントを取得させてGoogle Classroomを利用することに抵抗がなく,それ自体を面倒だと思わないという方もDocsだと思います。以下,いくつかの観点でWordとDocsを比べてみます。一つお断りしておくと,この記事を読み終わっても結局は自分が使い慣れている方を使うという選択を取る人が多数だと思います(それだけ自分が慣れていないものを使い始めるのはハードルが高い)。私はWord Onlineを利用していますが,そのことについては過去に詳しく書いたのでそちらをお読み下さい。

Word Onlineを活用したライティング活動

比較の観点になりそうな部分

次の観点がどちらを選ぶかを決める際のファクターになるかなと思います。

  • アカウント作成
  • ファイルコピー
  • 外部連携(英語ライティングのときのみ)
  • 変更履歴

以下,順番にそれぞれの観点を詳しく説明していきます。

アカウント作成

これは自分の所属機関の状況次第でしょう。所属機関がOffice365の包括契約を行っているのであれば,学生は自分の大学メールアドレスでアカウント登録がすでにされている状態ですので,新しくMicrosoftアカウントを取得することなくOffice製品がオンラインで利用できます(オンライン版はデスクトップ版より機能は制限されます)。一方で,所属機関がGoogleと契約しているのであれば,大学メールアドレス=GoogleアカウントになるはずなのでGoogle DriveとDocsやスプレッドシート等が使えるようになっていると思います。この状態になっているということは,教員側は自分の授業に参加している学生のアカウントを知っている状態と等しいわけですから,大きなメリットになると思います。もしもMicrosoftアカウントやGoogleアカウントを個人で取得させた場合,教員は誰がどのアカウントなのかを把握して管理する必要が出てきます。人によってはメールアドレスやアカウント名から本名を判断できない場合もありますし,アカウント取得時に指示しても守らず好きな名前で登録してしまいアカウント名の変え方がわからなくなるなどのトラブル発生地帯でもあります。私の所属機関である関西大学はOffice365の契約ですので,私はWord Onlineを使用しています(過去記事)。そういう状況の人がDocsを使う場合というのは,その他の3つの観点で得られるメリットがこのアカウント作成のデメリットを上回る場合でしょう。

ファイルコピー

これは,Google Classroomの機能ですので,Docsだけ利用しているという方が得られるメリットではないと思います(Docsだけでもファイルコピーする方法をご存知の方がおられましたらコメント欄でお知らせください)。また,そもそもファイルコピーが必要ないという方もここは特に重視されない点かなと思います。

ファイルコピーがそもそもなぜ必要なのか

私は英語ライティングの授業でWord Onlineを使いますが,必ず教員が作ったテンプレートをシェアするようにしています。これにはいくつか理由があって(過去記事の「授業前の準備」のセクション参照),1つ目はフォーマットを統一したいということがあります。口頭や書面でフォーマットに関する指示を出しても,統一できなかったり設定の仕方がわからずにそこで授業の時間を空費してしまいます。それならば,こちらで予めフォントはTimes New Romanで12pt,行間は2行,タイトルは中央寄せ,インデントは1字字下げ,のように設定してしまったものを使わせたほうがあとあと添削入れる際に楽なわけです(テンプレ使わせても勝手に変えてしまう学生もいますけど)。もう1つは,ファイル管理の便利さです。例えば,学生側が新規ファイルを作成し,指定したファイル名をつけて教員とシェアするようにさせるとします。すると,教員側からは,「共有ファイル」という形でシェアされるため,各学生からシェアされた共有ファイルをフォルダでまとめて管理したりすることができません(Google DriveでもOneDriveでもできないと思いますがこの方法をご存知の方がいたらコメント欄でお知らせください)。これができないと,課題ごと,クラスごとにまとまった状態でファイルの閲覧ができないため,非常に不便です。使うのが学期に1度でグループごとのファイルが二桁いくかいかないかというような場合は特に問題ないかもしれませんが。さて,以上の理由から,教員がファイルを作って共有するという前提があるということをご理解いただけたかと思います。しかし,教員がファイルをシェアしようとしたとき,1つのテンプレだけを作って共有してしまうと,それにクラス全員が書き込もうとする状態が発生します。これを回避するには,テンプレファイルをコピーして保存させるか,あるいはあらかじめ学生全員分のテンプレファイルを作っておくかということになります。前者の方法を使うと,コピーしたものを再度教員と共有することになるため避けたいところです(前述の学生から教員にファイルシェアすることによる問題が発生するため)。よって,教員側で学生全員分のテンプレファイルを用意する必要が出てきます。ファイルのコピーを作る方法自体は何も難しくありません。シェルスクリプトやコマンドプロンプトでできる人には朝飯前でしょうし,それができなくてもMacならAutomatorがあります。また,受講生が100人でもCtrl (or command) + Cをたった100回連打するだけで100個のコピーファイルが作れます。しかしながら,単純にファイルをコピーするだけでは,”XXXのコピー1.docx”とか,”XXX(1).docx”のような連番ファイルしか作ることができません。できれば,ファイルに名前をつけてあげたいところですが,すべて手作業でファイル名変更するのは絶対にやりたくありませんよね。じゃあ,といって,学生それぞれに個別にファイルを共有することにしたとします。Aさんには”XXXのコピー1.docx”を共有して,”XXX_A.docx”とするように指示し,Bさんには”XXXのコピー2.docx”を共有して”XXX_B.docx”とするように指示したとします。2人ならいいですが,これを100人にやるなんて考えられませんよね(ライティングで100人なんてありえないと思いますが15人でもやりたくないです)。

Google Classroomの便利さ

Google Classroomを使えば,上記の煩わしさは一切ありません。なぜなら,テンプレファイルを作ってシェアする際に「クラス全員にコピーを作成」というオプションが使えるからです。この設定でDocsのテンプレファイルを課題としてストリームに投稿すれば,個別にコピーを作成してシェアする必要はありませんし,ファイル名も学生の名前のついたものができます。便利ですばらしい。よって,Google Classroomを使っているならDocsを使うべきだと思うわけです。

Office365利用者でもファイルコピーはある程度簡略化可能

では,Office365利用者はどうすれば,ということになりますが,ファイルコピーと名前の変更はプログラミング言語を使ってある程度自動化させることができます。我田引水になりますが,下記の記事を参照していただければ,Rでファイルコピーとリネームができます。

[R] 同じディレクトリ内でファイルを複製する

一度スクリプトを保存すれば,あとはファイル名やディレクトリ名などの一部分だけ書き換えるだけで作業はできますので,テンプレ作成->ファイルコピー&リネーム->共有の作業は数分で可能です。

ただし,この方法がGoogle Classroom利用と決定的に違う点が1つだけあります。それは,共有する際にはフォルダごと共有するという方法を取らなければいけないという点です。Google Classroomでは,コピー&リネーム&個別共有を一括でできましたが,OneDriveの場合はLMS的機能はありません。よって,ファイル共有に関してはもしも個別に共有するのであれば1つずつ共有する必要があります。これを,クラス全員のファイルが入ったフォルダをまるごと全員に共有し,作業の際は自分の名前のついたファイルを開いて書くというようにすれば,共有の手間はほとんどありません。ただし,この状態では全員が全員のファイルにアクセス可能になっています。ここから生じうる問題に懸念がある場合には,地道に個別共有するか,Google Classroomの利用を検討すべきでしょう。

過去記事にも書きましたが,私は全員が全員のファイルにアクセス可能の状態をむしろ好ましいと思っています。なぜなら,私は授業で学生同士のフィードバックを頻繁に取り入れているからです。誰のファイルでも見れる状態でなければ,紙でやるときと同じようなピアフィードバックはできません。また,それ以外でも,自分のライティングが行き詰まったときに他の人のライティングを見て良いところを真似したりということで活用している学生もいます。私はこれをさせずに自分の力だけでやらせることのほうが良いとは思っていませんし,良いと思われるものはどんどん真似して取り入れていくというのが良いと思っています。ただし,すべて真似して良いということにはしていません。ファイルの閲覧が許されるのはライティングを書いて修正するプロセス(1つのタイプにつき数週間の期間)のみで,最終的に評価の対象となるものを提出させる際は過去のドラフトには一切アクセスできなくしています(注1)。ただし,何も見ずに書くのではそれまでの修正点が反映されなくなってしまうので,ドラフトにフィードバックが与えられたものをみてWritten Languagingをさせて,それをもとに最終稿を書かせています。

外部連携

次の観点は外部連携です。これは主に英語ライティングを念頭においていますので,日本語でのレポート作成やプレゼンファイル共有の場合は関係がないと思います。英語ライティングに便利なツールとして,GrammarlyやGingerといった自動文法・スペリングチェッカーがChromeやSafariなどのブラウザの拡張機能として提供されています。また,Writing Mentor(過去記事参照)もDocsのアドオンとして利用可能です。これらの外部連携サービスは,現状ではWord Onlineでは利用できません(デスクトップ版WordではGrammarlyとGingerは使えます)。つまり,こうした外部連携サービスを利用したいと考えていて,それが授業設計で重要な部分を占めているという場合には,残念ながらDocsのほうが良いということになります。もちろん,GrammarlyやGingerはウェブアプリとしてそれぞれのウェブサイト上でライティングをすれば(あるいはテキストをコピペすれば)チェック機能を使うことができます。よって,Wordを使うのであれば,書き終わったものをGrammarlyやGingerにコピペしてチェックし,修正したものをもう一度Wordにコピペするということで利用はできます。ただ,GrammarlyやGingerは書きながらフィードバックを与えてくれるところも利点の1つではあるので,その利点を活かせるDocsに軍配が上がります。

一つ注意しなければならないのは,Docs上でGrammarlyが利用できるようにするには拡張機能がブラウザに追加されていなければいけないという点です。もしも大学のPC教室で授業をしているとすれば,ブラウザに拡張機能を追加することが禁止されていたりするかもしれませんし,一度追加してもシャットダウンすれば削除されてしまい授業のたびに追加する必要があるかもしれません。ウェブブラウザとしてGoogle Chromeを使っていれば,Googleアカウントにログインしてどのマシンでも同じ環境設定のChromeを利用できるよう同期設定をすることでこの問題は回避できます。つまり,個人のPCで使っているChromeでGingerやGrammarlyが拡張機能として追加されていれば,大学のPCでChromeを開いたときにGoogleアカウントに同期することでいちいち追加する手間は省かれます(もちろん毎回Googleアカウントとの同期は必要になりますが)。

変更履歴

私が使っている環境では特にこれが必要になることはないのですが,複数人で1つのプロダクトを完成させるようなcollaborative writingやグループプレゼンの資料作りをやる際には重要な部分なのかなと思います。変更履歴の記録や表示については,Docsのほうが整理されているかなという印象です。また,Wordはオンラインでは変更履歴は見れません。Wordのデスクトップ版で変更履歴の記録をオンにした状態で学生と共有し,そのファイルをデスクトップ版で見れば変更履歴が見れるようです。オンラインでは,「変更履歴:オン」というのがページ下部に表示されるだけで,どこがどのように変更されたのかはわかりません。OneDrive上で,誰がいつファイルを編集したか,誰がいつコメントしたかのような情報は記録されていますし,変更が行われるたびにversionの情報は残るので,変更が行われる前のファイルをDLすることで前後の比較はできるようにはなっています。Docsの場合は変更の記録と変更箇所の表示などがすべてブラウザ上で完結するので,変更履歴を見たり,何がどう変化したかを観察したいという目的があるのであれば,Docsのほうが適していると思います。

まとめ

DocsとWordの2つの似たようなサービスについて,(a) アカウント作成,(b) ファイルコピー,(c) 外部連携,(d) 変更履歴,の4つの観点で比較しました。私がとりあえず思いついた点で比較したので,この他にも使う人によっては重視したいポイントや気になるポイントはあるのかもしれません。ご指摘いただければ∧私がやる気になったら,コメントいただければ追記するかもしれません(し,しないかもしれません)。結論としては,まず自分の所属している機関が契約しているサービスがどちらかというのが一つの大きな分かれ道です。授業に利用するのであればなおさら所属している機関が契約しているサービスを使うほうが良いかと思います。ただ,Docsのほうがファイルコピー,外部連携,変更履歴の点では便利です。したがって,最初にアカウント作成させる必要があるというデメリットよりもそれらのメリットのほうが大きいと考えるのであれば,Docsを利用するほうがよいでしょう。注意しなければならないのは,ファイルコピーはGoogle Classroomを使うことによって得られる恩恵であるという点です。外部連携や変更履歴についても,授業で利用するつもりであり,そのことが授業設計に極めて大きな影響を与えるならば,という条件付きで,Docsのほうが良いということです。ちゃぶ台返しみたいなことを言ってしまえば,オンラインで使えるドキュメント作成サービスをなぜ,どのような目的で導入するのか,ということがぼやけている状態の人にとっては,どちらを選ぶかを決めることも難しいということです。そして,これは授業の目標と密接に関連することです。結局はDocsもWordもツールですので,そのツールを何のために使うのかをまず明確にし,その上でどちらを使うほうが良いのかという判断をするということです。その際に,私がここで挙げたような観点が参考になればと思います。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

注1. ずる賢い学生はアクセスできなくなる前にファイルをDLしたり写メを撮ったりするという可能性もゼロではありませんしそれを完全に防ぐことはできませんししていません。もちろん口頭では注意しています。

Slackを用いた授業外ライティング活動の便利ワザ[Google Spreadsheet編③]

はじめに

下記の2つの記事の続きで,おまけ的なものですが自分の備忘録のためにも残しておきます(R編がなかなかスタートしないw)。

Slackを用いた授業外ライティング活動の便利ワザ [Google Spreadsheet編①]

Slackを用いた授業外ライティング活動の便利ワザ[Google Spreadsheet編②]

簡単に何をやっているのかをまとめます。Slack上で授業外ライティング活動をさせ,そこで書かれたものをGoogle Apps Scriptを使ってGoogle Spreadsheetに記録し,そこで個人の1週間あたりの産出語数を学生と共有するということをやっています。大まかな枠組みについては,上記の記事でカバーされていますが,今回は,「ちょっとかゆいところに手が届くといいな」くらいのお話です。

問題の所在

https://twitter.com/tam07pb915/status/1118157873219948545

学生の書いたものを読んでいると,カンマやピリオドの後に半角スペースを入れないで書いているものが頻繁にありました。

Yesterday,I went to the zoo with my family.After that,we went to an Italian restaurant.It was delicious.

みたいな感じのものを想像していただければいいかなと思います。見る人が見たら気持ち悪くてたまらないと思うのですが,おそらくデジタル環境で英語を書くという経験の少なさからこのような英文になってしまうのだと思います。もちろん,タイポのようなことはありうるのですが,それでも一つの投稿で頻発していたり,ある特定の学習者が連続して誤りを犯しているとどうもこれは半角スペースを入れることを知らないのではないか?と考えるようになりました。

手書きでスペースをあける行為と,キーボードやスマートフォン上でスペースバーを押したり,フリック入力時に「空白」と書かれた部分をタップしたりという行為が関連付けられていないのかもしれません。また,日本語では句読点の後にスペースを入れるというルールはありません。

だからといって,彼らの今後の英語使用場面として手書き以外で英語を書くことがないと想定することはできませんし、スペース入れるということも身につけて欲しい(そうじゃない文見たときの気持ち悪さもわかって欲しい)ことではあるのでしつこく言っていかないといけない気がしています。もちろん,気づいたときにはメインのチャンネルにも共有する形でスペースを入れるようにコメントを出してもいます。ただ,そういうことよりもむしろ「リアルなコミュニケーション」の道具として英語を使って教員ともやりとりしてほしいというところもありますので,あまり半角スペース警察にはなりたくありません。

また,授業運営上でも問題はあります。それは,語数のカウントです。語数のカウントは,1語ずつを単語だと認識して数え上げているわけではなく,単語と単語の間に生まれるスペースを基準にして数えています(詳細は上記の過去記事か,「エクセル 単語数える」とかでググって見てください)。つまり,”Yesterday, I”は2語と認識されても,”Yesterday,I”は1語になってしまうというわけです。ピリオドのあとに半角スペースがなく次の文が始まる場合も同様です。私は,「1週間で○○語を書き込むこと」を課題としていますので,あまりにもこのミスが多いと語数のカウントが通常より少なく計算されてしまいます。

解決方法

私が考えつく解決方法は以下のとおりです。一番土方っぽいものから順に,

  1. Googlespreadsheetの書き込みを1セルずつ確認して,ピリオドやカンマのあとにスペースがなければ手作業で足す
  2. Googlespreadsheetの「検索と置換」でピリオドやカンマを探し,ヒットしたものを目視で確認して半角スペースがなければ足す
  3. Googlespreadsheetの「検索と置換」で正規表現を使ってピリオドやカンマのあとにスペースがないものを一括で修正する
  4. Googlespreadsheetでsubstitute関数を使って置換する

1や2はありえないとして,3も問題があります。それは定期的に作業をしないといけないという点です。Googlespreadsheetを使う利点は,一度作業をしたらしばらくの間は放置しておいても勝手に語数が記録されて学生が確認できるという点です。したがって,できれば4で考えたいところです。しかしながら問題は,substitute関数では置換したい対象をうまく持ってこれないという点です。もしも,「すべてのカンマまたはピリオドについて,ピリオドまたはカンマと半角スペースに入れ替える」とすると,正しく使われているところに余計にスペースを入れてしまうことになります。そうなると,スペースの数を基準とする語数カウントがうまくいきません。そこで,正規表現を使う必要が出てきます。なんと,Googlespraedsheetには正規表現が使える次のような関数があります。

  • REGEXEXTRACT(正規表現で一致する文字列を抽出)
  • REGEXMATCH(正規表現で一致する文字列があるか検索して真偽値を返す)
  • REGEXREPLACE(正規表現で一致する文字列を別の文字列に置き換える)

今回の場合は,置き換えが必要なので3番目のREGEXREPLACE関数を使います。正規表現についての詳しい説明はウェブ上にごろごろ転がっているので,以下では詳しい説明はしませんのでご了承ください(注1)。REGEXREPLACE関数は,REGEXREPLACE(検索対象テキスト, 正規表現, 置換)という引数を取ります。最初の検索対象は学生が書き込んだテキストの入っているセルをしていすることになります。では,正規表現の部分はどうすればよいでしょうか。置換したい対象の文字列は,「ピリオドまたはカンマのあとに単語列が続くもの」でした。これを正規表現で表すと次のようにできます。

“(\.|\,)(\w+)”

ここで,カッコでくくってグループ化しているのは,置換するときに元の文字列を使いたいからです。置換は,ピリオドとカンマ,その後に続く単語列はそのままで間にスペースを挟むので,

“$1 $2”

$1は最初にグループ化したものなので,ピリオドまたはカンマ,$2は次にグループ化したものなので,任意の単語列になります。その間に半角スペースが入っています。つまり,次のような関数が完成形になります。

=regexreplace(テキストのあるセル, “(\.|\,)(\w+)”, “$1 $2”)

これで,ピリオドまたはカンマのあとに単語列が続くときは半角スペースを挟む」という作業ができるようになりました。あとは,この関数のセルに対して語数カウントをする数式を適用すればよいわけです。

新たな問題

さて,うまくいったかのようにみえたのですが,実は先程の例を使うと別の問題が発生することに気づきました。それは,半角スペースはあるけれど,それがピリオドやカンマの前にあるという場合でした。例えば,下記のようなものです。

Yesterday ,I went to the zoo with my family .After that ,we went to an Italian restaurant .It was delicious.

このような用例に対して先程のREGEXREPLACE関数を適用してしまうと,新しく得られるものは次のようになります。

Yesterday , I went to the zoo with my family . After that, we went to an Italian restaurant . It was delicious.

これでは,カンマやピリオドが1つの単語として認識されてしまい,語数のカウントが逆に多くなってしまいます。これを避けるには,「文字列の直後にあるカンマやピリオドの場合には」という条件を加えれば良さそうです(注2)。ということで,改良版は次のようなものです。

=regrexreplace(テキストのあるセル, “(\w+)(\.|\,)(\w+)”, “$1$2 $3”

Googlespreadsheet上で見ると下記画像のようになります。

置換前と置換後のテキストと,それぞれの語数カウントの比較

 

おまけ(絵文字タグの削除)

slackといえば,絵文字も使えます。絵文字も文字コミュニケーションにおいては重要だという部分もありますし,一切絵文字は使うなというのもおかしな話です。slackから書き出される絵文字は,半角のコロン(:)に挟まれたタグになってテキスト化されます。”:heart:”や”rolling_on_the_floor_laughing”と言った感じです。これが文字列にくっついている場合は特に問題ありません(注3)。しかし,文字列から独立した状態で使われると,絵文字1つが1単語と認識されてしまいます。このことに気づくと,すべての文に絵文字をつけたり,あるいは半角スペースを挟んで絵文字を連続させたりという学生が現れます。昨年度は口頭注意でそれなりにケアしていましたが,どうせREGEXREPLACE関数を使うのだから,絵文字タグも取ってしまえばいいということに気づきました。下記のようにしてあげると,絵文字タグが取れます(注4)。

=regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”)

実際にGooglespreadsheet上で使うときには,スペースが入っていないことで生じる問題を解決する関数を使った上で,その結果の出力に対してさらに別の列で絵文字タグを取る関数を使うのもありです。むしろ,プログラミング的には良いのだと思います。なぜなら,なにか問題があったときにその問題の原因を探りやすいからです。ただ,入れ子にすれば1列で済みます。

=regexreplace(regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”),“(\w+)(\.|\,)(\w+)”,“$1$2 $3”)

さらに,語数をカウントする数式にこのREGEXREPLACE関数も入れ込むと…

=(LEN(regexreplace(regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”),“(\w+)(\.|\,)(\w+)”,“$1$2 $3”))LEN(SUBSTITUTE(regexreplace(regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”),“(\w+)(\.|\,)(\w+)”,“$1$2 $3”),” “,“”)))+1

もうなんだかわけがわからなくなってきましたが,この最後の数式を使えば,新しく列を増やしたりすることなしに語数カウントができるようになっています。

おわりに

この記事では,Googlespreadsheetで正規表現を使って学習者が犯すパンクチュエーションの誤りを直すということの例を示しました。他の媒体(R,Python,サクラエディタ)等で正規表現を使った経験があるのでなんとかなりました。一応ざっと確認して特に問題ないとは思っていますが,正規表現にはあまり自信がないので間違いを見つけた方はどうかコメント欄等でご指摘ください。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

注1: 記号類をそのまま使うときになんでもかんでもエスケープ記号つけるのは私の癖です(そして一貫性もないですたまに忘れるので)

注2: この方法の一つの問題は,”I ate lunch ,and took a nap.”のようなものが残ってしまうという点です。「半角スペースの直後にピリオドやカンマがあり,その直後に文字列が続く場合には,半角スペースを消して文字列とピリオドやカンマの後に挿入する」のようにすれば解決されます。ただし,関数の入れ子が複雑になる上に単語数カウントには関係ないので今回は無視しています。REGEXREPLACE関数でやるとすれば,次のようなものになるかなと思います。

=regexreplace(対象文字列のセル,“\s(\.|\,)(\w+)”,“$1 $2”)

注3: もしも,単語リストを作ったり,コロケーションを見たりのようにテキスト分析にいこうとすると,この絵文字タグは外してあげないと絵文字タグと隣接する文字列が認識されなくなってしまいます。

注4: 17:10:29のように時間をコロン区切りで書き込むような例があると,これも引っかかってしまうのですが,まあほとんどないと言っていいと思うので木にしていません。