カテゴリー別アーカイブ: Querie.me

読書会の中身/形式ってどのようなものなのでしょうか

はじめに

querie.meでいただいた質問です。質問の全文は以下のとおりです。

質問

(自分一人だと読めない本があるため,自分だと選ばない本を読んでみたいため)学術書の読書会に参加してみたい,ゆくゆくは開催してみたいと思います。一概には言えないとは思いますが,読書会の中身/形式ってどのようなものなのでしょうか。Tamさんが参加された或いは開催されたものはどのような流れでしょうか。あるいは開催されるとしたらどのような流れで行われますか?

回答

経験談

最初に私が読書会と呼ばれるものに参加したのは,院生時代のSkype読書会かもしれません。最初にやったSkype読書会は,私がアメリカにいるときで,学部時代にお世話になっていた先生に誘われて,Rod EllisのLanguage Teaching Research and Language Pedagogyを読む読書会だったと思うのですが,私だけひとりアメリカからSkypeで参加していました。たしか単発で私は一度だけ参加したとおもいます。

その後,私が名古屋大学大学院で博士後期課程をやっているときにも日本と世界をつないだ読書会をやっていました。あれは定期的にやっていましたね。当時は,非対面の集まりそれ自体が珍しい時代でしたので(10年前くらい),その珍しさで,大修館書店の『英語教育』に遠隔地をつなぐSkype読書会というようなタイトルで短い記事を寄稿したくらいです。

その読書会は,毎回報告の担当になる人が決まっていて, その報告者の人が資料を準備してレビューを行い,その都度質問を挟んでいったり,あるいは後の方でまとまってディスカッションをしたり,という形でやっていたのではないかと記憶しています。もうあれも私がD2かD3くらいのときじゃないかと思うので,10年近く前ですね。信じられない豪華メンバーだったと思います。このときは,本というよりも論文のレビューも結構やっていたと思います。

あとは,発表者のいないパターンの読書会もありましたね。福田さんが呼びかけて,LangackerのCognitive Grammarを読むことになりました。あれはまじで1人では到底読めない重厚さと難解さでした。そのときは,日時とその回に何ページから何ページを扱うのかを決めて集まり,個々にわからなかったことや重要だと思ったことについて自由にコメントし合ってディスカッションするという形式だったと思います。司会的なものを設けたりもしていなかったですねおそらく。主催者の福田さんが回す役を担っていたところはあるとは思いますが。

Cognitive Grammarを読み終わった流れで,たしかGoldberg本の訳書を読み,その後に読書会に参加していたメンバーの一部で用法基盤モデルをベースにした実証研究の論文もいくつか読んで,そこから着想を得て研究プロジェクトというかたちになり,2023年度にEuroSLAで発表した研究(現在投稿中)につながりました(Goldbergの本と論文は読んだ順番が逆かもしれないです)。

発表者がいるかいないか

発表者がいるパターンといないパターン,どっちにもメリットとデメリットがありますよね。発表者がいるパターンだと,自分が発表ではない回に参加者それぞれがどれだけエンゲージメントを高められるかというのが重要になります。変な話,自分が発表ではない回に,一部の参加者が「聞くだけ」でも別にそこまで問題になったりはしません(もちろん,読書会に参加している人数にはよりますが)。

一方で,発表者がいないパターンの読書会だと,自分から積極的にディスカッションに貢献しようという気持ちが全員になければそもそも成り立ちません。その意味で,事前に読むという段階でのエンゲージメントもそれなりにないとそもそも発言することすらできないでしょうし,誰かの言ったことに対して誰も反応しなければ会そのものが成り立たないという時点で,そのメンバー間の関係性みたいなものも結構重要になるでしょう。全然見ず知らずの人達と,自由にディスカッションをする,というのは,トピックがなんであれそんなに簡単なものではないでしょうから。

自分が開催するってことが今後あるのかどうかわからないですが,その時のメンバーとか,目的に合わせて形態は決めることになるのかなと思います。

おわりに

最近は,なかなか時間がなくて読書会に参加する時間もとれないスケジュール感なんですが,読書会があるから読む・読める本っていうのは絶対にあると思うので,参加したいですね…。子どもがもう少し大きくなって保育時間が伸びたらそういうこともできるのかなぁ…。

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なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

研究者になれる人とそうでない人の違いは、個人の資質によるか指導教員の指導力によるか、どちらだと思いますか?

はじめに

querie.meでいただいた質問です。質問の全文は以下のとおりです。

質問

研究者になれる人とそうでない人の違いはは(※原文ママ)、個人の資質によるか指導教員の指導力によるか、どちらだと思いますか?どちらとは言いきれいないのは承知ですが、任意の教員が着任した途端に、学会で名前を見るようになるのを見たり、特定の研究室から大量に研究者が出ているのを見ると,教える側の要素が大きのかなと思うところもあります。研究指導する側になって、よくわからなくなってます😢

回答

「研究者」の定義について

「大学教員になる」というのと「研究者になる」は個人的には分けたいな〜と思っちゃうところはありますね。学生の時は頑張っていても,大学教員になったら研究活動が滞ってしまう人だっていますしね。

指導教員側の要因:個人の力量 vs 環境

あとは教える側の要因というのは,その教員個人の力量だけではなくて,それ以外の環境要因との掛け算なのかなと思うところもあります。その環境でどうやったら学生のパフォーマンスを最大化できるのか,みたいな。例えば,教員の研究費だけに依存せず,学内的な院生への支援(ソフト面もハード面も)が充実しているということであったり,共同研究の機会が豊富にあるのかどうか(学内外のネットワークだったり,異分野交流であったり)とか,どれだけ研究に時間を割くことができるか(授業負担や学内業務負担がどれだけあるのか)みたいなのも,もちろん教員個人の力量もあるとは思いますが,やはりその組織がどういう仕組みで動いているのかに依存するでしょう。

組織・「ブランド力」の影響

あとは,一度「あのゼミからは優秀な人材が輩出される」となったら,そこにもっともっと優秀な人が集まりやすくなるという効果もあると思います。また,なんだかんだで組織の力というか所属している大学ってのは大きいでしょう。やっぱりうちの分野(どこの分野とは言わない)(注)なら特定の国立大(旧帝大)や私立大の出身者がある種の「派閥」的強さを見せている側面があるように思います。

研究テーマ,分野特性の影響,個人的な問題意識

研究テーマの要因もあるでしょう。どの分野の方からの質問かはわかりませんが,私の分野(どこの分野とは言わない)だと,ある要因と要因の関係性を調べるアプローチで無限に研究を量産している人たちがいて,まあそれが世の中の潮流でもあるようだしトップ誌に載るし引用もたくさんされるし,みたいな。いや,論文載るのはすごいんですよ。テーマもそんなにポンポン思いつかないですし普通は。でも,この分野(どこの分野とは言わない)は既存の枠組みの微調整や概念の再定義によって研究を展開しやすい分野特性があって,それって最強なんですよね。概念間の関係性を統計的に検証するアプローチで,比較的安定して研究成果を生み出せる仕組みになっているので。

これは何も自分を除く他者に向けているわけではありません。私も,院生時代の多くの研究が「明示的・暗示的知識」というパラダイムに乗っかったものでした。当時は測定法の議論が隆盛していたこともありましたし,ある文法項目に対して,明示的・暗示的知識を測っていると考えられる測定具のテストを二つ実施して(あるいは同じテストに対して違う条件を課して),違いが見られたり見られなかったりしたら,それを議論することで論文1本になったんですよね。私が初めて採択された筆頭著者の論文がまさにそれでした。

Tamura, Y. & Kusanagi, K. (2015a). Asymmetrical representation in Japanese EFL learners’ implicit and explicit knowledge about the countability of common/material nouns. Annual Review of English Language Education in Japan, 26, 253–268. https://doi.org/10.20581/arele.26.0_253

今見たらなんかもう目も当てられないようなひどい論文で読み返すことも憚られます。こういうアプローチをするにせよ,もう少しフレームワークは今なら工夫するだろうなと思います。ただ,私はそういうアプローチで研究を量産できるような人間ではないですし,こうしたアプローチで研究(者)を量産するのが本当にいいことなのかな,とよく思っています。こういう意見も,結局はパブリケーションが強い人からしたら,私のような考えが同じ土俵に乗ってこなかったら相手をする理由もないでしょうから,難しいなぁとずっと思っています。

『第二言語研究の思考法』はそういう気持ちもあって携わった本ですが,特に話題にもされていない(という認識でいます)し,その提案について批判も特にもらってないと思うので,既存の研究パラダイムへの根本的な問いかけは議論されにくい傾向があるのだなと感じます。それでも,今後も細々と,この問題提起について継続的に発信し続けていくのが自分の人生なんだろうなと思います。今年度採択された科研費の研究も,そういう路線です。

なんか脱線しましたね。

最後に,これも言っておかないといけないなと思ったことですが,生存バイアスもあるんだと思います。結局生き残るのはなんだかんだ優秀な人なわけで,その陰で数多の優秀な人にカテゴライズされずに去っていった人だっているんじゃないのかなという気もしています。

おわりに

久しぶりに,面白い質問だなぁ,ブログ記事にしたいなと思わされる質問でした。ありがとうございました。

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なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

注:寺沢さん話法

論文を読むときは、全文読まないのが普通なのでしょうか

querie.meでいただいた質問です。質問の全文は以下のとおりです。

質問

論文を読むときは、全文読まないのが普通なのでしょうか。よくネットなどで論文の読み方を検索すると、効率的な読み方として、①結論を読んで主張が何かを探す、②イントロを読んで論文の問いを探す、ここからは必要に応じて③研究の方法や結果などのデータを扱っているところを見て批判的に検討する、という紹介がなされています。もし、何か論文を読む際に実践されていることがあれば、教えてもらえませんか。

回答

端的にいえば,「目的によるのでは?」ですね。あとは,どれくらいの時間がかけられるかも重要です。

拾い読みのケース

私自身が論文を読む際に実践していることについてお答えすると,「なんの目的のためにその論文を読むか」に大きく依存するのかなと思います。

実証研究の論文で,とりあえず「何をやって何がわかったのか」という核心部分を素早く把握したいのであれば,おっしゃるように,それが書いてある場所を拾い読みすることになるでしょう。私の場合は,まずアブストラクト(要旨)を読みます。そして,「これはもう少し詳しく読んだ方が良さそうだ」と感じたら,多くの場合、結論部分よりもディスカッションの最初のパラグラフを読むことが多いです。なぜなら,ディスカッションの冒頭部分で,著者が研究の目的を改めて述べ,どのような結果が得られたのかを要約してくれていることが多いからです。これは,私自身が論文を書く際にも,読者に分かりやすく伝えるために意識している構成でもあります。

自分があまり馴染みのない研究領域でどんなことがこれまでされているのかをまとめたいとか,そういった目的の場合も,拾い読み的なことをするでしょう。「ざっと領域全体の傾向やこれまでに何が分かっていて何がわかっていないのかをまとめたい」という場合には,論文を通読する必要はないからです。もちろん,時間がたくさんあれば全文読めるでしょうけれど。

全文を読むケース

一方で,そういった「つまみ食い」的な読み方とは異なり、自分の研究テーマ(または今書いている論文)に非常に近い論文を読む場合は,もっと丹念な作業になります。その論文がどのようにして研究課題を導き出しているのかというロジック,採用されている研究方法の妥当性,そして得られた結果の解釈など,細部にわたってじっくりと読み解いていきます。もちろん,全文読むケースでもとりあえずは拾い読みをしたうえで,「これは読んだほうが良さげだ」という判断をするので,拾い読みでふるいにかけられたものを精読するって感じでしょうか。

優れた論文には,やはり一本筋の通ったストーリーがあります。ですので,そういった論文を読む際には,できるだけ頭から順を追って読み進め,そのストーリーを追体験するように意識しているかもしれません。「拾い読み」だけを繰り返していると,確かに情報は効率よく集められるかもしれませんが,いざ自分が論文を書く側になったとき,果たしてストーリー性のある,説得力のある論文が書けるのだろうか,と思ってしまいますね。論文の構成力やロジックの組み立て方というのは,やはり質の高い論文を通読する経験を通じてこそ身についていく部分が大きいのではないでしょうか。

実証研究ではない論文はどうするの?

また,ご質問で触れられていた「結論→イントロ→必要に応じて詳細」という読み方は,主に実証研究の論文には有効な手法だと思います。しかし,例えば特定のテーマに関する既存の研究を幅広くまとめたレビュー論文や,理論的な考察が中心となる論文などには,そのままでは適用しにくいケースもあるでしょう。そういうタイプの論文のときには,別の読み方が必要になると思いますし,レビュー論文こそストーリーが大事なので,小説をつまみ食いしないのと同じように最初から最後まで読むのではないかなと思います。

おわりに

結局のところ,論文の読み方は「目的」と「投入できる時間」の2つの要因で決まるものだと思います。まず要旨(と私の場合だとディスカッションの冒頭)を読み,短い時間でざっくり「何をやって何がわかったか」を把握します。その中で,読む価値が高いと判断した論文は精読しています。精読時には序論から順に論理展開を追い,方法の妥当性だったり結果の解釈だったりを検討します。メモはZoteroなどの文献管理ソフト上でハイライトしたりメモつけたりその訳をしたりとか色々したうえで,自分が研究目的で使っているObsidianに残しています。ローカルにメモを残さないと不安なので(cf. 過去記事)。

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なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

家族との時間(夫としての時間、父としての時間)、授業準備、研究とをどのようにバランスを取られているのか

querie.meでいただいた質問です。ずばりタイトルの通りの質問です。

回答

まず,同じような質問に過去に答えたことがあります。

ということで,過去の記事読んでくださいで終わってもいいのですが,子どもができたというのはとても大きな変化だったので,そのことについて書こうかなと思います。

私は何も考えなければ仕事に全振りする性格なので,意識的に仕事を諦めることにしています。例えば,毎晩子どもを寝かしつけたらそこからは全部自分の時間にして仕事をすることもできなくはないと思います。でもそれは本当にその日の夜に絶対にやらなければいけないというときだけにしています。それ以外は,妻と二人でお酒を飲みながら,子どものことやその他他愛もない話をする時間にしています。妻と家飲みしているときが一番日常って感じなんですが,それが一番幸せだなって思いますね。そういう時間は大事にしています。妻の誕生日には子どもを預けて二人だけで食事をするというのも,子連れで食事にいくのが大変なうちはやろうかなと思っています。やっぱり,子どもができても夫婦ふたりだけの時間は大切なので。

父としての時間は,昨年度の秋学期に復帰してからの学期中はなかなか難しかったです。仕事のブランクもあるし,初担当の講義科目も複数あったしで準備が大変でした。そういうなかでも,仕事に行く時間をできるだけ遅くしてなるべく家で子どもと一緒にいるようにはしていました。また,休みの日であれば妻が友人と出かける際には私がワンオペを積極的に引き受けるということもやっています。子連れ同士で出かけるほうがいいということもあるようで,その回数自体はあまり多くないのですが。

家族との時間という意味では,夕食時以降はできるだけ仕事をしない,土日も仕事はしない,ということを意識しています。スマホでちゃちゃっとメール返したりとかくらいはしても,パソコンに向かってなにかやる,というのは,「やりたいなぁ」くらいならやらないって感じです。「まじで今やらないとやばい」というものなら,妻に断って仕事させてもらっています。

これから子どもが保育園に行って,そこから学校に通うようになったら,家族以外の人たちと過ごす時間のほうが長いくらいにだんだんなっていきますよねたぶん。そうなったらもっと,夕食後の時間や土日は大事な家族との時間になるのだと思います。そういう意味では土日に入る仕事(学会仕事とか)は極力避けたいですよね。アドミン仕事は仕方ないっていうのもあるのでやりますけど。あと泊まりの出張もできれば行きたくないというのが本音です。今後,学会は全部近畿圏でやってほしい(ただし運営はしたくない)みたいなめちゃくちゃワガママな気持ちですね…。家族で出張行けば解決だと思った人は,0-1歳児の旅行どれだけ大変か知らないな?って感じですね。あと,現地で学会行ったとして旅行先で妻にワンオペさせるってことでしょ?無理だろって私は思っちゃいますわ。

おわりに

質問したい方はどうぞ。

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なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

サマリーライティングの授業

querie.meでいただいた質問です。

質問

英語の授業について、相談させてください。TOEFLなどで英語のリーディングをした後にサマリーを書くといった問題があるなかで、サマリーライティングの授業を実践したいと考えています。一方で、自分がどのような形でサマリーライティングをしているのかについての、メタ的な視点が足りず、どのように指導したらよいのかわかりません。そこで、二つ伺いたいと思います。
①サマリーライティングをpost reading活動として設定する場合の授業手順について
②サマリーライティングの仕方やその指導法について解説している本など
自分のなかでもうまく構成がまとまっておらず、すみません。指導するのは、高校生から大学1・2年生ぐらいのところで、90分授業です。

回答

お返事遅くなりました。指導対象が高校生から大学1,2年ということは,高専の方ですか…?(質問者を特定しにいくスタイル

冗談はさておき,以下,私の回答です。

①TOEFLと最初に書かれているのでテスト対策の授業になるんでしょうか。そうだとしたらガッツリテスト対策だと言ってやるかなと思いますが,そうでなかったら,「なんのために要約するのか」「要約は誰が読むのか」というところを明確にして授業するかなと思います。例えば,自分のリサーチのために読んだ文章を自分があとでレポートを書くために要約しておくのと,他者のために自分の読んだ文章を要約して伝えるのでは要約のベースは同じでもまとめ方とかは変わってくると思うので。ライティングは、読み手の設定を意識したいです。

②研究室にある本をいくつか見てみましたが,サマリーにフォーカスした本はありませんでした。すみません。ただ,要約という行為の参考になるのは、もしかすると日本語のアカデミックスキルを扱った本かもしれないなとなんとなく思いました。私はそういう授業を担当したけ経験があるのですが,日本語だろうが英語だろうが、要約という行為は同じだと思うので,自分がサマリーライティングをやるならそういう教材を参考にするかなと思います。手元にあるものだと『知のナビゲーター』とか『知のステップ』とかでしょうか。

あとは,こういうときこそ,Google Scholar等でサマリーライティングについて調べると多くの実践報告の蓄積があるのではないかとおもったので,大学や学会の紀要に掲載されている実践報告を読むとなにか指導のヒントが得られるのではないかなと思いました。

おわりに

質問来てほしいなとか思いつつ学期始まるとなかなかブログ記事を書くにいたらず遅くなってしまいすみませんでした。

質問したい方はどうぞ。

https://querie.me/user/tam07pb915

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

研究をしているどの段階でブレストをしますか

querie.meでいただいた質問にお答えするブログ記事です。

質問

研究をしていることが幸せで今後研究を続けていきたいけど論文を書くのが苦手かもしれないと思い始めている4月からの修士2年生です。研究をすすめていく過程には様々なフェーズがあると思われます。たとえば、実施しようとする研究について先行研究を調べていく段階、リサーチ・クエスチョンを立てる段階、検証していく段階、まとめる段階、、、 それらの中のどの段階で、ブレインストーミング(メモ用紙などに、メモったりマインドマップのようなものを作っていく作業)をしますか? 学部生でレポートを書く段階では、ブレインストーミングが有効だと感じていたのですが、大きな論文を書こうとなると、なかなか難しくなってしまい、困っています。何かお考えや、実践されていることなどあれば教えてください。

回答

端的にお答えすると,研究のタネ(ネタ)が思い浮かんだ段階でメモしているかなと思います。ただ,質問者様のような修士課程の院生が論文(学位論文にせよ投稿論文にせよ)を書くプロセスと,私が全く同じような研究のプロセスを辿っているかと言われると,そうではないかもしれないなと思うところがあります。もう少し具体的に色々お聞きできれば,また違った答えになるかもしれません。「ブレインストーミング」をなんの目的で行うのかを私がうまく理解できていないかもしれないので,的はずれな回答になるかもしれません。とりあえず,「考えたことをメモする」と読み替えて書いていきます。

博士課程の時を思い出してみる

修士課程に在籍していたときは,研究をどうやって進めていたかの記憶がほぼないので,博士課程のときのことを思い出してみます。私はEvernoteというメモアプリを使っていて,そこに研究ネタで思いついたことはなんでもメモしていっていました。もちろん,正直そんなにぽんぽんとネタが思いついたことは一度もなくて,特に博士課程に入った1年の最初の頃とかは研究から1年弱離れていたことのブランクもあって,何も思い浮かばなくて悩んでいたことをよく覚えています。とはいえ,なにか論文を読んでいたり,あるいは書籍を読んでいたりしたときに,「こういう研究できないかな?」と思ったら,とにかくそれをはメモしておく,という感じです。今は,こういう用途はObsidianを使っています(参考:過去記事)。

研究を進めていく過程

質問者様は「実施しようとする研究について先行研究を調べていく段階、リサーチ・クエスチョンを立てる段階、検証していく段階、まとめる段階、、、 」と書かれていますが,私の中では一番メモっておきたいのはここに書かれた段階の前段階ですね。そもそも,「実施しようとする研究」というのがある時点で,何かしらのアイデアがあるってことですよね?そのアイデアが浮かんだ段階でもうメモのファイル作っちゃいます。そこにとにかくうわーっと浮かんだことをなぐり書きしていきます。関連する研究を調べるみたいな段階に移ったら,そのアイデアを書いたノートの中に,先行研究を読んでまとめたメモへのリンクを貼っていってます。Aという研究はこんなことやってて,Bという研究はこんなことやってて,みたいなざっくりしたことを大元のノートに書いておくこともあれば,著者名+出版年のノートタイトルのリンクだけを並べておくこともあります。これは結構気まぐれです。あとは,ChatGPTやClaudeなどとアイデアの壁打ちをしたりしたら,やりとりの内容をざっくりまとめてもらい,それもノートの中に貼り付けちゃったりしています(一応元を辿れるようにチャットのURLも貼ってます)。正直,フルタイム院生時代と違って毎日研究のことを考え続けられるような環境でもないので,ちょっと間があくと今まで何を考えていて,次に何をしようとしていたのかとかも忘れちゃうんですよね。それを思い出すハードルがあると,なかなかその研究に戻って来るのも難しくなってしまうと。Obsidianを使う様になってからは,意識的に,その研究ノートに日記的なことも残すようにしています。例えば,「今日はXX(YYYY)の論文を読んで….みたいなことを考えた。AA(BBBB)も多分読んだほうが良さげだから次に読む」とか「実験の要因としてAとBとCを考えたけれど,AとBは一つの実験に落とし込むことはできそうだけどたぶんCは一緒にできないから,とりあえずAとBの2by2のデザインで実験項目を作ってみる」とか。そういう日記を残していると,ある程度期間が空いちゃってから戻ってきても,ああそうだったそんなことを考えていたんだったとかわかるんですよね。実験項目を作るときも生成AIのお世話になることが多いわけですけど,それも作業したその日の終わりに,「今日やったことを研究ノートに残すから,ここまでのやりとりをまとめて」とお願いするようにしています。そして,そのまとめをノートに蓄積させていきます。そうすると,実験項目を作るのにどういう条件でお願いしていたかとか,何がうまくいかなくて躓いたのかとかも全部残せます。

修士課程の院生と違うかなと思うところ

私は,いまから自分がまったく知らない領域の研究をやろうっていうようにはあんまり思っていないんですね。自分がこれまでやってきたことの延長線上かまたはその周辺のことをやろうと思っています。私は能力が高くないので,全然知らない領域の研究に取り組んで成果を出せるというようには思っていないのが理由です。一方で,修士課程の院生さんは比較的,知らないことが多い状態でスタートして,とにかく知らないことを知っている,という状態にするプロセスと研究を構想して実現するプロセスがある種同時並行的に進んでいくのではないかなとなんとなく思っています(もちろん,修士課程に入る段階でかなり明確に研究の方向性が決まっていて,それが全く変わらずに修士論文を書き上げるという方もいるかもしれませんが)。となると,そもそも研究を進めていく過程がもしかすると私と修士課程の院生さんで違うのかもしれません。その結果,ブレインストーミングをする目的やそれが必要になるタイミングも違うかもしれません。

おわりに

学位論文をどう書いていくか,そしてどのようなクオリティのものが求められるのかといったことは,正直指導教員の先生によって全然異なると私は思っています。よって,論文をどうやって書くのか,研究をどうやって進めていくのかについて,私からアドバイスするのは非常に難しいことです。この記事で書いたことは,あくまで私が「メモを取る」という行為をどうやっているのかということで,それが普遍的なわけでも,私の真似をしたら研究が進むわけでも,研究のクオリティがあがるわけでもないこと,どうかご理解ください。こういう質問も,本来なら指導教員の先生とできたらいいのになと思ってしまいます。私には残念ながら学位論文の指導をする院生はいませんが,もしそういう院生が困っていて,その悩みを匿名で誰か別の教員に聞いていたらなんかショックだなって思っちゃいますね。自分に相談してくれたらいいのに!って。なんかこういう話,querie.me関連で前にもしたことがあるような…(それ私に聞かないほうがいいのではみたいなの)。

ちなみに,私自身は,質問される方がどなたでも,こういった質問を受ける事自体は嬉しいし,喜んで答えます。こんなブログ記事で丁寧に答えてるくらいですからね。質問すんなよって思ってたらこんな回答しませんしね。

質問者様が修士論文を無事に提出できることを心から祈っています。頑張ってください。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

jsPsychで自己ペース読み課題を作りました

はじめに

querie.meで次のような質問をいただいたのがきっかけで,この記事を書いています。ただ,今回は直接的な回答をブログ記事にしたというわけではありません。

Jspsychで自己ペース読解を作りたいと思っているのですが、なかなか良いリソースにたどり着けません。 何を参考にして作成されましたか。

https://querie.me/answer/FoiIeOGRo0FxWcSAnwvx

参考までに,私が作ったものを公開しましたというお話です。

jsPsychというJavaScriptのライブラリを使って,Webブラウザ上で実験を行うことができます。私もコロナ禍以降,オンラインでできる実験プログラムの構築を色々と模索していて,様々なものに手を出したりしたのですが,最終的にはjsPsychでいくことにしました。特に理由はないんですが,コードベースだとやっぱり細かいところに手が届くっていうのが大きいかなと思います。心理学分野だと,心理学の様々な実験のサンプルを見ることができるのですが,残念ながら言語実験はあまりサンプルがないんですよね。そこで,jsPsychで私が作った自己ペース読み課題をGitHubに公開しました。

https://github.com/tam07pb915/spr-jspsych-experiment

詳しくはこのレポジトリを見てもらえたらと思いますが,補足的なことをこのブログ記事にも書いておこうと思います。

メインの部分

自己ペース読み課題にはいろいろなバージョンがありますが,私が作ったのは単語提示・移動窓方式と呼ばれるもので,一語ずつ,左から右に読み進めるタイプのものです。以下のリンクから短いデモができます。

https://tamura-jspsych-demo.netlify.app/spr-demo.html

自己ペース読み課題のトリッキーなところは,刺激は文として作るけれども,それを単語に分割して提示するっていう部分なんですよね。その仕組みのところは,

Week 4 practical | Online Experiments for Language Scientists

というページがかなり参考になりました。これをベースに,ChatGPTやClaudeに手伝ってもらいながらカスタマイズをしたという感じです。Githubには,私が実際のデータ収集に使ったフル実験のバージョンと,上のリンク先のデモ課題の2つを載せています。フル実験の方には,単なる自己ペース読み課題だけではなく,同意取得や質問紙のページがあったりします。また,異なるリストのランダム化や,途中で休憩を挟む,プログレスバーを入れる等々の違いがあります。

基本的には,

  1. 下線のみが画面に提示される
  2. スペースキーを押すと下線の1つが単語に変わる
  3. スペースキーを押して読み進めると,読んだ単語はまた下線に戻る
  4. 最後までいくと,次の画面でTrue/Falseの理解質問が出るので,FまたはJキーで回答する
  5. 試行と試行の間には「スペースキーを押して次にいってください」みたいな文言がある

という流れで進むようになっています。フル・サンプルのどちらにも練習セクションとメインタスクセクションがあり,練習セクションでは理解質問の回答に対して,CORRECT/INCORRECTのフィードバックがあります。メインタスクセクションではフィードバックはありません。

少しコードをいじれば、任意の記号(例えば”|”)で区切られた英文をその区切りごとに例えばフレーズ単位で提示することもできると思います。

全体的なこと

Firebaseとの連携

私は実験をfirebaseと連携させて,そこにデータを蓄積するという感じでデータ収集をしています。よって,firebaseと連携するための仕組みもコードの中に入っています。ただ,firebaseをどう使うのかみたいなところはウェブ上にたくさん資料が転がっているので,それを見て自分で勉強してみてくださいという感じにすみませんが今のところはなっています。

データ分析

jsPsychで得られたデータはJSONフォーマットになっています。これはそのままではデータ分析に適していないので,JSONデータをテーブルデータに変換する必要があります。これはそこまで難しくなくて,オンライン上でフォーマットを変換してくれるサービスもありますし,今なら生成AIに頼んだら多分やってくれる(またはコードを提案してくれる)と思います。とはいっても,その部分も結構大事ではあるので,一応サンプルの出力をRで読み込んで整形する過程もRmarkdownでドキュメントにしました。下記リンクからご覧いただけます(もとの.Rmdも含めてGithubのレポジトリに入ってます)

https://tam07pb915.github.io/spr-jspsych-experiment/sample-experiment/sample-data-transformation.html

使っている刺激

フル実験のメインタスク部分は,number attractionを見るための刺激文が入っていて,私の自作です(まだ発表すらできていないデータ…)。サンプルの方は,下の論文の実験1に使われた英文の一部を使っています。

Trueswell, Tanenhaus, & Garnsey (1994) Semantic influences on parsing: Use of thematic role information in syntactic ambiguity resolution. Journal of Memory and Language, 33(3), 285-318. https://doi.org/10.1006/jmla.1994.1014

理解質問は自作です(Copilotが勝手にサジェストしたものを使いました)。

刺激はコードの中に埋め込まず,別ファイルで用意してそれを読み込むという方法もあると思います。しかしながら,今回はすべてコードの中に刺激を埋め込む形にしています。Excelファイルで一般的には実験刺激は管理されるでしょうから,そこからjsPsychで扱われる形式への変換が必要です。これもおそらくはそこまで難しいことではないと思いますが,いずれRの例を作ろうと思っています。

注意点

私が公開したコードを,様々な実験に応用しようとすると,刺激の部分を入れ替えるだけではおそらくうまく動かないと思います。というのは,読み込んだ刺激の形に応じて,記録されるデータを選択しているからです。例えば,サンプルの実験では,実験要因として主語名詞句の有生性しか入れていません。1要因の実験というわけです。よって,そのサンプルコードを使って2要因以上の実験を行おうとすると,記録されるデータに反映されない要因が出てくることになります。もちろん,事後的に復元することは可能ではありますが。そのあたり,ここをいじったらここも必ず変えてねみたいな丁寧なコメントアウトまでは残念ながらできていません。ご了承ください。汎用性を意識してどんどん機能を追加して選べるようにするみたいなのはちょっと素人の私には難しいです。

おわりに

この記事では,心理言語実験で使う自己ペース読み課題のプログラムをjsPsychで実装して、GitHubに公開しましたという記事を書きました。冒頭の質問者様の役に立ちますように。自己ペース読みよりロジックは簡単ですが,プライミング語彙性判断課題のプログラムも手元にあるので,反響があればまた公開しようと思います。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

研究をして論文にするプロセスについての質問

はじめに

2025年1本目の記事ですが,例によって最近多めのQuerie.meでいただいた質問シリーズ。

質問

あけましておめでとうございます。
文法習得に焦点を当てて研究しているSLAの学生です。何か研究をして、論文にまとめていくという作業をすることに関して、2つ質問します。
【1】研究をして論文にまとめるときに、投稿するジャーナルを決めてから研究をしていきますか。それとも、研究をして、まとめきったところで投稿するジャーナルを選びますか?
↳追加で、研究がどこまでいったら、「投稿する」というレベルだと判断していますか。
【2】投稿するジャーナルを選ぶときに、SLR、SSLA、LA、などなどいろいろな雑誌が国内誌・国際誌にあるなかで、それぞれの採択難易度や、どれに投稿するのが妥当だろうという判断はどのようにされていますか?
以上の2点です、よろしくお願いします。

回答

投稿する前にジャーナルを決めるかどうか

1については,投稿するジャーナルを決めてから研究することは今はほとんどないかなと思います。院生のときは,もう研究をスタートする時点で,これはどこの学会で発表してどこに投稿する,みたいなのを最初から決めていたと思いますね。ただ,それは院生のときはかなりバラエティに富んだ種類の本当に英語教育・応用言語学の幅広い研究に手を出していたから,というのも大きいと思います。

ただ,国内の学会誌に投稿するのでなければ締切がないはずなので,どこに出すかは別に最初に決める必要ってまったくないんじゃないかなと思います。逆に言うと,締切がある場合にはまず研究をスタートするタイミングが重要ですよね。私の経験でいうと,全国英語教育学会の紀要は10月締切だったので(今は会員ではないのでもう知らないですが),構想は前年度の春休みから練っておき,新学期スタートと同時にデータ収集,分析,そして8月にある全国大会の発表申し込みが確か5月頃だったのでそこまでになんとかざっとアブスト書ける位の状態にはする->夏に発表したら10月の投稿に向けて執筆,みたいな流れがあったと思います。

私のときは院生で国際雑誌に投稿するというのはまだまだ一般的とはとても言えない時代だったので,締切のある国内誌(=結果が基本的にはすぐに出る)である程度業績を稼ぎつつ,自信がまああるやつは国際誌にトライする,という感じだったと記憶しています。その点でいえば,これは国際誌いけるぞ,みたいなのはネタの時点(あるいは結果が出た時点)で決まっていたのかもしれません。私は院生のときに国際誌に載せたことは結局なかったのですが,就職してから出版になった研究の元は院生時代のもの,というのもいくつかあります。何回か国際誌の投稿を経験して思うことは,別に国内誌よりも国際誌のほうが難しいみたいなのはないということですね。なぜかというと,国際誌もピンキリだからです。自信がなくても,あるいは国内誌に落ちても,低めの国際誌に出したら通ることもあるので。

追加の質問の,「投稿する」レベルにあるというのをどう判断するか,ですが,それも「どこに出したいか」によるんじゃないかなと思います。例えば,心理言語学系のジャーナルだと実験1つでは基本的に載らないというところもあると聞いたことがあります。あとは,もっと内容的なことでいうと,「一本の論文として一応のストーリーはできるか」が大事かなと思います。仮に結果が自分の予測していたとおりにならかなったとしても(私の場合はほとんど予測通りになったことがない),それを解釈して一応のストーリーになっていれば論文にはなるし,論文になる=投稿するレベルにある,ということだと私は思っています。

ジャーナル選びの採択難易度など

この質問者さんがもし仮に名大の方だったら,門外不出の通称「ソルジャー・マニュアル」という文章があるので,先輩に聞いてファイルもらってください。その中に「国内の主な論文投稿先リスト」というのがあって,そこに作成者の独断と偏見で判定した難しさランキングがあります。

投稿先を選ぶときに気にするのは,難易度もそうですけど,そのジャーナルのスコープじゃないでしょうか。例えば,教育に関係があるなら言語教育系の学会誌や教育系の雑誌に出すというようなことです。例えば,国内の学会でいえば,テストが関係するなら日本言語テスト学会のJLTA Journalに出すとか,コーパスが関係するなら英語コーパス学会のEnglish Corpus Linguisticsに出すとか。

横ではなく縦でみると,まずは学会誌の中でも外国語教育メディア学会(LET)や全国英語教育学会(JASELE),大学英語教育学会(JACET)は支部や地区学会の学会誌もありますよね。全国誌よりも地方誌のほうが「基本的には通す」という編集方針でやっていると思うので,よっぽどひどいものでなければ採択はされるはずです。こういう学会に所属しているなら,学部生・院生で手始めに出してみる,というのはありだと思います。研究成果をコミュニティに広く受け入れてもらいたいと思うと,地方誌に出しても…っていうところはあると思いますが,今はほとんどの地方誌がオンラインで公開されていると思うし,昔のように紙媒体だけで出版されていたときよりは引っかかりやすくなっているんじゃないでしょうか。あとは,単に自分の名前を宣伝する意味でも,もし仮に国内で大学に就職することを最終的に目指すのなら学会活動に積極的に貢献して名前覚えてもらって悪いことは一個もないとも思います。別にそれが主目的で論文書くことを推奨しているわけではないですが,学会ってそういうところもあると思うので。ちょっと脱線ですけど,名前覚えてもらうってことでいうととにかく自分のwebsite作る,researchmap登録するとかして,名前で検索されたときにその人がどんな人かがわかるようにするというのが超絶大事だっていうのは言っておきたいです。私も院生時代から自分のウェブサイト作ってました。

国際誌はもう純粋に教育系かそうじゃないかで結構分かれるような気がします。言語学系の研究ならLTRとかSystem出すのはちょっと違うかなみたいな。たぶん一般的によく言われることですが,「自分の研究と似たような研究がよく載っているところを選ぶ」と言い換えられるかもしれません。SLR,SSLA,LA(と略される雑誌はLanguage AwarenessとLanguage Acquisitionがありますが,この並びてきに後者ですかね)と並んだら,そりゃやっぱりSSLAから出すんじゃないでしょうか(私は何回か出してますが落ちたことしかないです)。そういうこと言えるのも,私が任期のない職についていて,業績競争の渦中にいないからかもしれませんけど,基本的には上からどんどん出していって,どっかで引っかかれば,っていう感じで私はやりますかね。とはいえ,例えばLLからスタートするような研究だと,「まあ通りはしないだろうけどフィードバックは仮にdesk rejectでもエディターからでももらえるし無料だしいっか」くらいの感じでやってます。SLRに通ったやつは,BLC(desk reject) -> LL (desk reject) -> SLR (major -> major -> minor -> accept)って感じでした。いやLLから出してないやんけってなりそうですが,私は初めて投稿した国際誌がBLCだったので,なんか思い入れがあってBLCに出したのですが,ダメで,「ほんならもうLLいっとけー!」ってなってLL出してダメだったって感じです。

私も国際雑誌投稿の経験がそこまであるわけではないですが,レベルが高くない雑誌のほうが通りやすいかというとそうでもないということは多分あって,そういうことを言われたこともあります。実際に,2019年にApplied Psycholinguisticsに出版された論文はそこよりもSJRのランキングでいうと下のところに出してリジェクトされたあとにApplied Psycholinguisticsに出して採択されました(最初に出したのはBLC)。

あとは原稿のタイプや語数なども考慮する要因に入るかなと思います。実験研究ならどのジャーナルでも基本的には受け付けていると思いますが,Opinion Paperみたいなやつは,その原稿の種類を受け付けているジャーナルとそうではないジャーナルがあると思います。今だと追試研究というセクションがあるかどうかというのもあるかもしれません。例えば,SSLAにはCtirical Commentaryというセクションがあり,語数はマックスで6000語です。

Critical Commentary. These manuscripts are shorter essays (i.e., non-empirical) motivated by current theory and issues in second and subsequent language acquisition or heritage language acquisition, including methodological issues in research design and issues related to the context of learning. Maximum length is 6,000 words all-inclusive (i.e., abstract, text, tables, figures, references, notes, and appendices intended for publication).

https://www.cambridge.org/core/journals/studies-in-second-language-acquisition/information/author-instructions/preparing-your-materials

SSLAのCritical Commentaryに相当するSLRの原稿タイプはResearch Notesだと思いますが,こちらは語数は4000語とかなり短めです。SSLAでいうResearch ReportsやReplication StudyもSLRだとこのResearch Notesに含まれると思います(下記引用)。

(b) Research Notes (4,000 words) 

Research notes are short reports and discussion papers of interest to the Second Language Research community. Research notes also include original research and follow the same outline as above but should be highly focused on one specific question related to SLA. Research notes may include replications of previously published studies.

https://journals.sagepub.com/author-instructions/SLR

Language Acquisitionにはこれらに相当する原稿タイプがあるかというと,Brief articlesになるのかもしれませんが,SSLAのCritical Commentaryのようなところに出して落ちたやつをLAのBrief Notesに出して受け入れられるかっていうとどうかなというところでしょうね。

*Brief articles must report original empirical findings, major theoretical advances, or crucial developments that warrant rapid communication to the developmental linguistics community. As in the main section of the journal, manuscripts on all areas of language acquisition are welcome and will be selected on the basis of sound argumentation, theoretical evidence, and methodological rigor. A submission to the Brief Articles section should conform to the same requirements as an article with the following exceptions: The manuscript should not exceed 15 double-spaced pages, including footnotes and references. Inclusion of experimental materials is not required in the manuscript, but it is recommended that published articles make their materials available for review on the world wide web.

https://www.tandfonline.com/action/authorSubmission?show=instructions&journalCode=hlac20#article-types

おわりに

こういう話も私がどうやって学んだかっていうと,身近なところで情報収集して(主に福田さんから聞いてた)ような気がしますね。本当なら,指導教官の先生とか,院生仲間(先輩含む)からこういう話聞ける環境だといいんでしょうね。あとは,たまに学会で会う国際誌投稿が豊富な方々からも国際誌の投稿・査読の経験の話なんかはよく聞いていたかもしれませんね。ぜひ,学会でそういう「国際誌でよく名前を見る人達」を捕まえて投稿経験を聞きましょう。もしも,いやそういう人たちに話しかけるのは恐れ多い,ということなら,誰にでもニコニコ対応してくれる福田さんに聞いてみましょう。あ,でも福田さんは英語教育系の学会にはいないからな…。そうだ,福田さんに会えるかもしれない学会が…!(子どもがいるから行けないかもしれないけど)

おあとがよろしいようで。

質問したい方はどうぞ。

https://querie.me/user/tam07pb915

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

専門書についても通読した方がよいですか

はじめに

Querie.meでいただいた質問シリーズ。

質問

修論をやっていて、論文はともかく専門書については、関係するチャプターだけ読むとか、関係するところをindexからさかのぼって読む、ということは多くやっています。他方で、専門書についても通読した方がよいのかな、と思うことも多くあります。何をうかがいたいかというと、①通読はどれぐらいするべきか、②通読する機会はどうやって確保しているか、③最後まで読むためのノウハウ的なものを教えていただければ幸いです。

回答

これ,矢野さんにも全く同じ質問されてましたよね…?矢野さんの回答でご自身の満足する回答を得られなかったために私にも質問されていると思いますが,さすがに質問丸コピはわざわざ答えてくださった矢野さんにも失礼ではないかと思いました(もちろん,丸コピの質問を横流しされた私もいい気はしないです)。

よって,この質問には答えるかどうかめちゃくちゃ迷ったのですが,ブログで答えることにします。普段こんなこと絶対言わないですが,この手間をかけて質問に答えることに色々思いを馳せてくださいね。

「専門書」の認識が一致しているか

まず,専門書って言ったときに,何を想像するのかっていうのは一義的に決まらない気もするので,そこから。論文との対比なので,論文以外の書物が専門書に含まれるのかな,と最初に解釈しました。そうなると,いわゆる分野をざっくり概観するような書籍,例えば私の分野であれば,Second Langauge Acquisitionがタイトルに含まれていて,大学の授業のテキストにも採用されそうな第二言語習得をある程度網羅的にさらっているような書物も含まれそうだなと思ったのです。もちろん,そういった書籍の中にもかなり入門向けのものなから,割と歯ごたえのあるものまで多少の幅はあると思います。

もし仮に,そういう分野を概観するようなものも質問者の方の「専門書」に含まれるとしたら,次のセクションをお読みください。そうではなくて,もっとトピックを限定して,そのトピックだけをかなり掘り下げて書いているような書物のことを「専門書」と呼んで質問しているなら次のセクションはスキップしてもらって構いません。

概論書は何冊でも読んでいい

ガチガチの専門書ではなく,ある程度ライト層(大学院生や学部生)も読者層として考えられているような,いわゆる入門書レベルの本(とは言っても新書とか一般書ではなく)であれば何冊でも読んだ方がいいと思います。

というのは,論文何本読んでもその分野の全体像が見えて来ないので,自分のやってる研究が全体のどこに位置していて,全体で解決すべき問題のうちのどの部分を扱っているのは論文を読んでいるだけでは把握できません。学術論文であれば,そんな広いところがイントロのスタート地点にはならないでしょうけど,学位論文になったらある程度広いところからスタートすると思うんですよね。その方がディスカッションも広がると思うし(ここは議論分かれそうですが)。なんでその研究が大事なの?とか,その研究の意義とかっていうのは,私は俯瞰的な視点からも考えられるべきだと思っています。よって,特に研究を始めて間もない頃ほど入門書読み漁るのがいいと思います。

専門書を読むかどうか

いや,入門書じゃなくて,もっと扱ってるトピックが狭い専門書のことです,ということであれば,その専門書がどんなものなのかとか,なんの目的でその本を読むのか,みたいなところも関係するかなと思います。どの分野の修士課程やられているかわからないので,例えにしっかりきてもらえるかわからないのですが、私の例でいいますね。

私は修士論文が意識高揚タスクと呼ばれる類のタスクを行うことにより、目標言語項目への「気づき」が促されるのかというものでした。このとき、意識高揚タスクが自分のフォーカスだからといって、例えばもっと大きな枠組みのTask-based Language Teachingの専門書を通読したことがない、というのはちょっと心許ない感じがしますよね。Ellis (2003)くらい読んでるだろう普通みたいな。この領域の研究をするなら,これは誰しもが読んでいるだろうみたいな専門書って割とある気がするんですよね。スピーキングの研究やってるならLeveltは絶対に読んでいるはずとか,Lingua Franceの研究やっているならJenkinsは読んでいるはずとか。とくに,複数著者がチャプターを書いているcollectionぽいものではなくて,単著または共著で一冊の本を書いているタイプのやつです。チャプターごとに著者が異なるやつだと,割とチャプターごとに話が変わるので,チャプターつまみ食い的な読み方でもいいのかなとは思うのですが。自分の領域の論文を読んでいて,多くの論文で引用されるような文献が書籍であったら,それは読んだほうがいい専門書だという気がしています。

②通読する機会はどうやって確保しているか

私自身を振り返ると,やっぱり授業のテキストとして指定されているから読むとか,研究会で輪読するから読む,が多かったかもしれません。修士課程のときは読むことしかやることがなかったというかとにかく暇さえあれば図書館に行って読むという日々だったので自分のど真ん中ではない本も読んでいたと思いますが(それこそ言語政策の本とか)。D1の時でもM生の人たちと一緒に授業とってテキストに指定された本を通読していましたし,同じSLAの授業でも別の先生が担当している授業を複数取ったりしていました(今考えると,そんな贅沢な環境にいた,とも言えますね)。

あとは矢野さんもおっしゃっていたように,仲間を誘って読書会開くのもありだし,すでに開催されている読書会に参加するのもありでしょう。指導教員の先生にそういった会の開催を相談してみるのもありなんじゃないかと思います。私がもし自分のゼミ生にそういう相談をされたら自分が忙しくてもやろうやろうってなると思います(ゼミ生を持つことが今後あればの話ですが)。

③最後まで読むためのノウハウ

これを聞くということは,ノウハウがなければ通読はできないっていうことなんでしょうかね。正直,それは知的体力みたいなものかなと思うのでなかなか難しいですね。研究者を目指していなかったとしても,本を通読する知的体力がない人よりは絶対にある人のほうが今後の人生にその力が活かせるでしょうし,それを養うのも大学院という場所かなという気もしています。

通読できないのはなんでその本を読むのかという目的がはっきりしないという可能性もありますので,その本を読むのはなぜなのか,どういうことを理解するために必要なのかを最初に明確にしてから読み始めることも有効かもしれません。

あとは,私はブログ書くというアウトプットを目指して論文や本を読んでいた時期もありました(今はちゃうんかい)。レビューのようなレベルまで行ってたわけではなくて,単なる読書感想文止まりの拙い文章でしたけど。アウトプットするために読もうとなると,自分の理解も必然的に深まりますしね。これは単なるアウトプットではなくて,誰かに見られる文章を書くというのがポイントです。自分しか見ないのであれば適当になってしまいますから。それに,業績にはならなくても自分が何からの本を読んでその概要や考えたことをまとめたものというのは,公開したら絶対に誰かに読まれてどこかで誰かの役に立つことがあると私は思っています。

おわりに

質問者の方の知りたいことにストレートに答えられているかはわかりませんが,私からの回答は以上です。修論頑張ってください。

質問したい方はどうぞ。

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なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

文法項目別に配列されたインフォメーションギャップ活動が載っている本知りませんかという質問(回答:知りません)

はじめに

Querie.meでいただいた質問シリーズ。回答遅くなってすみません。

質問

中学校・高校の英文法指導で、インフォメーションギャップのある活動を行いたいのですが、文法項目別にそういったアクティビティが配列されているものはご存じでしょうか? 日本語で書かれたもの、英語で書かれたものどちらもご存じでしたら教えてください。 先生が執筆されたテキストも熟読のうえ使わせていただいているのですが、タスク型(文法対応にはなっていない)ところ、まだ私は使いこなすことができていません、、、。 お手数ですが、ご回答いただければ幸いです。

回答

一言でいうと,知らないです。本屋さんに行くのが一番いいと思います。

ただ,それだけだとすごく冷たい感じになるのでもう少し。

まず,そのインフォメーションギャップのある活動をなんの目的でやろうとしてるのか考えてみてほしいです。インフォメーション・ギャップがあることをなぜ求めているのか,という点も含めて。文法指導の一貫なのはそう書かれていらっしゃるので自明として,文法知識のどの側面を学習者に学んでもらいたいのか,あるいはどういうスキルを伸ばしたいのか,というか。どの文法項目についても一律に同じようにインフォメーション・ギャップ活動を仕掛けて,特定の項目を学習者の口から頻発させたいという欲望が感じられると(質問者の方がそうだとは断言しませんが),私としてはめちゃくちゃ違和感あるんですよね。文法ってそういうものだったっけ?というか。どういうシチュエーションでどの文法を使うのか,ということを考えさせること(その逆も然り)だって,何回も口から出すことと同じかあるいはターゲットの文法によってはそれ以上に大事なはずなんですけどね。とか言っていると,亘理先生がやってきそうです。そうだ,亘理先生の文法(指導)関係の記事もぜひ読んでみてもらいたいです(最近はあんまり文法指導だけをテーマにした記事はないかもですが)。私なんかよりも圧倒的に文法指導に見識があると思います(もしかすると御本人はそういう英語教育寄りのところから今後の研究者としてのキャリアの軸足を移そうとなさっているところもあるかもしれませんが)。

文法の練習させる活動って,その文法自体の何を練習させたいのか,意味・形式・機能のどこにフォーカスさせるかも関係している話ですし,正確さに焦点をあてたいのか,あるいは流暢さに焦点を当てたいのか,という選択肢も活動の選択には関係してくるでしょう。そういう意味では,文法それ自体への理解を深める意味も込めて、The Grammar Bookを読んで、章末のアクティビティから着想を得て(そのままやるということではなく,そこをヒントにするということです),活動を設計する,というのもありかもしれません。

私自身は,もちろん環境もありますけど,なんらかの文法をターゲットにして活動しようというニーズがないので,文法項目別に並んでいる本のことはわからないです(教材集めが趣味でもないし,最近は特に英語指導に関する実践的な興味は昔より薄いです)。昔は高島先生の本とかありましたけどね(あそこに掲載されてるやつが全部面白いかは別ですが)。私が持っているいわゆるアクティビティ集(Activities for Task-Based Learning, Discussions and more, New ways in teaching speaking)を見てみても,文法項目別になっているものはありませんでした。『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』がそうしているように,targetになりうる文法項目が書いてある,という例はありましたけど。『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』は,書名やまえがき(本書の背景と構成,活用方法),第1部から明らかなように,「タスク」を提供しているわけで,文法指導のアクティビティ集ではありません。ただ,それぞれのタスクに「言語表現」というセクションがあり,このタスクをやるとこういう言語表現の表出が見込まれる,という記述はしてあります。その部分をp.258以降で逆引きできるようにもしています。ただし,その言語表現を使わないと絶対に課題が達成できないというものではありません。そういう課題をやることは,コミュニケーション活動を通して文法学習(指導)をすることにはならないのか,というところは意見が分かれるところかとは思いますが,私は,そういう課題を通してでも文法の学習・指導は可能だし,何ならコミュニケーション活動と文法指導を完全に分離してモジュール型のカリキュラムにしたっていいとすら思っています。

私としては,ある特定の文法(そして多くの場合その特定の文法項目は一つ)が頻出するような課題は実際のコミュニケーションとは乖離が生じる可能性が高いと考えています。というか,そのパターンで全部の文法項目の指導ができると思わないほうがいいというか,そういう発想の転換が求められるというのは間違いないと思います。

あとは,anfieldroad先生のブログを調べて探してそこからアイデアを得るというのもありうると思います。個人的には,anfieldroad先生のNewsletterに登録して文法指導関係のコンテンツを片っ端からインプットすることもおすすめしたいです。文法ターゲットにした活動って基本つまらなくなりがちなイメージがあって,変にコミュニケーション活動「らしさ」求めると特にそうなりがちなんですが,anf先生の活動は面白いなぁというのがやっぱり多いですよね。なにより,anf先生自身が「文法の練習」を面白くしたい,という狙いで構想しているのが良いです。

おわりに

あまり有益な回答できなくてすみません。

質問したい方はどうぞ。

https://querie.me/user/tam07pb915

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。